milestone ブログ

milestone ブログ

小説 「君に何が残せたのかな」-12



朝起きたら体調は最悪だった。
頭痛からか思考がまとまらなかった。
君塚が作ってくれたパワーポイントの資料を見ながら手持ち資料を見ていた。
プレゼンする内容は頭に入っている。だが不定期な激痛が私を襲う。
大丈夫だろうか。
私は不安を抱えながら客先へ向かった。

「おはようございます」

声をかけられた。
黒い髪に眼鏡の若い男性。
一瞬誰かわからなかった。
私が戸惑っているとその男性は話し続けてきた。

「君塚ですよ。
 昨日言われたので急遽かつらで髪を隠しました。
 目は無理なので眼鏡でごまかしています。
 結城さんの心配はないですよね」

君塚だった。
昨日言った容姿のこと、話し方のことをすぐに直して来ていた。
今まで外見でどれだけ損をしてきたのだろう。
私はそう思った。

客先に言っても君塚の話し方は問題なかった。
ただ、問題だったのは客先のほうだ。
当初の要望と大きく異なってきている。
基本設計からやり直しだ。

客先を出て、喫茶店に入った。
君塚がトイレにいって、かつらと眼鏡を取って戻ってきた。

「いや~結城さん。
 あの客先。アレないっスよね。マジ引きましたわ」

風貌と一緒に話し方も戻っていた。
ある意味容姿を変えるから全てを演じられるのかも知れない。
そう思うことにした。
君塚は私が黙っていると肯定と捕らえて話し続けてくる。

「あの要望だったら根底から変えないとダメっすよね。
 んで、ちょっと思ったんっすけど、前にナブラがやっていた基幹システムで
 客先都合でお蔵入りになったヤツがあるんですけれど、そのシステムの一部を
 ぶっこんでみようかと思ってるんっすよ。
 DB内のパスは今メールしたんで見て欲しいんっすけどいいっすか?」

君塚がそう言ってきたので私はノートパソコンでそのシステムを開いてみた。
確かにこの内容だと流用できるかも知れない。

「いいかも知れないな。
 再度会社に戻ってミーティングだな。ナブラにメールしておくよ。
 それと、明日私はちょっと私用でいないからよろしく頼む」

私は君塚に指示をメールして、喫茶店を出た。
おそらく君塚なら大丈夫だろう。
それにm明日は病院へ行かないといけない。薬も貰わないといけないし、病状の進行状況の確認もある。
といっても、先週の検査結果を見せてもらうだけだが。
1週間遅れて自分の現状の確認。おかしなものだ。

家に帰ってパソコンを立ち上げた。
コメントがかなりついていた。

「あんな変なコメント気にしないで下さい」
「ブログ続けてください」
「苦しんで悩んでいるのわかります。あなたにとっていい選択をしてください」

コメントで励まされている。
不思議なものだ。
私はコメントをみてちょっと笑ってしまった。

【タイトル 残り172日】

多くのコメントを頂いてありがとうございます。
なんだか元気になれました。
明日は病院です。

【タイトル 残り171日】

病院に行きました。
検査の結果は異常値が出ていることが現実だって教えてくれます。
徐々に体が悪くなっているのが解ります。
最近は、元気な時もありますが頭痛がひどい時の方が増えてきました。
夜が眠れなかったり、色んなことを考えてたまに泣いてしまうときがあります。
仕事を続けているため、薬はどうしても弱いものしかのんでません。
それと、最近は昔を思い出すことが多いです。
色んなことがあったけれど楽しかったと思います。
週末彼女に会います。
最近、彼女にどう接したらいいかわからなくなってきています。
メールや電話でいつもしないことを言ったりしてしまうので。
彼女が泣くのだけは避けたいんです。
笑顔でいれる未来があればいいんですけれどね。

【タイトル 残り170日】

今日は一日ミーティングでした。
前に進まない会議。なんだかもっと自分がすることがあるのではと
思ってしまう。
鬱になりそうです。

~日比谷 side~

日比谷は気になっていた。
最近、結城の言動がおかしくなってきていることが。
この前病院の結果をメールで聞いたときにかなり結城の様子がおかしかったのが解った。
だからこそ呼び出してしまった。
綾と篠塚を。
仕事が終わって日比谷は新宿へ向かった。
Gapの近くで待ち合わせ。
そういえば、よくこの場所であおいとも待ち合わせしたな。
待ち合わせ場所には篠塚がいた。
黒いさらっとした長い髪。
遠くから見るとどうしてもあおいを思い出してしまう。
いや、いつか名前を間違えて呼びそうになってしまう。
日比谷は少しだけ篠塚を避けていた。
多分結城のことがなかったら自分から篠塚に連絡などしなかっただろう。

「お待たせ。綾は?」

日比谷は篠塚に声をかけた。
綾は近くにいなかった。
前みたいに綾がいきなり声をかけてくるのかと思っていたが綾はいなかった。
篠塚が話してくる。

「綾はちょっと遅れるんだって。
 だから先に店に入っていて欲しいって言ってたよ。なんか店を予約しているから
 先にいっておいてだって」

篠塚とついた先は新宿の西口になる伊勢門という店だった。
この場所なら待ち合わせは違うところの方がよかったのではと思った。
それくらい歩いていた。
途中色んな話しをした。
最近の映画で何が見たいかとか、仕事で上手く行っていないこと。
本題を避けるかのように篠塚は話しをしてきた。
日比谷自身も避けたがっている。
結城がプロジェクトに入ったためなかなか連絡をとっていない。
毎回そうだ。特にプロジェクトに入った当初は資料つくりに奔走すると聞いていた。
だから日比谷はあまり連絡を取らないようにしていた。

伊勢門という店は松坂牛やあわびなど豪華食材が食べられる居酒屋だった。
個室はなく、カウンターとテーブルがある。
重い話をするのなら個室が良かったけれど、篠塚と暗い個室にいると、名前をいつか呼び間違える不安が日比谷にはあった。
こういう店の方がいいのかも。
日比谷はそう思っていた。

店に入ると綾がいた。

「遅いよ。二人とも」

西新宿で働いている綾にはGapより西口近くの店の方が近い。
仕事で遅くなるから西口の店を選んだんだろう。
日比谷はそう思った。
西口はあまりあおいとの思い出はすくないし、助かるとも思った。
ひょっとしたら綾が気を使ってくれたのでは。
そんなことがふと頭をよぎった。

「ごめんね」

篠塚がそういう。
他愛もない話題で盛り上がる。
そう、結城もつらいけれど綾も辛いはずだ。
笑っている綾はどこか寂しそうにも見えた。

「なあ、次はいつ結城と会うんだ。
 だいたい1ヶ月に1回のペースであっていたんだろう」

日比谷はそう話しかけた。
残された時間は限られている。日比谷はもし自分があおいを失うって解っていたらどう過ごしただろうって思っていた。
多分、思い出をいっぱい作りたかっただろう。
結城だって、綾だって、同じはずだ。
日比谷は恐る恐る綾を見た。
綾は笑顔でこういった。

「大丈夫。私何があってもゆっくんを受け止めるから。
 だって、思い出す顔が泣き顔ばっかりじゃ辛いでしょ。
 だから、最後まで私がしっかりしなきゃいけないものね」

綾は気丈に振舞っていた。
だが、日比谷にも篠塚にも解っていた。
綾は無理をしているって。
篠塚は綾を抱きしめながらこういった。

「いいんだよ。今くらい泣いたって。
 今は素直になっても誰も綾を責めないよ」

そのセリフで綾は一気に泣き崩れた。

「やっぱ、イヤだよ。ゆっくんがいなくなるの。
 悪い夢だって思いたいよ。でも、事実なら受け止めなきゃ。
 私が笑顔で受け止めなきゃ。ゆっくんだって辛いだけなのに。
 だから私は出来るだけゆっくんと一緒にいたい。ゆっくんが本当のことを話して
 くれても、くれなくて。
 だって、私にとってはゆっくんが全てだから」

泣き崩れる綾は篠塚を抱きしめながらこういった。

「ねえ、あおい。私大丈夫だよね」

日比谷はその時気がついた。
あおいがいなくなって辛かったのは自分だけじゃなかったということを。
日比谷は篠塚を見たが何も言わず、綾を抱きしめていた。

みんな何かを乗り越えようと必死なんだ。
日比谷はそう感じた。
記憶に残るのなら笑顔がいい。
結城も同じことを思ってくれたら。

そう思いながら日比谷は遠くを眺めた。
残りの時間を後悔させたくないと思いながら。
結城も、綾も、そして、日比谷自身も。


【タイトル 残り169日】

明日は彼女とデートです。
残りわずかだけれど、ケンカして別れるのだけはしたくない。
ワガママかもしれないけれど、彼女には笑顔を思い出して欲しい。
だから、笑って別れを迎えたいって思いました。
ただ、死に目にだけは立ち会って欲しくない。
自分がどんどんワガママになっていっている。
ただ、別れると考えたら無性に涙が止まらなくなって
やっぱり自分は彼女が好きなんだって
思い出を紐解いて感じました。

[ 次へ ]



「君に何が残せたのかな」-13へ移動


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: