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イン ワンダーランド -8



世界にどすんと落ちる。その感触がやってこなかった。黒い渦からはじき出された私はゆっくりと落ちていく。まるで水中にいるみたい。空気がぬめりと体にまとわりついてきた。気持ち悪い。私は目を開いた。世界は白黒の世界になっていた。どろりとした空気がまとわりついて体がゆっくりとしか動かない。自分の手を見ても灰色でしかなかった。服もポシェットも何もかも。私はゆっくりと動いているのに、地面に立つことも出来ずそのまま地面にたたきつけられた。衝撃はいつもと同じ。ただ、世界が白黒でゆっくりと流れていた。私は街並みを見ていた。遠くに『終わりの始まりの塔』が見える。あそこにチェシャが右目のチェシャがいる。私はゆっくりと足を動かした。でも、なかなか体が動いてくれない。まるで体が鉛で出来たみたいだった。重い。足を動かすのも辛い。私は一人街並みを歩いていた。声がした。聞き覚えのある声。私は耳を澄ました。

「アリス。順番を違えたアリス。人の話を素直に信じてしまったおバカなお嬢さんだ。ふはははは」

笑い声が聞こえた。振り向いたそこには黒い帽子を深く被った人物。帽子屋のそう、私は「ムーン」と名づけた彼がそこに居た。私はムーンに聞いた。

「一体ダイアの世界はどうしたっていうの?」

ムーンは話して来た。

「どうしたかだって?ただアリスが刻印を押さずに去っただけ。おかげでもっと狂っただけさ。刻印も押さず何も疑わずに塔なんかに登ったんだ。狂った世界ほど面白いものはない。いつも同じ世界だと飽きて死にそうだろう。アリスだって知っているはずだ。終わらない苦痛という時間を」

あいかわらず帽子屋のムーンが話すことは解るようで解らない。ムーンはさらに続けた。

「まあ、もうすぐ鐘もなる。あと少しだ。12時まで」

私はムーンの言葉にポシェットから銀の懐中時計を取り出した。時刻は11時を指していた。後1時間でシロウサギを見つけてあの『終わりの始まりの塔』になんて行けない。
私は泣きそうになった。
でも、時計を見ていると時間が動いていない。いや、一秒の間隔がおかしいのだ。秒針がゆっくり動いている。私は気がついた。体が重くなったのではない。今のダイアの世界は時間の流れが変わったんだ。でも、どうして。時計を見つめていたらムーンが話して来た。

「時間について聞きたいのなら時計屋にいけばいいさ。時計を扱っているんだ。時間くらい進めることも戻すことも出来るだろう。だって、ここはアリスのワンダーランドなんだからな」

私はムーンのセリフを聞いてあたりを見渡した。確かこの街には時計屋があった。私は時計屋の扉を開けた。そこには石になった人物が座っているだけだった。ムーンが話してくる。

「引きこもっているのかと思ったら、ダイアの世界に拒絶されたんだ。こんなダイアの世界今まで見たいことない。最高だよ。アリス。君はこんなに世界を狂わしてくれたんだ。拍手したいよ」

そういって、帽子屋ムーンはステッキで地面をたたき続けた。世界が揺れる。どうにかしなきゃ。私はこの世界を変えなかったから。でも、どうやって。私はそっと石になったその男性に触れた。温かい。脈打っている。生きているんだ。私はその男性の顔を良く見た。眼鏡をかけた渋い男性。理知的だけれど優しさを感じる。名前が降りてきた。『ライト』
どうしてなのか解らない。でも名前が思いついた。私が名前を呼んだその瞬間その人が石から変わっていく。声がした。チェシャの声だ。私は嬉しくなった。声はこう言っていた。

「アリスが名づけないと、その人はその世界に居られない。でも、存在も消えることも出来ない。だからアリスが世界に刻印を押す。その世界が存在していてもいいというね」

チェシャの声はすぐに消えていった。私はライトに聞いた。

「このダイアの世界を、時間の流れの変わった世界を戻すにはどうしたらいいの?」

ライトはこう言って来た。

「時の狭間」

それだけを言ってライトはまた固まりだした。名前だけじゃダメなんだ。私は気がついた。その時後ろに誰かの気配があった。そっと振り向く。時計屋の中に白いウサギのフードを被った男性がいた。「シロウサギ」だ。シロウサギは話して来た。

「まさか今回の『アリス』はここまで頑張るとはね。さあ、どうする。時の狭間に落ちてみるかい?」

シロウサギはキレイな顔を私に近づけてきた。吐息を感じる。目が大きく優しい顔。でも、表情はかわいくも見えて、攻撃的にも見えた。私はシロウサギに聞いた。

「あなたは一体何なの?」

私は解らなかった。私をこの世界に、このワンダーランドにつれてきた人物。私から名前を奪った人物。たまに現れてはすぐに消える人物。ナゾだった。敵ではない。でも、味方とも思えなかった。シロウサギは目を丸くさせてこういった。

「ここまで頑張ったアリスだ。答えてあげるよ。ただし質問は3つ。今の質問が1つ目でいいのかい?」

私は聞きたいことはいっぱいあった。私は聞いた。

「じゃあ、一つ目よ。なぜ私をワンダーランドにつれてきたの?」

シロウサギはくすっと笑ってこう言って来た。

「それは、君がアリスでそして、このワンダーランドを望んだからだよ」

答えとは思えなかった。でも、シロウサギが嘘をついているとも思えなかった。私はシロウサギに聞いた。

「じゃあ、二つ目よ。どうして名前を奪ったの?」

そう、私は不思議だった。どうして私から名前を奪ったのだろう。解らなかった。シロウサギはまた顔を近づけてきて笑ってこう言った。

「ここはワンダーランド。つまり不思議で愉快じゃないとダメなんだ。現実はいらない。不思議の世界。でも『アリス』から奪ったのは名前だけじゃないよ。気がついていないの?」

私はそのシロウサギのセリフに私が奪われたものが何かわからなかった。何を奪われたのか。気になる。でも、最後に聞くことは決めていた。私は深く息を吸い込んでシロウサギに聞いた。

「じゃあ、最後よ。『彼女』は一体誰?」

その時、世界に何か大きな音がした。私は時計屋を出て空を見た。黒く渦巻いている。
私を呼んでいるのが解る。シロウサギが話して来た。

「『彼女』が誰なのか。それは会ってみれば解る。アリスが一番知っていて、一番知らない人。それが『彼女』だ。では、質問の見返りを頂くよ」

そう言ってシロウサギは私の持っている銀の懐中時計を手に取った。裏を向ける。蓋をあけた。歯車がいっぱいだった。不思議と白黒の世界なのに、一つだけ赤い歯車があった。
その色だけが鮮やかに見えた。シロウサギはその歯車を取り出した。全ての歯車が動きを止まる。シロウサギが自分の懐から同じような銀の懐中時計を取り出した。蓋を開ける。そこには赤い歯車のある場所に何もなかった。私から取り出した歯車をそこに入れた。
シロウサギの懐中時計の歯車が動き出した。その時世界が変わった。白黒だった世界が一気にカラーに変わった。体の重い感じもなくなった。私は自分の手を見た。色はついていった。だが、どんどん私の体は透明になっていく。輪郭線もなくなって消えそうになる。
シロウサギがいう。

「この世界の、ダイアの世界のどこかに赤い歯車がある。『彼女』が私の時計から奪ったものだ。この懐中時計が時を止めたからダイアの世界も時が止まっていた。今はアリスの懐中時計からこの核となる歯車を抜いた。さあ、アリス。アリスの時が止まる前に赤い歯車を見つけ出しておいで」

私は消え行く体を見ながらシロウサギを睨んだ。シロウサギは笑ってこう言って来た。

「こうするしかダイアの世界は救えないよ。刻印は正しく押さないといけないのだから。それがアリスの使命でもあり、伝説の継承なのだから。それにこの意味はすぐにわかるはず」

アリスの継承。私はわからない事だらけだった。ただ、消え行く体は自由に世界を飛びまわれた。私は空高く飛び上がった。その時私は不思議な光景を見た。そう、帽子屋から飛び出している私がいる。チェシャもいる。そう、初めてこのダイアの世界に来た時と同じ。時が戻っている。刻印を押さないといけない。私は私がこの世界、そうダイアの世界を離れる前に刻印を押さないといけないことが解った。けれど私自身探さないといけないものがある。あたりを見渡す。数ミリの歯車。この広い世界のどこにあるのだろう。私は考えていた。時の狭間。なぜ狭間なのか。私は見渡していた。街並み、森、湖。丸い湖は時計みたいに見えた。湖に向かってみる。そこに映っているのは終わりの始まりの塔だった。太陽の光が影を映す。湖映る塔と影が重なってみる。まるで12時を刺しているかのようだ。時の狭間。何の狭間なんだろう。日付の変わる瞬間。私は影がと塔の重なりを見ていた。まるで12時を刺しているみたい。もし、歯車として存在するのならばその針の中心。私は湖に降り立った。湖の中心。塔と影が重なり合う瞬間。そこに赤い歯車は現れた。私は赤い歯車を手に取った。瞬間、体が強い力で引っ張られる。気がついたら私は時計屋に居た。手に赤い歯車を持って。シロウサギが笑って言って来た。

「おかえり、アリス」

その笑顔がシロウサギの笑顔がキレイすぎたから私はつられて笑ってしまった。私は歯車と銀の懐中時計をそのままポシェットに入れた。

それから私は町中の人に名前をつけていった。皆、石になっていた。名前をつけると石じゃなくなり元に戻っていっている。急がなきゃ。チェシャに会うために。まだ今ならチェシャが傷つく前に間に合うかも知れない。私は一生懸命走った。血だらけのチェシャは見たくない。赤く染まった剣も盾もいらない。もうチェシャを傷つけたくないもの。塔の近くに来た。そこに一人の女性が立っていた。アヤだった。


背の高い女性。モデルみたい。キレイな顔。前のダイアの世界だと前に進めなくて悩んでいた。私の言葉を聞いて、名前をつけて街に向かって走っていってたはず。なのに、アヤは立ち止まっていた。何があったんだろう。私はアヤを見つめた。アヤはわなわなと震えている。息が荒い。何かあった。私はゆっくりとアヤに近づいた。アヤは私を見て言って来た。

「解らない、解らない、解らないのよ」

そう言って徐々に髪が、肌が黒く変わってきた。

「危ない」

私はその声と共に腕を引っ張られた。そこに居たのはシロウサギだった。シロウサギは言う。

「おそらく『彼女』の毒気にやられたんだろう。アリス。君にはもう時間がない。先に行くといい。けれど、絶対に右目のチェシャの右目は見ちゃダメだよ。あの目はあるべきものをあるべき場所に持っていくもの。けれど、あるべき場所が決まっていないものは行き場がなくなってしまう」

私はそのシロウサギのセリフを聞きながら銀の懐中時計を見た。時間は11時のままだった。壊れている。いや、そういえば歯車が抜けたままだったんだ。私は今の時間すらわからなかった。けれど、まだ空は黒く渦巻いているまま。『終わりの始まりの塔』にいる過去の私、『アリス』はまだ飲み込まれていない。あの私よりも先に上にあがらないといけない。それは解っていた。まだ、大丈夫。私はシロウサギに向かって首を横に振って言った。

「ダメよ。だってシロウサギ。あなたも一緒にキングの庭園につれていかないと行けないのだから。それに、私はチェシャに会うまで頑張るって決めたの」

私はそう言ってアヤの方を見た。アヤも頑張っている。黒に侵食されそうになりながら頑張っているのがわかる。私はそっとアヤに近づいて抱きしめた。

「大丈夫、あなたを一人にはさせないからね」

私はそう言って『無敵の太陽』をかざして言った。

「光を、闇を切り裂いて」

私は意識を集中させた。光がどんどん大きくなっていく。アヤは光に包まれた。アヤを見る。もう黒い影はどこにも存在していない。

「私はどうしていたの?」

アヤは座り込んで話していた。そして、私を見てビックリしていた。

「アリス、なんだか少しの間に逞しくなったみたい。でも傷だらけ」

そう言ってアヤはハンカチで私の腕を結んでくれた。私も気がついていなかった。ところどころに怪我をしていた。でもこんな傷。今までのチェシャの傷に比べたらたいしたことない。私はアヤに「ありがとう」って伝えて『終わりの始まりの塔』に登った。

シロウサギが階段を駆け上がっている時に言って来た。

「先にキングの庭園に行っている。私は戦闘向きじゃないからね。アリスと私。そして『彼女』の3人だけがこの世界の扉を開けるんだ」

私はその言葉を聞いて不思議に思った。

「どうしてジョーカーは世界をまたがっていられたの?」

シロウサギは言った。

「ジョーカーはワイルドカード。『アリス』が望めばどこにだって現れる。何にでもなれるけれど、何にもなれない。そういうものだよ。でも、このワンダーランドはそういうものなのかも知れないね」

そう言って、シロウサギは空間を黒く歪ませて消えていった。私は頂上の部屋を開けた。
そこには黒い鎧だけが横たわっていた。誰かが階段を駆け上がった音がする。間に合うだろうか。私は走った。屋上に着いたとき、過去の私、『アリス』は空に吸い込まれていた。
そして、もう一つ解ったこと。
どうして右目のチェシャが一緒に空間を渡ってこなかったのか。私は今屋上に来たから解ったんだ。そう、屋上には右目のチェシャは戦っていたんだ。いや、違う。私を庇うために一撃を体に受けていたんだ。あの時私は、吸い込まれるその衝撃に気がつけなかった。
右目のチェシャに向かって走った。胸から血が出ている。右目のチェシャは言って来た。

「僕らの『アリス』長い旅をさせてゴメンね。僕は大丈夫。休めばすぐに戻るから。少しだけ休ませて」

そう言って私の腕で目を閉じた。そして、私の影に吸い込まれるように消えていった。
ゆっくり休んでいて。右目のチェシャが守ってくれたから私は助かったんだもの。私は目の前にいる女性を見た。女性は後ろを見ていた。黒い髪が風に靡いている。彼女はゆっくりとこっちを見た。褐色の肌をしていたけれど、その顔は『私』だった。その黒い私は言って来た。

「あら、はじめましてとでもいいましょうか。『アリス』もし、あなたが本当に『アリス』なのだったら私はそう『黒いアリス』とでも言うのかしらね」

そう言ってきた。『黒いアリス』確かにその響きに違和感はなかった。身に着けているものも同じ。ただ、色が違うだけ。黒光りしている盾。黒い光が出ている剣。黒い胸当て。
服も全て同じだった。私は『黒いアリス』に聞いた。

「あなたが『黒いアリス』だとしたらあなたは私の何なの」

『黒いアリス』はくすくす笑って言って来た。

「『アリス』はまだ気がついていないの。このワンダーランドに来た時に失ったもの。辛い思い、嫌な思い、そう言った負の思いがはじき出されたのよ。現実という辛い環境を切り離す。そのために自己の一部を切り裂いた。だからあなたはあなたでない『アリス』という選択をとった。ただそれだけ。さあ、はじめましょう。ここでどれだけ話したって何も変わらないのだから」

『黒いアリス』はそう言って剣を構えてきた。私は様子を見るため胸に手をあて風の壁を出した。けれど、『黒いアリス』も同じことをする。風が相殺された。『黒いアリス』が言って来た。

「無駄さ。同じ能力の二人。小手先のことなど何も通用しないよ」

そのまま『黒いアリス』は突っ込んできて剣を打ち下ろしてきた。私は盾で受け止める。
力強い。私は受け流そうとした。その時『黒いアリス』は距離を取ってきた。『黒いアリス』が言う。

「考えることだってわかる。私がされて嫌なことをしてくるのだからな」

そう言って来た。距離を開けた『黒いアリス』は盾を私に向けてきた。光で目をくらませようとしている。私は『無敵の太陽』を光らせて光の流れを変えた。『黒いアリス』が言う。

「そのクラブの世界で得た盾だな。クラブの世界は楽しかったよ。同じ繰り返し。戻し続けていた。あの何ていったかな。ケーキ好きな彼女。ケーキを食べたいのに戻され続けてかなり辛がっていた」

私は剣を構えて撃ちおろした。『黒いアリス』が盾で防ぐ。私は言った。

「あんたに何がわかるというの。辛い人の気持ちが。痛みがわからないからこそひどいことが出来るのよ」

『黒いアリス』の盾が動いた。受け流して攻撃される。私は距離を取って離れた。『黒いアリス』が言う。

「痛みがわからない人が多すぎる。だからやられる前にやらないといけない。自分がやられてしまうから。どの世界でもそうだ。ハートの世界では私が描いた絵の中に閉じ込めた。望みがかなうペンを与えたスペードの世界では皆が閉じこもっていた。誰も信じたくないのなら石となって固まってしまえばいい。心があるから誰かを攻撃する。そう、全て望んだことじゃないのか?」

『黒いアリス』が言ってくる。私は望んでいない。そんなの望んでいない。

「望んでいないわ」

気がついたら叫びながら『黒いアリス』に向かって突進していた。風がまとわりついてくる。足が動かない。『黒いアリス』から出ている風に気がつけなかった。ゆっくりと『黒いアリス』が剣を私に振り下ろしてくる。やられる。私は一瞬目を閉じた。鈍い音がした。
緩やかな風が私を包む。目を開けるとピンク色の海賊のカッコをした人が盾で防いでくれていた。そして『黒いアリス』に大きな風をぶつけている。ゆっくりとこっちを向いた。
左目のチェシャだ。左目のチェシャは言って来た。

「お待たせ、僕らの『アリス』遅くなってゴメン。こんなに『アリス』を傷だらけにさせてしまって」

そう言って振り向いたシャツの胸あたりは血が滲んでいた。けれど、左目のチェシャは私に笑いかけて抱きしめてきた。力強く。左目のチェシャは耳元で言ってくれた。

「頑張ったね、僕らの『アリス』。一緒に戦おう」

私はその言葉が嬉しかった。左目のチェシャがゆっくり体を離してくれた。心臓がドキドキしている。まるで体全体が心臓になったみたいだった。影がぐにゃりと曲がった。
右目のチェシャが出てきた。同じようにピンクの海賊の服を着ている。胸はさっきの傷からか血で真っ赤だった。二人のチェシャが私の手をとり言って来た。

「今の『アリス』なら僕ら二人を使えるはずだ」

そう言って二人のチェシャの抱きしめられた。そのままゆっくり二人のチェシャが消えていった。でも、不安はない。私の中にチェシャを感じるから。大丈夫。私は頷いた。その時気がついた。盾も剣も鎧も形が変わっている。体も軽く今までの傷も痛みすらない。
私は『黒いアリス』を見た。チェシャの声がする。

「『彼女』は『黒いアリス』は自分の感情を抑えられなくなっている。でも、『彼女』は『アリス』の一部でもあるんだ。光で浄化をして落ち着かせよう」

私はチェシャの声に頷いた。『黒のアリス』は私を見てきた。その姿を見て私はびっくりした。私の盾、剣、鎧がかわったように『黒いアリス』も変わっているからだ。私は剣に光を込めた。『黒いアリス』も同じことをしている。私は剣を構えて打ち込んだ。『黒のアリス』の剣とぶつかる。すごい衝撃。黒い光にのまれていきそう。私の手を支えてくれる。チェシャだ。二人のチェシャが支えてくれた。チェシャが言う。

「大丈夫だよ」

背中を押してくれる人がいる。シロウサギ、ジャック、クイーン、ジョーカー。みんな笑顔で私を支えてくれる。ポシェットが光った。リリィが支えてくれている。服が光り、ミクが支えてくれて、シュシュが光ってエトワールが支えてくれている。ハンカチが光ってアヤが支えてくれた。後ろには今まで出会った人みんながいる。私は一人じゃないんだね。

「行けぇぇ」

私は力いっぱい剣を振りかざした。『黒のアリス』が言う。

「同じ能力のはずなのに・・・」

私は『黒のアリス』に言った。

「私は一人じゃないから。だから勝てたのよ」

そう、光が世界を飲み込んでいった。真っ白に。どこかで鐘が鳴ったように感じた。
世界は白いまま私を取り囲んだ。そう、気がつけば誰もいない真っ白い世界に私だけがいた。

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