第9回 早坂茂三さんの遺言 その2

早坂茂三さんの遺言2 やさしい目

 米沢市の老舗蕎麦屋・粉屋小太郎での早坂茂三さんは饒舌でした。早坂さんとは何回かお会いするチャンスがありましたが、このとき向かい合わせで1時間以上も米沢の思い出話に花を咲かせるとは想像もしておりませんでした。
「いつも以上にやさしい」というのがこのときの印象でした。

「嘉久治さん、これからどこに連れて行ってくれるのかね?」と相澤嘉久治さんに尋ねる早坂さんは相変わらずのヘビースモーカーでした。
「飯豊町の白川荘です。第三セクターで運営しているのですが、珍しく支配人が女性です。お湯も料理もなかなかいいのですよぉ」と「嘉久治さん」こと相澤さんが答えました。
「大丈夫かなあ。(私に向かって)嘉久治さんの紹介はあぶないよお~(笑い)第三セクターや保養所ってのは客のことや国民のことなってこれっぽっちも考えていないから赤字を作るんだよ。嘉久治さんそこは本当に大丈夫なのかい?」とお茶目に言うのでした。これにはみんな大爆笑です。相澤さんもけっして短くない髪を右手で掻きながら、顔を赤らめて笑うのでした。

「はじめさんはお酒は好きですか?えっダメ?何が好きですか?もっぱら槍ですか?それもダメ?嘉久治さんを師と仰いでいるって?嘉久治さんもよかったねえ~いい弟子が出来て」とニコニコしながらやさしい目で私たちを見るのでした。
 顔は笑っていても目の奥では笑いがない人が多いのに、このときの早坂さんはなんというやさしい目なのだろうと思いました。

 蕎麦屋・粉屋小太郎の門前でこのお店のご主人と早坂さんを囲んで写真を撮りました。
「それでは仕事に戻ります」と挨拶する私に、相澤さんと早坂さんは、
「仕事が終わってから一緒に泊まりなさい。いろいろお話をしましょう」と声を掛けてくれるのでした。
「そうそうご学友の新関さんも連れて来てよ」と相澤さんが言いました。
「誰だい?ご学友とは?」と早坂さんが相澤さんに訊きます。
「はじめくんの高校時代のご学友です」と相澤さんが答えました。

「嘉久治さんを頼みますよ」と、そっと私の耳元で早坂さんが言うのでした。私は早坂さんの顔を見ました。早坂さんはしっかりとした目に変わっていました。そしてすぐにやさしい目にもどりました。

 つづく

 2004年6月30日記

追伸 「素晴らしい山形」の再発見を探求する相澤嘉久治さんのホームページ「スペースA」もあわせてご覧ください。
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