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イン ミラーワールド -4



水色の世界はかなり変わっていた。
今までの世界といいなんでこう色が強調されているのだろう。
私は考えていた。
だが考えてもわからなかった。
周りを見渡す。
どこか懐かしい街並み。
アスファルトの道路。木で作られた柵や壁。電信柱。
古い町並みのようだ。
私は一歩そこに踏み込んだ時、違和感があった。
何か世界が違って見えたんだ。
いや、明らかに視点がおかしい。
世界がまるで大きくなったみたいだ。
私は歩いていた。
駄菓子屋があった。私はそこにある古びた鏡を見てビックリした。
私が小学生くらいの子供で映っていた。
初めは信じられなくて何度か手を振って確かめていた。
けれど、明らかに自分であった。
私は怖くて駄菓子屋から離れた。
元いた場所に戻れば何かわかるかも知れない。
私は振り返って、元いた場所へ向かおうとした。
けれど、道がわからない。どこも同じように見える。
そんなに複雑な道を歩いたわけじゃないのになんでこんなことになっているんだろう。
私は自分がどこにいるのかも解らずに歩いていた。
気がついたら公園があった。
私は公園に入った。
そこに砂場の砂で絵を書いている少女がいた。
落ちていた木の枝なのだろうか、それでもくもくと絵を描いている。
少女は茶色の髪にクリクリの目をした可愛い子だった。
可愛いその子は絵を何度も描いていた。
私がその子を見ていたらその子が言って来た。

「手伝って。影を倒すの」

私は一瞬意味が解らなかった。
良く見ると、木々が風に揺られて少女が描いた絵の方にやってくる。
そして、砂の上に描いているから風で絵も消されてゆく。

「早く手伝って」

少女が言って来た。
私も落ちていた枝で絵を描いた。
そういえば絵を描くのが好きだったな。色んな絵を描いた。
何回描いては消されたのか解らなかった。
けれど、どうしてこんなに綺麗に風が消していくのか不思議だった。
少女が言う。

「あと少しで勝てそうよ」

良くわからなかった。
けれど、その時風が止んだ。

「勝った。やったね」

そう言って少女はジャンプをした。私もなんだか嬉しくなってジャンプをした。
少女が言う。

「私はチャーミーよ。あなたは?」

少女はそう言って手を出してきた。
私は握手をして「私はアリスよ」って、伝えた。
チャーミーが抱きついてきた。そして私に言ってくる。

「よかった。私たちの希望の『アリス』に出逢えて。
 アリス。先に行って。そしてこの世界を変えて欲しいの」

チャーミーはそう言って私を突き飛ばした。
意味が解らなかった。
砂場にこける。
そう思ったとき、体が何かに引っ張られる感じがした。
誰かが私の腕を引っ張っている。
どこから?
チャーミー以外には誰もいなかったのに。
どんどんチャーミーの顔が遠くなっていく。
チャーミーは笑顔だった。

気がつくと世界はいつもと同じだった。
自分の手と足を見る。
子供の手や足じゃない。
元に戻っている。

「良かった。戻せて」

女性の声がした。
見たことない女性。
どの女性は甘栗色の髪。長さは肩でそろえられている。
胸に鎧を着けていて、白い短いマントをしている。そしてすらりと伸びた足は動きやすいようなズボンをはいている。
凛とした表情、美人の女性。
スタイルいいな~
私はその女性を見ていて凛として大人の魅力を感じていた。
つい自分と比較をしてしまう。
凛とした女性が話して来た。

「いきなり名乗らずに失礼した。私の名は『ラキシス』
 白の女王のビショップだ。宜しくな『アリス』」

そう言ってラキシスは手を差し出して、私を起こしてくれた。
一体何が起きたのだろう。
私は何が起こったのか理解できなかった。
周りを見てみる。
同じようにシアンの世界。
綺麗な水色の空がどこまでも広がっていた。
地面は前と同じアスファルト。そして木で出来た壁。
私が不思議そうに周りを見ていたらラキシスが言って来た。

「アリスはこのシアンの世界に入った瞬間に同じようで違う世界に連れて行かれたんだ。
 赤の女王のビショップ『アニマート』によって。
 『アニマート』は空間魔法を扱う。攻撃も空間をジャンプして行う。だからどこから攻撃されているのかがわからない。目の前にいる『アニマート』が空間を渡って攻撃をしてくるからな。
 そして、もう一つ。『アニマート』は閉じ込めるための空間も作る。
 アリスはこの世界に降り立った瞬間に『アニマート』に捕らわれたんだ。
 そして、あの二人は『アリス』を助けようと必死だったんだ。
 って、隠れてないで出てきなさい。二人とも」

そう言って、ハオとマオの二人が出てきた。
体中怪我だらけになっている。
ハオが話して来た。

「スミマセン。僕らの『アリス』助け出せなくて」

だが、私はさっきの事もあってハオを見ると顔が赤くなってしまう。
ちゃんとしなきゃ。
私は深呼吸をしてハオに話した。

「いえ、ハオ様は悪くないです。私が気がつけなかっただけですから」

普通にハオに話すだけなのにドキドキが止まらない。
どこかでハオを意識している自分がわかる。
マオが話してくる。

「何、かしこまってるんだ。ま、今回は助けられたから良かったけれどな」

そう言ってマオは私の額を人差し指で押してきた。

「痛~い。何するのよ」

私はマオをにらみつけた。
ラキシスが手を二回パンパンって叩いて話し出した。

「はい、はい。そこまでね。
 とりあえず、今回は運が悪かったって事で。でも、無事アリスも救出できたから考えるわよ。この世界での戦略を」

ラキシスがそう言った時マオはけだるそうな顔をした。
瞬間ラキシスが手に持っていた杖をマオに向けてこう言った。

「マオ、ちゃんとしなさい」

杖の先にある水晶の部分がバチバチと音を立てている。
マオは大人しくなってこっちを向いた。

「あんたにも弱点があったのね」

私はつい口に出してしまった。マオは「うるせぇ」とつぶやいただけだった。
ラキシスが話し始める。

「今、この世界にいる相手はビショップの『アニマート』そして、ルークの『アレグロ』の二人。そして、何名かのボーンよ。そして、こっちはナイトが二人と私。
 おそらくまともに相手は戦ってこない。どうにかしてアニマートは自分のテリトリーに私たちをおびき寄せてくるはず。
 その時を狙って戦うしかない。アニマートのテリトリーでは私たちの能力はボーンと同じになってしまうから。けれど、その中に入れるのもアニマートだけ。アレグロは中に入って来られない。
さっきみたいに苦戦はしなくて済むからね」

ラキシスの話を聞いていて、私を助けるために3人は戦ってくれていたんだってことがわかった。
だからハオもマオも怪我をしていたのか。
私はハオを見てみた。
細い体。この前の世界でも傷だらけになっていた。
気丈に振舞っているけれど体は傷だらけのはず。私も強くならなきゃ。
ハオを見ていたらハオも私を見てきた。ハオが笑いかけてくる。
私は顔が赤くなってしまった。
ラキシスが話して来た。

「アリス。ちゃんと聞いているのか?」

私は一瞬ビックリした。マオが横で笑っている。
絶対後で何かしてやる。
私はマオのその表情を見て思った。
ラキシスが続ける。

「とりあえず、アニマートの空間に気をつけながら、誰もアニマートのテリトリーに落ちないように気をつけること。もし、誰か一人でもアニマートのテリトリーに落ちてしまったら、その空間がひずみを作って他のものも引き込みに来るからな」

え?どういうこと。
私はラキシスに向かって話した。

「あの~、ラキシスさん。実はあの空間にはチャーミーという人もいたんですけれど、大丈夫でしょうか?」

ラキシスは私の言葉を聞いてビックリした。その時、気がついた。
私たちの足元の空間が歪みだしていることに。

「みんな飛べ」

ラキシスがそう言った。けれど、私たち4人はそのまま空間に飲み込まれてしまった。



気がついたときには世界が大きく見えていた。
自分の手を見る。小さくなっている。いや、まるで子供みたいになっている。
辺りを見る。
ハオもマオもラキシスも小さい子供に代わっていた。
不思議と服装も変わっている。ハオもマオも短パンになっていた。
ハオにはウサギ耳がついている。短パンに白いシャツ。なんだか可愛かった。
ラキシスは水色のワンピースを着ている。
このシアンの世界にぴったりだった。
マオが起きて話して来た。

「アリス、ちっちぇ~なんだよその姿は」

外見が子供になってマオがただの悪ガキに見えてきた。
その姿を見て笑ってしまった。
ハオが話してくる。

「この姿は困りましたね。剣もこんなものしか出せません」

そう言ってハオが手にしていたのはプラスチックで出来た白い小さな剣だった。
マオも同じように手に剣を持つ。

「隙あり」

マオはいきなり私の頭をその剣で叩いてきた。
マオが笑っている。
私も集中してみた。手に剣が出てきた。ハオやマオと同じようにプラスチックで出来た白い剣。
けれど長さが違う。私のだけ短い。

「やけに短けぇんでやんの。やっぱりボーンだからだもんな~」

マオがそう言ってくる。
何よ。
気がついたら私は目に涙を浮かべていた。
ハオが言う。

「マオ、女の子を泣かすのは最低です」

マオがうろたえている。
私の顔を覗き込んで謝ってきた。

「アリス、ゴメンな」

その瞬間私は剣でマオの頭を叩いた。

「隙あり」

ぱこーんっていい音が響いた。
なんだかその音を聞いて笑ってしまった。
楽しい。なんでこんなに楽しいんだろう。
ラキシスが話して来た。

「この世界に飲まれているな。
 自分の年齢を思い出せ」

凛としたその声に私もマオもハオでさえも背筋が伸びた。
どうしてか体が子供になると頭の中も子供になりそうになってしまう。
ラキシスが話を続けてきた。

「この世界は『アニマート』のテリトリーだ。
 どう襲ってくるのか解らない。だが、一つに固まっているのも危険だ。
 そのため、二つのチームにわけてこの世界を探索する。いいな?」

体は子供なのにラキシスは変わらず大人だった。
私は尊敬の目でラキシスを見ていた。
マオが話してくる。

「仕方ねぇな。アリス。俺が守ってやるよ」

そう言ってマオが手を出してきた。ハオが話してくる。

「僕らの『アリス』
 アリスを守るのはナイトである私の使命。どこまでもお供します」

そう言ってハオも手を出してきた。マオとハオがにらみ合っている。
何を二人して競い合っているんだろう。
マオとハオはラキシスを見た。ラキシスが話す。

「チームわけは、私とアリス。そして、ハオとマオだ。
 私は右側から探索する。ハオ、マオは左側から探索すること。以上」

そう言ってラキシスは私の手を取ってこう言ってきた。

「行きましょう」

その速さにビックリした。
ラキシスは続けて言って来た。

「アリス。後ろを振り向いちゃダメだからね」

私はコクリと頷いた。

歩いているとラキシスが話して来た。

「アリスは好きな人がいるのね」

私はそう言われて首をぶんぶん縦に振っていた。
なんだかハオとは違った意味でラキシスは緊張する。
ラキシスは続けて話してくる。

「でも、ハオは難しいわよ。辞めなさいとは言わないけれど、それ相当の覚悟がいるからね。いつかその意味が解る時が来る」

私はきょとんと見ていた。ラキシスは続けてこう言って来た。

「アリスはマオのことはどう思っているの?」

私はラキシスに言われて考えていた。ラキシスに話す。

「マオはどこか生意気で、でもたまに可愛いって思うときはある。
 でも、私は出会ってしまったから。先にハオ様に」

私は優しく包み込んでくれるハオに惹かれている。でも、どうしてみんなハオは難しいって言うのだろう。
解らない。
ハオに一体何が。私の知らない何かがハオにはあるんだ。
知りたい。
私はそう思った。それがどういうことであれ、私は受け止めたいって思ってた。
そう、そう思ったことは事実だ。
その時、声がした。

「アリス~アリス~」

そこは公園だった。そこには砂場に絵を描きつづけているチャーミーがいた。
私はチャーミーに向かって走った。

「チャーミー。まだ戦っていたのね」

チャーミーは「うん」って力強く言って来た。ラキシスが話す。

「一体何をしているのだ、これは?」

チャーミーが話して来た。

「影と戦っているの。この場所は唯一このテリトリーの中で層が薄いところ。
 だって、影がこんな形でうねうね動くことなんてないでしょう。
 それに、描いた絵だって普通じゃない消え方をしている。
 そう、ここはテリトリーの出口に一番近いところ」

チャーミーはそう言って影と戦っている。ひょっとして一番真理に近いのがチャーミーなのかも知れない。
ラキシスは大きな声でこう言った。

「絵を描くのを手伝おうじゃないか。みんなで」

ラキシスはそう言って木々の方に小石を投げつけた。

「痛ぇ」

そう言ってマオが出てきた。ハオもいる。
どうして?
ラキシスがこう言って来た。

「ああ、あいつらは少し距離を開けてつけてきてたんだ。
 話しが聞こえない距離だったからあんな話しができたんだけれどな」

ラキシスはそう言ってきた。
ハオに聞かれていたらどうしようって思った。
そう思うだけでドキドキしていた。ラキシスはこう言って来た。

「ハオのことはハオ自身に聞くといい。誰かの口からじゃなくハオから聞くのが一番だからな。応援してるぞ」

そう言ってラキシスは私の背中をポンっと叩いてくれた。
ラキシスが言う。

「まず、マオ。絵を描いて参戦だ」

そういわれてマオが枝で砂に何かを描き始めた。
見ているとそれは丸く塗りつぶしているだけだった。

「何それ?ひどくない?」

私はついマオに言ってしまった。マオが言う。

「芸術が解ってないな~これは岩石マンだ」

胸を張ってマオが言っている。私はマオにこう言った。

「って、ただの丸を描いただけでしょ。センスないね~」

そう言ってマオはハオに枝を渡していた。ハオはゆっくり絵を描き始めた。
しばらくして、戦車の絵が描けた。マオが話す。

「時間かかりすぎだよ」

ラキシスが言う。

「ハオは完璧主義だからな。ささっと何かを描くのが出来ないのだろう」

仕方がないな。
私は手を伸ばしてハオから枝を受け取った。少し手が触れてドキッとした。
私はチャーミーと負けなくくらいのスピードで絵を描いていった。
描いた絵で攻撃する。何か楽しかった。
ラキシスが手を伸ばしてくる。
私はラキシスに枝を渡した。ラキシスは大砲のようなものを描いたと思ったら、影に向かって一心不乱に線を描いて攻撃していった。
もうすでに絵じゃなくなっている。影がどんどん離れていく。
チャーミーが言う。

「何これ?今までこんな動きしたことないよ」

確かに私がこの世界から、アニマートのテリトリーから抜け出した時は動いている影が動かなくなった時だった。
こんな逃げ惑う影なんてみたことがない。影はどんどん一つの形になっていった。
そう人の形だ。
空間が歪みその影の持ち主が現れた。
赤を基調にしたピエロのかっこ。アニマートだ。
アニマートが話してくる。

「ちょっと、ちょっと。今のはルール違反でしょう~
 影を絵で攻撃するの。そんな線とか良くわからない丸とかはいらないのね~
 もう、もうちょっと美的センスを考えてくれないと、こっちもテンションあがらないっていうか、もうここも閉じちゃうよ~」

なんだかいつもこう語尾を延ばすアニマートの話し方は緊張感がなくなる。
だが、その話してくるアニマートにマオはいきなり切りつけた。
アニマートは空間移動をして場所をずらした。
移動した瞬間に次はその場所をハオが切りつけた。
ぱこん。
悲しい音がした。
アニマートが言う。

「作戦としては、ま、いい感じなんだけれど。
 いかんせん、そのおもちゃの剣じゃちょ~っと痛いかな~って程度だし。
 ま、よけなくても良かったんだけれどね~
 ついノリで逃げちゃったね。それにここはボクのテリトリーだよ。
 つまりボクの中に君たちはいるってことさ。
 だからこんなことだって出来ちゃうんだよ~」

そう言って、アニマートの手が伸びて私の襟首を掴んで宙に持ち上げた。
アニマートが話す。

「アリスはかぼちゃパンツはいているんだね~」

私は襟首を持たれているせいでスカートが上にあがっていた。

「きゃ~」

私は一生懸命スカートをおろそうとした。
ハオがアニマートに突進する。
けれどアニマートの体はその瞬間に移動をする。
チャーミーがアニマートの影を枝で指した。
アニマートの動きが止まって、持ち上げていた手が緩み私は下に落ちた。
いや、地面に落ちたと思ったけれど、私の下にマオが下敷きになっていた。

「ありがとう」

私はマオに言った。マオは言った。

「別に、お前を助けたわけじゃないからな。ただ、ちょっと躓いたんだよ。
 そしたらお前が上から落ちてきただけだからな」

マオが横を向きながら話してくる。
その時ラキシスが叫んだ。

「解った。この世界のからくりが」

そう言ってラキシスは手に持っている杖に力を込めた。
先にある水晶はやたらと小さくなっている。けれど、バチバチ音が鳴っている。
ラキシスが言う。

「ここは『アニマート』の中なんだ。
 そして、この公園は地面がむき出しのところ。
 チャーミー。だからここを選んだんだろう」

チャーミーはコクリと頷いた。ラキシスが続ける。

「つまり、この砂場は『アニマート』にとってはむき出しの場所。アスファルトでコーティングされていない場所。鎧で言うとつなぎ目みたいなものだ。
 そして、地面を攻撃すれば『アニマート』自体も痛みが来る。そうだろう」

そう言ってラキシスはバチバチ音を鳴らしている杖を地面にぶつけた。
目の前のアニマートが苦悶の表情になる。
同じようにハオもマオも剣を地面に突き刺した。
私も同じようにした。チャーミーも。
世界が揺れる。
私たちはその世界からはじき出されるように飛ばされた。


降り立った場所。
そこは、同じくアスファルトの上だった。
けれど私を抱えてくれている人がいる。
見上げるとハオだった。

「大丈夫ですか、僕らの『アリス』」

ラキシスはチャーミーを抱えていた。
守られてばっかりだ。
私はチャーミーを見てびっくりした。
あのアニマートのテリトリーでは可愛い女の子の子供って感じだった。
けれど、この世界に戻ってきたチャーミーはくりくりの目はそのままでかなりかわいい顔をしていた。
スタイルはラキシスに勝てないし、顔はチャーミーには勝てそうにもない。
ラキシスが言う。

「皆、構えろ。衝撃が来るぞ」

ハオが私の前に立ってくれている。
けれど、ものすごい風が押し寄せてくるのが解る。
何これ?
ハオが言う。

「これが赤の女王のルーク『アレグロ』の能力。
 『アレグロ』は風遣いなんだ。こうやって突風で動けなくしてくる。
 そして、身構えているところを『アニマート』が空間を渡って攻撃をしてくる」

マオが私の近くにやってきた。
鈍い音がした。

「気をつけろ。『アニマート』の狙いは『アリス』だ」

そう言って、マオは剣戟を防いでくれた。

「ありがとう」

私はマオに向かって言った。
けれど、マオはすぐに前を向いた。
そういえば、前の方からも鈍い音がし続けている。
マオが言う。

「アレグロは風に合わせて攻撃してくる。ハオの後ろから出るんじゃないぞ」

私はハオにもマオにも守られている。
弱い存在。いつかちゃんと強くなるから。
私は剣を構えながらそう思った。

ラキシスが杖をかざして叫んだ。

「招雷!!」

その瞬間に回りに何本も雷が落ちた。
風が止まる。
ハオが前に走り出した。
そこにはかなり体格のいい男性がいた。
黒い短い髪。ごつごつした体。そして赤い鎧。
ハオは剣をなぎ払う。
だが、そのごつごつした体形に似合わず早くその男は動いた。

「さすが、赤のルークだな。アレグロ」

ハオが言う。
あのごつい男がアレグロ。
アレグロが言う。

「戦うのめんどくさい。風でお前の動き止める」

そう言って、またアレグロから風が吹いてきた。
ラキシスが杖をかざす。
だが、そのラキシスの前にアニマートが現れた。

「あのね~その招雷。
 ちょ~と、めんどくさいってか、困るんだよね~
 だから、あなたの相手は私がするってのはどうなのかしら~」

そう言ってラキシスにきりつけてきた。
ラキシスはその杖で剣戟を防ぐ。
何度も来る剣戟を防ぎ続けている以上ラキシスが雷を呼ぶことが出来ない。
チャーミーが私の所にやってきてこう言う。

「おかしいと思いませんか。
 こっちはナイト二人にビショップ一人。それにボーンが二人。
 ポイントならナイトの「3」かける2に、ビショップの「3」そして、ボーンの「1」かける2で「11」なの。
 でも、赤の女王の方はビショップの「3」にルークの「5」だけで「8」
 多分どこかにまだ誰かが隠れているはず。じゃないと攻撃なんてしてこない」

確かにそうだ。
明らかに負ける戦いをあの『アニマート』がしてくると思わない。
何かあるんだ。
そう思ったとき、風上から何かが飛んできた。
剣だ。
私はしゃがんでよけた。
風の中目を凝らすとトランプ兵が2体いる。それでもまだ赤の女王の方はポイントがプラス2で「10」だ。
悩んでいるとアニマートが叫びだした。

「そろそろですよ、皆さん」

そう言った時、空が赤く染まり始めた。
赤の時間。強さが1.2倍になる。
相手の今のポイントは「10」1.2倍すると12ポイントだ。

風が止んだ。その瞬間に何かが動いた。
アニマートの攻撃かと思った。
だが、違った。
アレグロがものすごい速度で間合いを詰めてきたんだ。
アレグロは剣ではなく槍を持っていた。
一突き。
剣で防がなきゃ。
私は剣で軌道を変えようと構えた。
けれど、そのまま吹き飛ばされてしまう。
アニマートの声がすぐ近くで聞こえた。

「あらら~
 もう『アリス』はゲームオーバーですかね」

そう言って私の眼の前に剣戟がくる。
アニマートの空間移動攻撃だ。
逃げ切れない。
せめて一太刀でも。
私は剣を突き出した。
剣がはじかれる。

「あ~あ
 そういう往生際の悪いところってどうなのかしらね~」

そう言ってアニマートは剣を振り下ろしてきた。
何かがアニマートを弾き飛ばした。
マオだ。
マオが手を差し出して言って来た。

「何してるんだか。さっさと起きろ」

私はマオの手を取って起き上がった。
周りを見る。
ラキシスはアレグロと戦っている。
ハオはトランプ兵を倒し終わってこっちに向かっている。
アニマートが言う。

「やはりこの戦力じゃ厳しかったですかね~
 いい戦略だと思ったんですけれど~
 意外とアリスはしぶといみたいだし、ここは違う世界にでも行って待ち構えますかね~」

そう言ってアニマートもアレグロも消えた。

アニマートを倒すのは難しいのかも知れない。
チャーミーがやってきた。

「大人になった『アリス』を見るのははじめましてだね。
 なかなか、戦いの中だからちゃんと言えなかった。
 あの世界から出してくれてありがとう」

チャーミーは頭を下げながら言って来た。私はチャーミーに言う。

「ううん。チャーミーが居なかったらあの世界の抜け出し方も解らなかったもの。
 今だからだけれど子供に戻れてちょっと楽しかった」

チャーミーが言う。

「そうだね。子供のときってなんでか、大人になったらもっと色んなことが出来ると思っていた。けれど、大人になるって子供の時に思っていたことと違っていたかも」

私がチャーミーに言う。

「そうだね。無邪気に笑いあうって大事だものね。大きくなるって色んなことが出来て、色んなことが知れるけれど、それは何かを失って得たものなのかもね。って、大きくなっても子供みたいな人もいるけれど」

私はマオを見た。マオは私を見て「ふん」って鼻で笑っただけだった。
私はハオを見た。ハオは遠く空を見上げていた。私はハオに話しかけた。

「ハオ様、、、」

ラキシスに言われて、いや、他の人にも言われて気になっていたこと。
『ハオは難しい』
その理由が聞きたかった。けれど、何て聞いていいのかわからなかった。
私は深呼吸をしてこう聞いた。

「ハオ様はだれか好きな人がいるんですか?」

なんかドキドキしている。ハオの顔を見ているとなんだかどんどん顔が赤くなるのが解る。
ハオが答えてくれた。

「私は誰かを愛するってことはもう出来ないんだ。
 けれど、アリスは特別だよ」

そう言って、ハオは私の頭をポンっとたたいて撫でてくれた。
誰かを愛することが出来ない。
どういう意味なんだろう。
私がなんとも言えない表情をしていたからか、ハオは続けてこう言って来た。

「もし、このチェスの戦いが終わって、アリスが盤の上に残っていたらその理由はわかるよ。だから、アリスは戦い抜いて欲しいんだ。そのときが来るまではアリスを守るから」

私は何かが引っかかった。いや、チクリと胸が痛くなった。
それは何かの予感だったのかも知れない。
声がした。ラキシスだ。

「この世界は大丈夫そうだな。では、そろそろ違う世界に旅立つか。
 また、次の世界で会うかも知れないな。赤の女王もそろそろ戦力をぶつけて来るだろうからな」

そう言ってラキシスは空間を歪ませて消えていった。
マオも同じように手だけ振って消えていった。
チャーミーが言う。

「アリス。また会いましょう。その時はもっとお話ししたいな」

そう言って手を繋いできた。嬉しかった。私は深呼吸をして言った。

「じゃあ、私も行くね。次の世界へ」

目の前の空間が歪み始める。
一歩前に踏み出す。世界が変わっていく。
次の世界。その世界の色は『マゼンダ』だった。



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