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イン ミラーワールド -1



降り立った場所。
そこは赤く紅葉が綺麗な山だった。
まだ初夏にもなりかけていなかったはずなのに、この降り立った世界は赤く染まっていた。
一体何が起きたのだろう。
私は思い出してみた。
久しぶりに田舎に行って、祖父が見ていた視線の先にあった鏡を見つめた。
中に綺麗な顔をした、顔の半分が髪の毛で隠れている一見女性のような顔立ちの男性。
頭にウサギの耳をつけていたその人に手招きされた。
私は綺麗なその顔に、いやその人に魅せられて吸い寄せられていった。
鏡の中にしか映っていないその人に吸い寄せられて。
気がついたら、鏡の中に吸い込まれていた。
外に出ると、庭いっぱいに赤と白の市松模様の上に人が立っていた。
真っ赤なドレスに身を包んだ女性、赤の女王と呼ばれていたその人に言われた。

「このマスを9つ前に進めたら何にでもなれる」

というようなことを言われた。
私はあのウサギ耳の彼に言われて盤の上にあがったんだ。
そして、一歩前に足を踏み出した。
そこまでは覚えている。
その瞬間に落ちてきたんだ。
そう、この真っ赤なもみじの下に。
私はあたりを見渡した。
声が聞こえる。
女性の声だ。誰かの名前を呼んでいるのが解る。
私はここがどこなのかもわからないため、その声のする方に歩いていった。
緩やかな山道。広い道だ。
多分車でも通れるくらいの広さ。
私はゆっくりと声のするほうに降りていった。
遠くからその女性が見えた。
小学生か幼稚園の遠足なのだろうか。
何人かの子供を引率している。そして、名前を呼んでいるのだろうか。
ずっと「キトくん?キトくん?」って呼んでいた。
優しそうな雰囲気の女性。
すこし緩やかなパーマがかかっている髪は黒くそして短かった。
ピンクのエプロンをして、旨に白いウサギが書かれていた。
かわいい感じ。
胸には白いネコの形をしたペンがささっている。
私はその女性に近づいて声をかけようとした。
一瞬思った。
なんて声をかけようって。
「ここはどこですか?」
だと、かなり怪しい人のように感じる。
それに、自分のカッコをみた。
あの盤の上にいたときは腰に剣をかけていた。普通に剣を持っている人にそんなことを言われたらかなり不審者のように感じる。
私は自分のカッコを見てみた。
緑のチュニックに黄色のズボン。
でも、腰にあったはずの剣はいつのまにか消えていた。
私はすこし安心した。
これで不審者から一歩だけ後退できたと思ったからだ。
私は深呼吸をして声をかけようとした。
けれど、先に声をかけられてしまった。
そう、このピンクのエプロンの女性に。

「すみません、小さな男の子を見かけませんでしたか?『アリス』」

私はそう言われて首を横に振った。
首を横に振りながら私はびっくりした。
そう、このピンクのエプロンの彼女が私の名前を『アリス』と呼んだからだ。
私がびっくりしているとピンクのエプロンの彼女が続けてこう言ってきた。

「あ、今度の『アリス』は、はじめましてだったかしら。それともお久しぶりかしら。
 でも、いつかの私はあなたと会っていたかもしれない。でも、それは今の私の記憶じゃないかもね」

なんだか不思議なセリフだった。でも、どこかで納得もしていた。
私は多分どこかでこの人を知っている。懐かしい感じもする。
でも、それがどこなのか思い出せない。
いや、今の私は自分の名前すらも思い出せないんだ。
私はピンクのエプロンの彼女に名前を聞いた。

「はじめまして。『アリス』
 私の名前は『キュア』よ」

名前を聞いてもぴんと来るようで来なかった。
今の私は、『アリス』は初対面なんだろう。
私はそう思うことにした。
キュアは続けて言って来た。

「ねえ、『アリス』良かったら男の子を一緒に探して欲しいの。
 多分『アリス』なら会った時にこの子が『キト』だってわかる気がするの。
 私はこれから前に向かってこの子達を連れて上に登るから。
 『アリス』は下に降りていってくれないかしら?」

私はコクリと頷いた。
『キト』という名前の男の子。知っているような気もする。
いや、知らないような気もする。
けれど、どこか解るような気がする。一人で迷子になっている男の子。
私はキュアと別れて山道を降りていった。

少し降りると道から外れた山肌に一人の男の子がいるのが見えた。
私は名前を呼んでみた。

「キト、そこで何しているの?」

違っていたら子供はこっちを振り向かない。
そういう思いもあったのかも知れない。
けれど、どこかで核心があった。この子が『キト』だって。
私はガードレールを越えてキトのいるほうに向かって歩いていった。
『キト』はこう言ってきた。

「お久しぶり、『アリス』お姉ちゃん。それともはじめてなのかな?
 あのね。僕なくしちゃったんだ。それで探しているの。
 『アリス』お姉ちゃんも一緒に探して欲しいんだ」

そう言ってキトはどんどん山を降りていく。
私はキトに聞いた。

「なくしたって何をなくしたの?」

キトは私の方を向いてこういった。

「内緒だよ。でも僕の大事な宝物なんだ。
 ピカピカ光っているから解るよ。でも、どこにもないんだ」

そう言ってキトはいきなり座り込んだ。
私は聞いてみて。

「内緒って言われてもお姉ちゃん困るよ。
 キト。どういうものなの。言ってくれたら一緒に探せるよ」

私が聞いた事にキトは笑顔になった。
キトはこう言って来た。

「『アリス』お姉ちゃんも持っているものだよ。
 でも、僕のとは形が違うんだ。でも僕のもいつまでこの形なのかわからない。
 『アリス』お姉ちゃんはずっと変わらなかったのかな?」

キトがいうことが良くわからなかった。
私はキトに聞いてみた。

「お姉ちゃん。良くわからない。ヒント頂戴?」

私がこう言ったことにキトは笑いかけて「内緒」っていうだけだった。
キトはそう言って次は山を登り始めた。
時々草や木の下のほうや上の方を見ている。
何を探しているのか解らない。
私も持っているもの。ピカピカ光っているもの。
形がかわるもの。
解らなかった。
私はキトを追いかけた。
少し言った先でキトはしゃがんでいた。
キトが言う。

「見つからないよ。もう諦めようかな」

私はキトが探しているものがわからないけれど、一緒に探したいと思った。
もうすでに道がどこだったのかもわからなくなっている。
上に向かって歩いていけばどこかにたどり着くかも知れない。
いや、こういう時は下に向かっていくのがいいんだったかな?
私はすでに山の中で迷子になりかけているのがわかった。
道がどこにも見えない。
でも、私が不安になったらキトは余計に不安になってしまう。
私はキトに向かってこう言った。

「諦めたらそこで終わりだよ。見つかる物だって見つかってくれない。
 一緒に探すからキトの大切なもの、教えてよ。
 それになくしたのだったらこんな山の中でなくしたのかな?
 ねえ、お姉ちゃんと一緒に探そうよ」

キトは私のほうを見て笑顔になった。
私は自分で言いながら空を見て自分の居る場所を少し考えていた。
山肌を下に降りた。その後に右に曲がってまっすぐ進んでいった。
逆に進めば元の所に戻れるかも。
この子を不安にはさせたくない。私が強くなきゃ。
私は大きく深呼吸をしてキトに向き合った。
キトが叫ぶ。

「ああ、あそこ」

キトが指差す先には体がトランプで、手足が黒く細長い槍を持った兵士が走っているのが見えた。
一人のトランプ兵士の、手の中にキラキラ光る何かがあった。
キトが言った。

「僕の大切なものなの」

キトはそう言ってトランプ兵に向かって走り出した。
トランプ兵は4人いた。
体に6、7、8、9とダイアのマークがついていた。
私もキトを見失わないように走った。
理由はわからない。けれど子供の大事なものを持って逃げるなんて許せない。
私は途中落ちていた大き目の木の枝を手にした。
戦わないといけないかもしれない。
私はキトを追いかけていた。
キトの足がもつれてこける。

「危ない!!」

私の大きな声にトランプ兵が反応した。
キトはゆっくりと起き上がった。
トランプ兵がじわりじわりと私に向かって寄ってくる。
私はキトの元に走った。
この子を守らないと。
一人だったらこんな勇気もてなかったかも知れない。けれどこの子が、キトがいるから頑張らないとって思った。
私はなんだかどこかでも同じように勇気を振り絞っていたのを思い出した。
ただ、いつ、どこでだったのかは思い出せない。
震える足で力いっぱい地面を踏みつけた。
キトに向かっていう。

「大丈夫。走れる?」

キトはゆっくり頷いた。
私はキトに先に上に向かって走るように伝えた。
深呼吸をする。
トランプ兵がやりを構えて私をぐるりと囲もうとしてきた。
囲まれたら終わりだ。
私は間合いを取りながらゆっくりと後ろにさがった。
4人を見ながら動いていた。
その時、何かが足に引っかかった。
木の根っこだった。
私はバランスを崩して後ろに倒れた。
槍が私めがけてくるのがゆっくりと、そうまるでスローモーションのようにゆっくりと見えた。
防ごうと思っていた。けれど体が動くより先に槍が私に向かって吸い込まれるようにやってくる。
間に合わない。それだけが解るのがもどかしかった。


鈍い音がした。
私は持っていた木の枝で防ごうと待ち構えていた。
けえど、上から風が降りてきた。
そう、そこには白を基調としたピンクのフリルのついたウエイトレスのカッコ、ウサギの耳をした人が剣を構えていた。

「大丈夫かい?僕らの『アリス』」

ウサギ耳の彼はそう言ってきた。
彼の名前はなんていうのだろう。
私はどこかで彼を知っているような気がしていた。
解らない。
けれど、ウサギ耳をした人が剣を一閃したときにトランプ兵は散り散りに去って行った。

「ありがとう」

私はウサギ耳の彼を見た。
綺麗な顔をしている。こういう中性的な、いや女性のように綺麗な人は気になって仕方がない。
私はどこか惹かれていた。
一目ぼれかも知れない。いや、ずっと前から知っていたようにも感じる。
私だけなのかな。
胸がちくりと痛くなった。
私はこのウサギ耳の彼を見つめていた。
どこからか声がした。

「『アリス』?どこにいるの?」

どこからかキュアの声がした。
私は声の場所を探した。
山肌を少し登ったところにキュアとキトがいるのが見えた。
私は大きく手を振って言った。

「ここにいるよ?」

キュアは私を発見して走ってきた。
キュアは私の近くの足元に何もない、平らなところで顔面から力いっぱいこけた。
根っこがいっぱいあるところではこけなかったのに。
私はキュアに走りよった。
キュアは顔を起こしてこう言って来た。

「アリス、大丈夫だった?」

私は額が真っ赤になっているキュアを見て、ちょっと笑いそうになった。
私はキュアに向かっていった。

「私は大丈夫だよ。それよりキュアの方が心配」

キトがてけてけって走ってきてキュアの横に言った。キトが話す。

「キュア先生。痛いの痛いの飛んでけ~」

体全体を使ってキトが頑張っている姿を見て私もキュアのウサギ耳の彼も笑った。
キュアがウサギ耳の彼を見てビックリしたこう言った。

「どうしてここにハオ様がいるの?」

キュアは頬を真っ赤にしながら私に言って来た。
ハオ。
初めて聞く名前。
そして、どうしてか違和感があった。私が思っている名前と違う。
いや、この世界自体が何か違っているのかも知れない。
鏡の中だから?それともチェス盤の中だから?
解らない。
私は解らなかったけれど、ハオと呼ばれた人を見た。
綺麗な顔。白に近い金髪。髪は長い。
右目は髪で隠れている。華奢なその体は、風貌は女性のようにも見える。
そして、白を基調としたピンクのフリルのスカート。
腰には銀色の細い剣がある。
頭にはウサギ耳をつけている。そして額にはサークレット。
私がウサギ耳の彼、ハオを眺めていると、ハオは私の方をみてにこりと笑いかけてきた。
ハオはキュアに向かっていった。

「僕らの『アリス』の唯一のナイトとなったんだ。だから『アリス』を守る。
 それが僕の使命。白の女王を守るのと同じくね。キュアも『ボーン』なんだったら解るよね」

ウサギ耳の彼は、ハオはそう言った。
『ボーン』
白の女王。
私には解らないことが多すぎた。
ハオは私を向いてこう言った。

「とりあえず、一旦休みましょう。それからでも遅くないでしょう。
 赤の女王の『ボーン』たちと戦うのは」

そう言ってハオは私を抱きかかえた。お姫様抱っこなんてされたことがなかったので私はビックリした。
顔が真っ赤になる。

「え、何?何?」

私は戸惑っているとハオは普通にこう言った。

「足元が悪いですから。僕らの『アリス』
 それに、『アリス』足を怪我してるでしょう」

私はハオが現れるときに確かにころんで足をひねった。
軽い捻挫。そんなの今までもあったこと。
ちょっと痛いけれどここまでしてもらうことなんてなかった。
横でキュアがうらやましそうに私を見ている。

「キト、行きましょう」

キュアがそう言って歩き出した。
私はハオの首に手を回してバランスを取りやすいようにした。
ハオの顔が近い。
どこか優しい香りがした。
なんだかドキドキが止まらない。体越しにこのドキドキがハオにも伝わっていそうで怖かった。
少し歩いた先に小屋があった。
薄い赤に彩られたその小屋はこの紅葉の世界にすごくあっていた。
そう言えば太陽がゆっくり傾きかけている。私は綺麗に晴れた空を見ていた。

小屋に入り、ハオが私の足に包帯を巻いてくれる。

「大丈夫だよ」

私はハオに話した。けれど、ハオはそのまま私の足を冷やしてくれた。
こんなに大事にされたことなんてないかも。
私はちょっと照れくさくなった。
なんだか沈黙が痛かった。
いや、沈黙になると私の心臓の音がハオに聞こえてしまいそうだ。
私はハオに話しかけた。

「ねえ、ハオもキュアも話している『ボーン』とか『ナイト』ってどういう意味なの?」

ハオはゆっくり顔を上げた。
そして、優しい笑顔で話して来た。

「僕らの『アリス』ちゃんと説明をせずにこの鏡の国に連れてきてゴメン。
 でも、これは決まっていたことだったんだ。『アリス』があの鏡に気がついたときからね。
 この鏡の国の世界では赤の女王と白の女王が戦っている。
 二人は大きなチェス盤でチェスをしているんだ。
 そして、僕も『アリス』もチェスの駒として戦っている。
 『ボーン』は一番弱い駒。でも、9マス進めたら何にでもなれる駒でもあるんだ。
 『アリス』は僕らの希望だよ。そして、僕は『アリス』を守るナイトさ。
 他の駒は白の女王を、そして、白のキングの守っている。
 僕だけは特別なんだ。いつか白の女王とも出会う時が来ると思う。その時には紹介をするよ」

私はハオの説明を聞いてもよくわからなかった。
ただ、解ったことは大きなチェスのゲームの一部となっているということくらいだった。
でも、私はチェスを知らない。ルールも、駒にどういうものがあるのかも。
私は聞いた。

「ハオはどうして私の『ナイト』なの?」

チェスで守らないといけないのはキングのはず。それだけはなんとなく解る。
ハオも守るのは私ではなくキングのはず。
私は不思議だった。ハオが話してくる。

「僕が『アリス』を守るのは希望だから。でも、それだけじゃない。
 上手く言えないけれど、『アリス』は僕にとっては守りたい人なんだ」

ハオは目をそらしながらそう言った。
なんだか本当の理由は違うような気がした。
私はハオから目をそらした。
そこにはキュアがいた。
9名から10名くらいの子供に向かって説明をしている。
一人だけ落ち着かない子供がいた。
キトだ。
キトは私のところにやってきた。

「アリスお姉ちゃん。大切なもの取り返したいんだ。
 でも、もうすぐ赤の時間だから外に出られないの」

私はキトの悲しそうな顔を見て何とかしたいって思った。
キトに向かって話す。

「お姉ちゃんが取り返してきてあげるよ」

私の言葉にキュアもハオもビックリしていた。
いや、私もびっくりしていたかも知れない。
確かに怖い。今までの私なら逃げ出していたかも知れない。
でも、自分のためだったらこんなにも頑張ろうって思えないかもしれないけれど、誰かのためなら頑張れそう。
私は自分に言い聞かせるためにも大きく頷いた。

私のその行動をみてハオが力強く頷いてくれた。キュアも頷いてくれている。
ハオが言う。

「早く行かないと赤の時間になってしまいます。そうなると私だけでは守れなくなるかも知れません。他のナイトもビショップもルークも助けに来てくれるとも限りませんから。
 行きましょう。僕らの『アリス』歩けますか?」

私はずっとハオが冷やしてくれていたおかげで、いや、包帯の巻き方のおかげで全然痛くなかった。私はコクリと大きく頷いた。
ハオが言う。

「では、行きましょう。僕らの『アリス』の勇気と共に」

その時、私の腰に細い剣が現れた。
キュアが言う。

「『アリス』の勇気に呼応したのね」

一人じゃ勇気なんて振り絞れないよ。
私は笑顔で笑った。

「行きましょう。赤のボーンのいるところへ」

私とキュア、そしてハオは小屋を出て山道を降りていった。
外は夕暮れになりかけていた。
紅葉は赤く、空も赤く世界が真っ赤に見えた。



山を降りていくと世界はどんどん赤くなっていった。
それはもう夕焼けの赤のように優しい赤じゃなくなってきていた。
私は気がついたらつぶやいていた。

「空が不気味」

そう、夕焼けのような優しい色じゃなく鮮やか過ぎる赤に変わっていっていた。
キュアが話して来た。

「この世界は光の屈折が違うの。踏み入れた世界ごとね。
 ここは赤の世界。赤が色濃い世界なの。そして、夕闇は闇の色は赤なの。
 赤の時間になると赤の女王の兵士たちは強くなるの。
 といっても1.2倍くらいの強さなんだけれどね。だからギリギリ大丈夫なの。
 相手が4人だったら」

私はキュアの話を聞きながらよくわからなかった。
どうしてギリギリ大丈夫なのだろう。
私はキュアに聞いた。

「どうしてギリギリ大丈夫なの?」

キュアは笑顔で話してくれた。

「チェスの駒には価値があるの。
 私とアリスはボーンなの。ボーンの価値は『1』
 そして、ハオさまはナイト。私たちのあこがれよ。ナイトは『3』
 ちなみに、ビショップも『3』でルークは『5』
 そしてクイーンは『9』なの」

私はそういわれて計算していた。
相手のボーンが4人。
1. 2倍だから4.8。
こっちは私とキュア。そしてハオがいるから5。
だからギリギリなのね。
ということは私も一人と戦わなきゃいけない。
私は大きく息を吸った。
ハオが話して来た。

「僕らの『アリス』気をつけて下さいね。
 赤の時間だと同じボーンでも相手のほうが少し強い。
 だから1対1では戦わないで下さい。『アリス』はキュアと一緒に一人のボーンと戦ってください。
 残りは私が相手しますから」

ハオは優しく私に笑いかけてきた。
そしてハオは続けてこう言った。

「気持ちは強く持っていてください。
 でないと強さは『1』にすらなってくれませんから」

私はそのセリフを聞いてコクリと頷いた。
怖い。けれど、逃げることなんて出来ない。
だって、逃げたら絶対に勝てなくなってしまう。
私は不安になる気持ちを飲み込んだ。
大きく息を吸う。そして、言葉にした。

「行きましょう。みんな」

私はそう言って力強く歩き始めた。

山道から少し外れたところに赤い小屋はあった。
いきなりラッパの音がした。
小屋から4人のトランプ兵が出てきた。

「え?何?」

私はうろたえていた。
ハオとキュアはすでに剣を抜いている。
キュアが言って来た。

「赤の時間の時は赤の女王の目が行き届いているの。
 赤の女王があのトランプ兵に知らせたのよ」

私も剣を抜いた。
ハオが話してくる。

「後から来て欲しい。先に3人を相手にするから」

ハオはそう言って走っていった。一人、二人と切りつけている。
鈍い音がする。槍と剣がぶつかる音。
一人だけするっと私とキュアのいるほうにトランプ兵がやってきた。
私はキュアを見た。
お互い頷き距離を保ちながら目の前のトランプ兵に向かい合った。
私が切りつける。
キュアがサポートする。
それを繰り返していた。
私はちらりとハオの方を見た。
ハオは3人を私たちのところに行かせないように頑張っている。
早くこいつを、目の前のトランプ兵を倒さなきゃ。
私は力いっぱい剣を振り下ろした。
トランプ兵は力で受け止めた。

「キュア、今よ」

トランプ兵は私の攻撃を受け止めている。そのため、もう一つの攻撃は受けきれない。
キュアがトランプ兵をなぎ払った。
トランプ兵はうめきながら体が薄くなっていった。

「やったね。アリス」

キュアが私に抱きついてきた。
私はハオを見た。
ハオも私たちが勝ったのを見ていた。
私はキュアに行った。

「ハオを助けに行きましょう」

けれどキュアは動かなかった。そしてこう言った。

「ハオ様なら大丈夫よ。あのお方はナイトの中のナイトだから」

そう言ってキュアは指差した。
ハオは一瞬私たちのほうに走ったかと思うと初めに動いたトランプ兵に方向をかけてきりつけた。
次に一人、最後に一人。
一瞬の出来事だった。
私は思わず口から出てしまった。

「カッコいい」

キュアは私にこう言った。

「僕らの『アリス』。ハオ様は誰のものにもならないわよ。ハオ様の心は私たちの届かないところにあるのだから」

その時の、キュアの表情はすごく悲しそうだった。
私はそのセリフの意味をわからないでいた。
もし、解っていたとしても自分ではもうこの気持ちをどうすることも出来なかった。
私は気がついたらハオに向かって走っていた。

「大丈夫だった?」

私はハオに話した。ハオは静かにこう言って来た。

「僕らの『アリス』時間がかかってすみませんでした。
 しかも心配までしていただいて」

そう言ってハオは深く頭を下げた。
そんなことをして欲しいわけじゃない。でも下から見上げるハオの顔はものすごく可愛くてドキッとしてしまった。
解らない。
私はどうしていいのかわからなくて、こうハオに話した。

「ほ、ほら、こ、ここに来た目的ってキトの宝物じゃん。
 だから、さ、あの小屋にキトの宝物があるのかな~
 なんて、見に行こうかな~」

私はそう言って小屋に歩き出した。
ハオが後ろから何か言ってきている。
私は今振り向いたら顔が真っ赤な気がする。
私は力いっぱい扉を開けた。
光がものすごい勢いで飛び出してきた。

「きゃ」

私はそのままこけてしまった。
いや、地面にあたるはずだった。けれど、ハオが私を支えてくれている。

「僕らの『アリス』今伝えていたんですけれど、キトの大切なものはそのままキトのところに戻りますって。間に合わなくてすみません」

ハオはそう言いながら私を支えて、立たせてくれた。
この手に、腕に私は支えられている。

「僕らの『アリス』戻りましょうか」

私はハオの優しく話す言葉にコクリと頷いた。

ピンクの小屋につくとキトが走ってきた。

「アリスお姉ちゃんありがとう。アリスお姉ちゃんには見せてあげるね」

そう言ってキトは私にキラキラしているものを広げて見せてくれた。
それは画用紙にクレヨンで描かれた絵だった。
飛行機なのかな?それと男の子の絵だった。
キトが満面の笑みで話して来た。

「大きくなったらなるんだ~僕の夢
 アリスお姉ちゃんの夢はなんなの?」

私はキトに言われてびくっとした。
私の夢。なんだろう。
なりたい私。大人になってしまったら夢を見ているより現実を追いかけていることが多かった。
自分の身の丈を痛いほど感じたり、泣いたり。
今の私ってあの頃の、キトの頃思っていた大人だったのだろうか。
私はキトのまっすぐな瞳を見るのが怖くなってしまった。
キトは話して来た。

「アリスお姉ちゃんはもう夢を手にしたのかな?それともまだ?」

私はキトに「まだなのよ。追いかけているところだよ」と答えた。
確かに私は自分のしたいことをしようとして長い休みを手にした。
いや、仕事を辞めたんだ。そして、自分を見つめなおしていた。
私のしたいことって一体。
私は考えていた。
その時、空から優しい光が差し込んだ。
私は外に出てみた。
空は赤かったはずなのに、いつのまにか普通の夜の色に変わっていた。
そして優しい月の明かりが照らしていた。
何かが落ちてくる。
私は手で受け止めた。星の形だった。
ハオが話してくる。

「僕らのアリス。その星を後8つ集めて下さい。そうしたら9マス進んだことになります。
 さあ、アリス。新しい世界に飛び込んで」

そう言って私の足元に一つのマスが現れた。

「どうして私だけ?」

私がそう言ったらハオが言って来た。

「踏み出す時。それは自分の足でしか進めないですから」

キュアが言う。

「また、どこかで会えるよ。同じ盤の上にいるから」

ハオが優しい口調で、優しい笑顔で言って来た。

「どこにアリスがいても助けに行きますから」

私はその言葉に表情にまたドキっとしてしまった。
私は一歩前に踏み出した。
落ちる感覚がまたやってくる。
落ちた先。そこは緑に囲まれた世界だった。


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