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トリップ -9
「どういうことだよ」
私は片岡の話を聞いてびっくりした。綾瀬に子供?あの時、綾瀬はおろさなかったのか。いや、それでもいい。綾瀬がおびえているのなら、すべてを受け止めたい。私は、覚醒しきっていない、あたるも片岡も置いて綾瀬のマンションに向かって走り出した。もう自分で自分を制御なんて出来なかった。
綾瀬のマンションについたとき。もう秋なの11月なのにに私は汗だくになっていた。
電気がついている。綾瀬がいることがわかった。インターフォンをならす。はやる気持ちをとめられなかった。禁断症状からじゃない。誤解が、すれ違いがあったことをどうにかして解決したかったんだ。
「どうしたの?」
綾瀬が扉を開けてくれた。ドアチェーンはかかったままだった。まとまらない思考は少しずつだけれど、綾瀬に伝えられた。ゆっくりと、ゆっくりと。
そう誤解をしていたこと。片岡から聞いたこと。そして、綾瀬が好きなこと。全てを伝え終わって私は綾瀬の方を向いた。聞きたかった。綾瀬の気持ちを。けれど、綾瀬は下を向くだけで何も応えてくれなかった。永遠に続くかと思ったその静寂。けれど静寂を打ち破ったのは携帯だった。あたるからだ。
「陸、どこにいるの片岡が変なんだ早く来て」
すごく焦っているあたるからの電話に私は0.004mgの影響が起きていると思っていた。綾瀬と二人で合宿所に戻った。合宿所につくと片岡は仁王立ちになっていた。
「おい、陸どういうことだ」
振り向きながら片岡は微妙に体をびく、びっくってさせていた。ほっぺたもビクビク震えている。その近くに片岡に殴られたのだろう。あたるが鼻血を流しながらうずくまっていた。
「一体おれの体に何が起こっているんだ」
片岡の手がわなわなと震えている。酸素不足からの影響かも知れない。いや、心臓かも知れない。どこかに問題が生じているのが解る。ある意味禁断症状が起きていたときに近いのかも知れない。いや、精神的に負荷がかかっているのかもしれない。とりあえず、感情のコントロールがきいていないこと、それだけは解った。
「陸、片岡に何をしたの?」
あたるは恐る恐る話してきた。おそらく覚醒した後片岡は自分に起きた事、今までと違うことが起きて私がいないことに気がついたのだろう。先に覚醒してたあたるにそして当たったのだろう。そして片岡は気が付いていた。多分、私が何かをしたことに。片岡は一回私たちのいないところでエンジェルミスとを使っていた。そう、昨日までは片岡が持っていたエンジェルミスとは0.007mgだった。そして、さっき0.004mgを使った。けれど、残りが少ないと怪しまれるから、私は私のエンジェルミスとから0.001mgだけたしておいたんだ。
あたるは覚醒するまでの過程がおかし過ぎるから何かに気が付いている。そして、今の片岡の症状。明らかにどこかの器官に影響が出ている。
「お前、何か試しやがったな」
片岡が叫びだした。
「そんなに俺が信用できないのか。なら、出てってやるよ。今だから正直に言ってやる。俺はお前が嫌いだったんだ。ま、おれがこの「エンジェルミスト」を運営していたら、もっとうまくやっていたけれどな」
片岡は吐き捨ててそう出て行った。そして、試験管にまだ残っているエンジェルミスト0.004mgを渡していって消えた。
「あたる、すまなかった」
私はあたるにだけは片岡に0.004mgを使ったことを伝えた。そして、覚醒時にいつもとどう変化があったのかを聞いた。いつもと違ったのは、苦しみもなく、時間が経っても恍惚として表情のままだった。もう、戻ってこないのかと思ったくらい。でも、心肺は普通に動いていたから生きていることだけは解っていた。四分という壁。でも、戻ってこれるという事だけがわかった。試したい。でも、試すなら綾瀬とがいい。
「ねぇ、綾瀬。一緒にトリップしない?」
私はスムーズに声が出た。きちんと話しがしたかった。自分の気持ちを伝えたうえでの返事も聞きたかった。それに今の綾瀬にも禁断症状が出てきているはずだ。私は少し卑怯かと思ったけれどさっきの答えじゃなくて「エンジェルミスト」で綾瀬を誘った。綾瀬は私と目をあわさずにこう言って来た。
「いいよ。でも、ここじゃいや。あそこでトリップしない?」
綾瀬が指差した場所は私たちがいつも話し合っていた『倉庫』だった。
私はゆっくり綾瀬の手を取りながら木に登った。離さないようにしっかりと。どうしても綾瀬の手を掴みそこなってしまう恐怖感が抜けなかったからだ。木を登り、屋上についた時に綾瀬は話しかけてきた。
「ねぇ、陸は知ったんでしょ」
私はなんて言っていいのか解らなかった。直接綾瀬からでなく、トリップした片岡から聞いた。なんだか全てがフェアじゃないってわかっている。いや、そもそも「エンジェルミスト」を使って相手を知っていくという行為自体が悪いことのように感じる。解っている。その罪悪感に。私はただ今の気持ちを素直に綾瀬に伝えた。
「ごめん。本当ならば、綾瀬から直接聞けばよかったのに。最低だよな」
まっすぐに綾瀬を見ることが出来ない。いや、思考が定まらないんだ。早くトリップをしたい。まるで薬物中毒者みたいになっている。屋上の柵を乗り越えて、建物によじ登る。そういえば、昔にもこの経験がある。
いつだったのかも思い出せない。記憶がどこかでロックされている。手を伸ばして綾瀬もひっぱりつれてきた。
「ねぇ、陸。トリップする前に話しがしたいの。陸が知ってしまったんだから。それに私も陸の事を知ってしまっている。陸も知らない陸のことを」
綾瀬が不思議なことを話した。私の知らない私。いったい何のことだ。解らない。でも、正直綾瀬と話しはしたかった。手がわなわなと震えているけれど、話しをしたかった。
倉庫の窓を開ける。いつもと違って二人ともパイプ椅子に座った。
「あのね、陸になら御願いできると思うの。だから聞いて」
そういって綾瀬は話し始めた。
「陸は知ったと思うけれど私には子供がいたの。あの時、私はおろせなかった。だからそのまま産んだの。実家に預けて。でも、美紀は、あ、子供ね。美紀は体が丈夫じゃなかった。お金が必要だった。だから私はお金を求めていた。心が壊れそうだった。でも、美紀がいてくれたから頑張れたんだ。何があっても。でも、昨日美紀の容態が一気に悪くなったの。もう、お金の問題じゃないんだ。そして、そのまま息を引き取った。陸、私壊れそうだよ。私、ちょっと幸せになってもいいかなって思ったんだ。そしたら罰が当たったのかな」
遠くを見る綾瀬になんて声をかけていいかなんてわからなかった。ただ、出来たことは抱きしめることだけだった。いつもより綾瀬を細く感じた。楽しく笑っていた、あの時。もう、戻らないのかな。綾瀬は私の背中にゆっくりと手を回してくれた。気がついたら私も綾瀬も落ちるように崩れていった。
「なんかちょっと落ち着いた」
床に二人で寝転がって、寒いから毛布に包まっている。腕の中にいる綾瀬がそう言った。二人重なっている時に、泣いていた。そして、二人で出した結論は多分間違っていない。そう重なり合っている時に話し合ったんだ。これからのことを。綾瀬は私を向いて話してきた。
「でも、陸はいいの?」
私は精一杯の笑顔でうなづいた。その先に何があるかなんてどうでも良かった。ただ、今という世界から違う世界に飛びたてるのならば、いいと思っていた。それだけ。けれど、綾瀬は違ったのかも知れない。
「ねぇ、陸。これがひょっとしたら最後のトリップになるかも知れないけれど、もしね、戻ってきた時のために、お互いにビデオでメッセージを残さない?未来の自分にメッセージ残しておきたいじゃない」
綾瀬が見たこともない笑顔で話してきた。確かに戻ってこれたら世界は変わるかも知れない。
さっき片岡が投げつけた0.007mgのエンジェルミスト。綾瀬が持っている0.007mgのエンジェルミスト。そして私がもっている0.006mgのエンジェルミスト。そう、0.01mgのエンジェルミストを私と綾瀬で使おうって、それで最後のトリップをしようって、話していたんだ。
十分間の心停止。おそらく障害が残る可能性が高い。いや、ひょっとしたらもう戻って来られなくなるかも、知れない。そう、それでもいいって、さっき、綾瀬と重なり合いながら話し合っていた。いや、そこにしか辿り着けなかったのかもしれない。でも、このトリップに私も、綾瀬も、二人とも楽しみを持っていた。このトリップの向こうに何か違う世界を感じているから。だから恐怖なんてない。
「未来に向けてのメッセージか。いいね。
でも、ビデオはどこにあるの?」
私はビデオの持ち主が綾瀬だからこそ、どこにあるのかも知らなかった。持ち歩いているとも思えない。
「実はね、この前私もここに忍び込んでたの。その時に『ここ』にビデオも全部のビデオテープも。持ってきてたの。だから、大丈夫だよ。あ、陸。もし良かったら空のビデオテープだけあったら、欲しいな~別のテープで撮っておきたいから」
そういって、綾瀬は薬品棚の奥からビデオを出してきた。私もこの倉庫に色んなものを隠していた。確かに良く見たら色んなところが整理されている。
だから隠せたのか。私はそう思いながら、綾瀬が楽しみながらビデオカメラを持ってきた。
「陸からメッセージ残してね。入れ終わったらさ、トリップする準備しておいて。私が終わったら一緒に逝こうよ」
綾瀬の、その時の、笑顔が忘れられない。多分、今まで見た綾瀬の笑顔の中で一番かわいかったのかも、知れない。私は綾瀬から離れてメッセージを入れるためにビデオをセットした。
「未来の私へ」
そう、ちょっと言って話すことなんて考えていなかった。だから、本当に戻って来れるのなら、世界が変わっているのなら、その自分に向けてメッセージをと思って話しかけた。未来の自分に。
「未来の陸へ
君は今笑っていますか?
君が今戻って笑っているのならば、横に綾瀬はいますか?
今の私は抜け出せない袋小路にいたのかも知れない。
どこで何を間違ったのかなんて、わからない。
いや、間違った時はわかっているのかも知れない。
でも、それを認めたところで、時は戻ってくれない。
私は前にも後ろにも進めなくて、
ただ、袋小路の中で今を忘れたいだけだったのかもしれない。
そして、自分と同じように袋小路で足掻いている人をみて
救われていたのかもしれない。
でも、このトリップを決意したのは、何も選べなかった私じゃない。
だからトリップをするんだ。
けれど、多分。
一人じゃこう思えなかった。
綾瀬がいてくれたから、私はこのトリップを選べたんだと思う。
戻って来れなくてもいい。
だって、刹那かも知れないけれど、
綾瀬の心に触れられたのだから
そう、私は一人じゃなかったんだから。
未来の私へ。
君は今幸せですか?
袋小路から抜け出せて、あの空を駆け抜けるように
あの世界のように心地よく
今を過ごしていますか?
もし、未来の私にメッセージを伝えたいのならば、
もう、逃げるなんて事をしないで欲しい。
トリップなんかじゃなく、かっこ悪くても
今という世界にしがみついていて欲しい。
そして、綾瀬を守って下さい。
以上」
なんか、考えていなかったら思考がまとまらなかった。見返したら変なことを言っているだけなのかも知れない。なんか、未来の自分がこのメッセージを見ていると考えたらちょっと面白いかも。苦笑いをしながら、私は綾瀬にビデオカメラを渡した。
「入れ終わったよ」
ういいながら、注射器を煮沸して用意をした。ただ煮沸しているだけだと時間があるから、横でコーヒーも入れておいた。ビーカーでコーヒーを飲む。ここを使うようになってからの癖だな。はじめは抵抗があったが、よく考えるとエタノールで消毒をしているのだから、洗剤であらうより雑菌もない。見た目が実験器具なだけ。綾瀬の分も作っていたが、綾瀬はなかなか戻ってこなかった。
そう、私はこの時、時間があったからなのかも知れない。いや、魔が差しだけなのかも知れない。私は均等にエンジェルミストを分ける予定だったのに、分けなかった。0.001mgだけの差。けれど、その差をつけてしまった。
やはり綾瀬には生きていて欲しい。私はそう思っていたんだ。だからこそ少しだけだけれど、差をつけたんだ。まだ、綾瀬は戻ってこない。私は手紙を書いていた。
「綾瀬へ
先に目を覚ましているだろう。
これは私のエゴなのかもしれない。
綾瀬には笑顔で今という世界を
これからという世界を生きて欲しい。
私は目を覚ましても、覚まさなくても
綾瀬の近くで
見守っているから
大原 陸」
めったにしない変形折りをして綾瀬の上着のポケットの奥にそっと入れておいた。
コーヒーを飲み終わって、綾瀬が戻ってきた。
「あ、陸だけずるい。私にもコーヒー入れてよ」
私はそういわれて、用意していたエンジェルミストを机の上において綾瀬にコーヒーを入れた。
「はい、ミルクと砂糖も入れておいたからね」
そういって、コーヒーを綾瀬に差し出した。
「ねえ、陸。もしだよ、もし陸だけ戻ってこれたらどうする?私が戻ってくるまで待っていてくれるのかな?」
綾瀬はコーヒーを飲みながら変なことを言って来た。
「もちろん、待っているよ。戻ってきたらね。綾瀬はまってくれるのかな?」
何気ない会話。私たちはでも、この先に待っているものを解っている。楽しく話しをして、そして、トリップをし始めることを決めた。
「ねぇ、一緒に逝こうよ」
綾瀬がそう言ったから、綾瀬にも注射器を渡した。お互いの腕にお互い注射器を刺す。
「トリップするまで抱きしめて」
綾瀬の言葉に私はうなづいた。そして、私たちはトリップした。超えてはいけない壁の向こうに。徐々に視界がぐにゃりとゆがんでくる。そう、トリップの始まりだ。綾瀬の目の焦点も合っていない。私は綾瀬を抱きしめながらキスをした。力いっぱい。唇の柔らかさを感じた時にはもうトリップしていた。
光の中。優しく受け止めてくれている。気が付いたら、横にあたるがいた。楽しかった、子供の時。木々の中、変な建物の中にいつも白い服を着た、髪の長い女の子がいた。
ちーちゃん。私とあたるは三人で話すのが楽しかった。
「光に満ち溢れた世界があるんだって」
ちーちゃんはいつもそういっていた。楽しかった。そこは確かに居場所があった。どこにもなかったのに。
いつも楽しそうに話しているちーちゃん。そう、白衣の人たちがちーちゃんを迎えに来るまでは、その時間は永遠だった。その時、その瞬間、ちーちゃんの顔はいつも曇っていた。だから、あたると話したんだった。一回ちーちゃんを連れてどこか遠くに行こうって。白衣の人たちが迎えに来ても、見つからないところまで。でも、すぐに見つかってしまった。それからちーちゃんは外出させてもらえなくなった。窓から見せる顔は日に日にやつれていった。窓から手紙が投げられた。
私はその手紙を見て、木に登った。ちーちゃんのいる部屋近くまでいって、小石をぶつけた。笑顔のちーちゃんは窓を開けて、手を差し出してくれた。でも、その手をつかめなかった。そして、ちーちゃんは空を飛んだんだ。下にいたあたるをめがけた。あたるはちーちゃんの最後のセリフを聞いたらしい。
「ありがとう」
だった。それから私たちはあの場所は秘密になった。私はあの場所にいけなかった。あたるは毎日行っていた。言いたかった。ちーちゃんに。「ごめんね」って。今だからようやくいえるんだね。光の中にいるちーちゃんに出会えた。光は暖かく私を包み込んでくれた。私はその世界に救われていった。
気が付いたら見たこともない天井を見ていた。腕には点滴がささっていた。どうやらここは病院らしい。
「あたる・・・?」
私の目の前にはあたるがいた。私と綾瀬が翌日見当たらないということで、探したらしい。そして、病院に搬送された。私はあたるに聞かせてもらった。大変な問題になっていたこと。そして、私と綾瀬が死に掛けていたこと。
「あたる、綾瀬は?」
私はそう聞いた。私が戻ってこられたということは、私より少量だった綾瀬は先に目が覚めているはずだ。私はそう信じていた。だが、あたるは首を横に振るだけだった。症状がひどくて、違う病院に搬送されたということだけはわかっている。けれど、どこの病院かまでは教えてもらえなかったとのこと。
嘘だ。私より少量のエンジェルミスト。トリップが私よりひどいなんてことはないはずだ。確かに人それぞれ、脳に残る影響は違うだろう。私は何かを間違えていたのだろうか?あたるに聞いた。
「私と綾瀬は二人でトリップした。その時、片岡のエンジェルミスト0.007mgと綾瀬の残した0.007mgそして、私の0.006mgで二人して分けたんだ。私の0.006mgを二つに分けて。0.01mgを二つ作ったんだ。でも、私は綾瀬に生き延びて欲しかったから、私の分だけ0.001mg多くしたんだ。それなのに、なぜ・・・」
私は混乱していた。あたるが真実を教えてくれた。
「片岡は使っていたから、片岡の残りは0.004mgだよ。だから二人のエンジェルミストの量は違ったんだ」
私はその真実を聞いて愕然とした。私はどちらを綾瀬に投与したんだ。覚えていない。
でも、私が戻ってこられて、綾瀬が戻ってこられていないのならば、結果は明らかだ。
そう、私は綾瀬に生き延びて欲しかったのに、綾瀬に多くを投与してしまったんだ。
私は徐々に回復していった。障害は一部残っていた。言動や肉体的には問題ない。ただ、ちょっと記憶があやふやになるらしい。それくらいなら普通に生活できる。綾瀬は一体どこで何をしているんだろう。私は知りたかった。だからどうやったら綾瀬に会えるのかを考えていた。だけど、何も解らなかった。
あたるにビデオのことを聞いた。そして、最後のビデオを見て私は涙をしたんだ。そう、綾瀬が最後に残したメッセージを聞いて。
ビデオをつけると、そこにはにかんだ綾瀬が画面いっぱいに映っていた。倉庫から少し離れたトイレで取ったんだろう。タイルがバックに映っていた。ビデオに映っている綾瀬は不思議なくらいキレイでそして、何かを思い出させた。綾瀬はゆっくりと話し始める。
「未来の私になんて
メッセージなんて照れるね。
私は、もう少し前に出会いたかった人がいる。
いや、ひょっとしたらもうちょっと後の方がよかったのかも知れない。
その人は、すごくはかなげで弱くて、
でも、頼りになって。
なんで、この人好きになったんだろうって思った。
陸。
あなたのことよ。
多分あなたは優しいから私と一緒に逝ってくれるっていうと思っていた。
うれしかった。
この先の未来を一緒に過ごすことも考えたけれど、私は色んなものを背負いすぎた。
だから新しい世界で旅立つのもいいかも。
なんてちょっと思っている。
でも、もし戻ってこられたら、私は陸のためにやり直そうと思う。
もう一度なりたかった私になって、素直に笑って、泣いて。
そして、横にいて。
変ね。
涙が出ちゃった。
ちょっと待ってね。
それと、陸は優しいから・・・・
後、言わないといけないことがあるの、これは・・・」
その瞬間ビデオが切れてノイズだけが残る。ビデオは途中で切れていた。綾瀬の素直な気持ちを受け止めて、もう一度出会いたいと思った。でも、気が付いたら綾瀬は退学になっていた。アパートも引き払われていた。もう一度会いたい。だから私はブログでエンジェルミストを書こうとした。綾瀬が偶然たどり着いてくれるかもしれないから。
それと、もう一度笑い合えるように。私も逃げずにいようって思ったんだ。ただ、誰も何も教えてくれない。そして、疎外感。私は大学を卒業したら過去を全て捨てた。そう、この現実には何か理由が、いや綾瀬が去っていったのには理由があるって信じたかったから。逃げることだけはしない。それは綾瀬との月日を否定してしまいそうだから。
ただ、月日はどんどん私を無気力にしていった。
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