雨のちハンターだまり♪

雨のちハンターだまり♪

―因果の鎖―



決して忘れる事かなわぬ。

決して

決して中途半端では終わらぬ。

決闘=死闘 死闘とは

どちらかが死ぬまで、戦い続ける事。




そう、どちらかが死ぬまで・・・・・。






ナナが連れ去られて、ミズキ達はすぐに村に帰った。

まず真っ先に。
S はワタへ、
ミズキとデビルは、村長へ城での事を報告した。


ナナがオルトロスに連れ去られた。

その事実を聞いた瞬間、村長の眼が見開かれた。



「もしや奴め、あの伝説を蘇らせる気か……」

「伝説って何なんです?奴の言ったおとぎ話とか、なんとかって……?」


「お主達2人にはそれを先ず話そう」





昔々の話じゃ


魔法とやらが、まだ存在していた頃の事。


邪なる黒龍が真血の「戦女神」をさらい、


3獣神の一部。

すなわち


神獣の 「雷角」

聖山の 「爪」

そして破滅の 「邪眼」


この3つと戦女神を生け贄に捧げ、
黒龍が世界を崩壊させようとしたらしい。



儀式は長い時間を要し、三日三晩眠らずに魔力を込め続けて完成する。

しかし、おとぎ話では3日目の晩に、「3獣神に選ばれし 継承者 」によって

世界の崩壊は食い止められておるのじゃ・・・・。





「魔力だって?」


デビルが吐き捨てる様に言った。


「そんなもの存在するわけがない、ましてや伝説だろう?」


「しかし、古より生き続けている龍の咆哮には、
 ある種の呪いや魔力の類がこもっていると聞く。
  そして、それを実行すると言ったのが黒龍、いや、オルトロス本人ときておる」


「伝説の実在は否定できないという事ですか」



しばしの沈黙が流れた。

ミズキは儀式を止める方法を。

デビルはナナを救う手立てを。


村長は、自分の今やるべき事を。それぞれが考えていた。



「デビルよ」

「あ?」

「そなたはえらばれし継承者じゃ」

「いきなり何いって……」

「お主も気付いておるはずじゃ、その身に宿りし獣神に」


「…………」


「デビル、そうなのか……?」

「俺にも、一応本名がある。錆びかけた古い名だ」


デビルは、一度捨てた名を、思い出すかの様に。
丁寧に読み上げた。


【イルマ・ランディア】、それが


俺の名だ。



「俺の両親は、聖山を継承する真血の一族。
 そして・・・・・・、オルトロスに殺された」


「っ!?」

「勝たなくてはならない理由は他にもある。
 両親は俺にイルマという下級天使の名をくれた。
 一般には名も知られていなくても。1人の天使の名を。
 昔、俺にも無垢な笑顔があった。
 あの事があってから笑顔を失った俺を、救ってくれた人がさらわれてんだ。
 俺は・・・・・、奴の首を取る」



「まぁ待て待て待て、待つがよい」


「ミズキ、お主とて例外ではない。
 お主の親代わり、あのエドガーじゃが。
 あやつは神獣に選ばれし継承者じゃった。
 エドガーは死ぬ間際に、ロケットに力を宿してお主に託したはずじゃ」


「だとしても、そのロケットが・・・・・!」


「案ずるでない、エドガーの魂がお主の中にある様に、
 神獣の継承もロケットを介してお主に移っておる。わしには見えるのじゃ」




まるで懐かしむかの様に、
しかしどこかに焦りを漂わせた声で、村長は言う。

「戦いは、明後日じゃ。明日の夜出発し、儀式を中断させる
 また連絡があるじゃろうから、お主等は十分な休息をとるがよい」






振り向いた村長が、最後に一言呟いた。

「自分を、責めるでないぞ」

その言葉が何故か、不自然なくらい胸に突き刺さった。








同日、夜。


(何時になっても眠れやしない)


連日の事務仕事。今日の戦いと言い、けっこう疲れているはずなのに。
ミズキは、全く寝付けなかった。

デビルの姿も、ベッドには見あたらない。




もう1つ、不自然な点がある。
いつもロケットを下げていた位置あたりが、妙にチクチクするのだ。

さっきの話もある。

キリンが俺に何かを伝えようとしているのか。

胸騒ぎがしてならない。


何か起こっているのではないか。

もしかしたらナナさん・・・・・・。


そんな思いが巡り巡って、気付いたらドアの外に立っていた。

さっきから姿が見えなかったデビルも、そこにいた。





2人は頷き、言葉を交わすことなく村の出口へ。


すると、どこからともなく声が聞こえてきた。



『【ヴェレンジェ山】・・・・・頂上・・・・・・早く・・・・・・』



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その山は、山登りの間でも過酷だと評判の山だった。

地表から続くプレートは、山頂付近になると反り返る様に曲がっており、
その部分を迂回する事を余儀なくされる。

また。大きな噴火はないものの活火山であり、
絶えず一定の間隔で吹き出すマグマと、
地面から天に生えたトゲ状の堆積物があいまって




まるで地獄の様な場所だ。



AM3:19


2人の少年が、そんな地獄絵図とも言える場所を登って行っていた。



「儀式は、この山の頂上で行われる。なんとしても阻止するんだっ」

「あたぼうよ!このデビル様、助けると誓った女は何をしてでも助け出す!」



あれからずっと、声が聞こえ続けている。
それも、ミズキには青年の、デビルには老人の声が聞こえるのだ。

声は山頂に近づくにつれて、大きくはっきりとしてきた。



彼等がくれた情報によると。


儀式の3つの魔具と生け贄は、魔力を込められた魔法媒体と化し、
それぞれを取り巻く属性に包まれて





消滅し、世界が崩壊を告げる





手段は、ただ1つ。


伝説と同じように、オルトロスを討ち取る事のみ。




山頂付近、城下町ほどあるような平地に出た。

のこる行程はずっと奥に見える狭い一本道を上るのみ。



つっきろうとしたミズキ達を、予想もせぬ洗礼が待っていた。



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そのころ、村では。



「ミズキが!デビルが居ない!」



明朝、村の小さな警鐘が鳴り響いた。







「むぅ・・・・あ奴等行きおったな・・・・」


ワタが装備を整えて、物々しい顔でやってきた。

村長は相変わらず渋い顔をしている。



ワタが鋭く言い放った。


「あの2人には、目の前でナナがさらわれた事は
 ・・・・・・・・・・・・やはり重すぎたのかもしれない」

「ふむ」と

村長は静かなため息をつく。




「なぁ・・・・・・、村長」



ワタは改まって、頭を下げた。

「3人は俺たちの仲間だ、旅団の仲間を失いたくない・・・・!」


「お主ならな・・・・、そういうじゃろうと思ったよ」




村はいまやちょっとした混乱。
失いたくない者のため戦う・・・・。
それは彼の大義であって、正義。
老いぼれの含蓄であっても、信じて突き進む者を止める事はかなわない。




「わしとて手を打たぬワケではないぞ」

「・・・・何か策が?」


村長はうっすらと笑みを浮かべた。
遠いソラノムコウを見る様な目で・・・・。


と、
いきなり村中に聞こえるほど声を張り上げて、叫んだ。


「この村に所在する旅団各位!準備が整い次第北出口へ集合せよ!
                         皆の衆!これは・・・・・・・・・・・・」





「決戦じゃ!」



「「「オオオオオオオオオオオ!」」」


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「クソが!なんだァ、コレ!?」

「万事休す……って洒落にならんな…………」


広場状の場所を中程まで進んだとき、それらは悠然と現れた。



彼女たちは

緑 桜 金

その名を大地に轟かせ、光刺す芽生えの丘を吹きすさぶは一筋の光。
飛竜種で最強と謳われる種、リオの妃。

2頭のレイアを従える様に現れるは、金色に輝く真の王妃。
その身体は、切り傷や鱗の剥がれ落ちた後など、歴戦を物語る。







彼らは

赤 蒼 銀


その名を天高く標し、闇の蒼天を切り裂くは一筋の闇。
飛竜種で最強と謳われる種、リオの王。

2頭のレウスを従える様に現れるは、銀色に瞬く真の帝王。


互いの目と目を合わし、戦いの咆哮を上げる金と銀の絶望。








………事態がそれで収まればまだ良かった。



地響き、突然の轟音。



現れるは、岩壁を突き破る双角。
黒と茶が2体ずつ、突如としてこの地を惨劇に変える8本の角。

現れるは、火口に潜みし重鎮。
白と黒が4体ずつ、突如としてこの地を地獄に変える8体の鎧。


空を覆い尽くすかの様なイャンクックの群れ、
その先の空にかいま見える暗雲と雷の悲鳴。

細い道の向こうに、血の様に紅く輝く目が見えた………………!

それを捉えて走り出そうとするデビル、
しかしそれはグラビモスの熱線によって阻まれる。

髪の毛の先をかすめるそれは、当たれば即蒸発の厄介なもの。
ミズキが見ると、黒い双角のうち片方が突進を開始していた。

火蓋はもう、落ちている。


その二本角をかわし、反撃に出るミズキ。
しかしそれは、蒼き王のブレスによって大河の塵と化す。
5メートルほど吹き飛んだミズキを、大剣の腹で受け止めるデビル。

「いけるか?」



「あぁ」


そんな言葉が、2人の目と目で交わされた。

体勢を整え、構えるミズキと攻め入るデビル。
クロームデスレイザーの鋭い一閃がディアブロスの甲殻を裂き
強力なその毒を体中に流し込む。


悶える竜の角に、続けざまの一撃を浴びせる。

いける

そう感じた次の瞬間、それは音を立てて崩れ去る。
もう一頭の黒角が放った咆哮によって、方向感覚を狂わされる。

それを見逃さずに、ハンマーの様な尻尾がデビルを襲った。


上質な飛竜素材の防具を通してでも、その一撃は強烈すぎた。
うずくまり動けないデビル、それを狙ったグラビモスの熱線が放たれる刹那。


閃きが走った



遙か遠方、西の方角から放たれた火球が、グラビモスの頬を直撃した。
衝撃で首を振った為、それは数頭のイャンクックを焼き尽くす結果となる。


リオレウス・・・・・!?



それは紛れもなくレウスだった。
朱い鱗、翼の黒い紋様といいどこからどう見てもレウスなのだが
その鱗には威厳と言うよりも無垢がにじみ出している。
全身に、飛竜種のその超越と、どこかに漂う優美を纏いながら

そのレウスは、西から真っ直ぐにこっちを目指す。



近づいてきたレウスは、目の前の王達に比べると遙かに小さかった。
幼竜と言われる段階から、ちょうど成体に変体する間の姿だ。
鱗は徐々に高質化してきているみたいで、所々はもう立派な甲殻である。


ふと、そのレウスと目があった。様な気がした。
やがてレウスはデビルとミズキの後方に降り立ち、喉を鳴らした。


小さなレウスの背中に、もっと小さな影が動いた。



「ふぅ・・・、君たちも無茶をするね」


「き、君は!」

デビルは訳が分からぬまま、眼前の敵を警戒し続ける。
どうやら、新たに竜が現れ、相手も困惑している様だった。

「ボクはシオン、こいつはリウ。大丈夫、襲ったりしないからさ。
      それと・・・・・・ミズキさん、お久しぶり」

「本当に久しぶりです、お元気でしたか?」


「まぁ、それなりに上手くやってるよ」


騒ぎにしびれを切らし、一頭のイャンクックが突進してきた。
デビルが切り伏せようとした、その時
シオンが脇をすり抜け、デビルより速く第一撃を繰り出した。

その獲物、長き事比べる物無し。
3.5メートルはあるかと思われる長槍、シオンによれば、名前は無いらしい。


・・・・・《ドラグーンナイト》
それが彼女の二つ名である。

幼きリオレウスを駆り、空からモンスターを仕留める。
そのため獲物も長い物が必要になり、工房に無理を言って作らせたらしい。
腕は確か。いや、「確か」で終わらせるのは不適切なほどの実力である。


「しかし、あなたがなぜ・・・?」

「ん、ココットの英雄に依頼されたのさ。
  ・・・・・・・ボクだけじゃないよ、ホラ見て!」



自分たちが通ってきた山道。
そこに今、無数のハンター達が溢れかえっていた。



『第一部隊、前!拡散弾Lv4発射ァ!」

号令を上げたのは輪廻。その声を掻き消す様に、十数発の弾丸が空にばらまかれる。
新開発の拡散弾、それは上空で拡散し、さらにそこから拡散弾をばらまくといった変わり種である。
開発は輪廻が担当したらしい。



雨の様に降りそそぐ爆薬、流石の飛竜達もパニックに陥る。


「君たち2人分の支給品を持ってきたんだ、リウの鞍のポケットから取って!
     ボクはこれから近接部隊に加わって、リウには後方支援をさせるから」


「それと・・・・・・・、ミズキさん」

「なんです、改まって」

「指揮官をお願いします、これはワタさんの提案です」



ワタさんが・・・?
あの事件以来、部隊を指揮することに何かしらの恐怖を感じていたミズキ。
それを知っていてなお彼は・・・・・。


俺を試してる、俺を見てくれてるんだ


「判りました、まず近接部隊を3つに分けて、それぞれディアブロスとイャンクックに
  2と1の比率で当たらせて下さい、グラビモスは・・・・・・・」

考え込むミズキ、こうなるといつも周りが見えなくなる。
後ろにはグラビモスの大きな口が迫っているのに・・・。


「ミズキさん!」(間に合わないッ)



ズドン



瞬間の貫通音。甲殻が何か鋭い物で貫かれた音だった。
そして、頼もしい声が聞こえた。


「心配ご無用、グラビモス共は我等《皇龍近衛兵団》が引き受けた!」

「シルバーさん!」


現れたのは《銀龍》の二つ名を持つシルバー。
隣には《皇龍》のミイナ、《紅龍》のリアが居た。

ミイナはにっこりと微笑み、こう言う。

「ミズキさんは今は無理しないでね、この後が本番なんだから。
          ここは私たちに任せっきりで大丈夫・・・・!」

そのミイナの向こうから、飛んでくる朱い影。
リオレウス、それが一行の頭上から襲いかかってきたその時・・・・

ザシィ

切り落とされ、地に伏すリオレウス。
ハンターの間でも出来る者はごく僅かと言われる、極意「飛竜落とし」
それを易々とやってのけたのは、ミズキと年端変わらぬセキであった。

「よっ、ミズキさん。お久しぶりで。あいや、少し前に手紙でお会いしましたな」

起きあがるリオレウス、しかし、予期せぬ衝撃がレウスを襲う。

オラァァァァ!

強大なハンマーの、一撃必殺の振り下ろしが見事にヒットし、
雄火竜はその生涯を閉じた。

「何だ、面白そうな事になってるじゃないですか。
 リオ種の奴等は、俺とセキに任せて、
 ミズキさんとデビルさんはイャンクックら辺と戯れていて下さい・・・!」

カズマであった、混色の一員ながらも、ギルドからの仕事が多く
なかなか村にも帰って来れなかったのだが、ギルドマスターが呼んだらしい。

ミズキは感じていた。
集まったハンター達、みなGクラスの腕前を持っている様だが
その中でもひときわ強いオーラを放っているのは、眼前にいる6人であった。

何より凄いと感じたのが、ここより少し北で戦っている2つの覇気。
それが何なのか、容易には想像が付かないほどの何かが伝わってくる。

「村長とギルドマスター。なのでしょうか・・・・」

「おそらく、あの2人だろう」

デビルも同じコトを感じていたらしい。
いつもしわの奥の目に秘められていた闘牙が、
ただの薄衣もなく剥き出しになっているのがよく判る。

さしずめ、神か何かのような気配だった。


「負けてらんねェな、相棒」

「あぁ!」

もう一度剣を取り直す。
今この状況、決して有利なわけではない。
集まったハンター全員が戦力になったとしても、五分五分と言ったところ。

なら・・・・


「最後まで全力で戦ってやる!」
オデッセイが、鋭く光を返した。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


それから、30分が経った。
残った飛竜はディアブロス二頭。
負傷して離脱したハンター達も居て、残ったのは70名。


混色旅団の総員は、まだ無傷であった。

漆黒の硝煙、クロノが放つ弾丸

それと同時に斬りかかるハヤトとカナメ。
最後の咆哮をあげて崩れ落ちる一頭。

残るは黒の一頭のみ・・・・。



その時だった。

細い道の向こうの空に立ち込めていたどす黒い雲が、
激しい雷を放ちだしたのだ。

それは雲と雲を繋ぎ、遠くでは落雷となって大地を襲う。


ひときわ大きな雷撃と共に、オルトロスは舞い降りた。
その背中からミハエルが飛び降りる。

『余興ハ楽シンデモラエタカナ?諸君・・・・』

「貴様等ッ、ナナさんは何処だ!」

目と口の両方をいやらしくひん曲げて、
笑っている様な声でこう答えた

『カッ!案ズルナ小童、戦女神ナラ無事ダ。
  儀式ヲ完遂スルノモ時間ノ問題ダガナ!!!』

「父さんと僕は、もうすぐ世界を始まりへ導くのさ」


唐突。
一瞬誰もがオルトロスの言葉を疑った。


『ソゥ・・・ソシテ、ミハエル。鍵ハ貴様ダ!』

(え・・・・・父さん・・・・?)


貴様


確かにオルトロスはそう呼んだ。
息子の様に、もしくはそれ以上に愛し育てていたのでは?

ミズキの脳裏に一閃の疑問が走る。
そして、驚くべき答えがオルトロス自身の口から明かされる。

『貴様ハ儀式ノ為ノ駒ニ過ギヌワ!
  ソノ昔、弱クナリキッテイタ貴様ヲ私ハ助ケタ。
  ソンナ事ヲ私ガ善意デスルトデモ思ッテイルノカ?
  ダトシタラ貴様ハ随分ト幸セナ奴ヨ!ノゥ、ミハエル!』


「父さん、一体何を・・・・?!」

『マダ判ラナイノカ。貴様ハ儀式ノ為ダケニ私ガ育テタ。
  ソウ、龍トシテ!ソノ目ハ龍ノ 魔眼 ナノダヨ・・・・』



(嘘だ)


『利用サレテイタ事ニ、コウモ気付カナイトハナ』



(嘘だよ)



『全ク、本当ノ馬鹿ダヨ貴様ハ!!』


(嘘・・・・・だ・・・・・う・・・・・そ・・・・・)


『サァ、ソノ眼ヲ我ニ捧ゲヨ・・・・!』


「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」



誰も差し入る事が出来なかった。
真実を知らされた今、ミハエルに対する復讐よりも
逆に哀れみの念が芽生えてしまっていたのだ。

「嘘だ。父さんが。ウソ・・・・、嘘だ!」



唯一の肉親と信じていた。
大きくて暖かい背中だった。

その思い出も

一瞬で砕け散った。



----涙も出なかった。


ミハエルは、オルトロスの攻撃をかわし続けていた
彼には、攻め入る事は出来ないだったろう。
仮にもそれは父だった者なのだから・・・・・。


(死にたくない、僕はまだ・・・・!)


必死の思いで、首から提げていた魔笛を吹き鳴らすと
その音色に反応して残った一頭のディアブロスがミハエルの元へ駆けだした。

ミハエルはそのままディアブロスに飛び乗り、逃げ去っていく。


『ソウハサセルカ!』

ゴゥ


深淵の色の巨体が、宙に浮かぶ。
そのままもの凄いスピードでミハエルに向かって突撃していった。


キャリキャリキャリ・・・・

照準を合わす音。

「風力、風向共にOK。発射!」


『ナンッ!!?』

それは真っ黒な巨大槍を撃ちだし、オルトロスの胸殻を片腕ごと貫いた。

「見たか!これぞギルドが撃龍槍を極秘裏に改良し、
  遠距離射撃を可能にした、名付けて「撃龍槍【皇】」の威力だ!」


手を腰に当てながら、キラが「やってやった」顔で言う。


「キラさんや混色旅団の協力で完成したんですから、威張ってもいいですよね・・・!」

すぐ隣にいたアスタルテが言う。



「・・・・殺ったのか?」
シルバーと S が、一筋の疑念を込めて言い放つ。


ピクリ




オルトロスが動いた、様な気がした。
「油断するな!」

デビルが全員に叫んだ、次の瞬間。


グギャァァァァァァァァァァ!


怒りに眼をたぎらせ、その身体は深い蒼色に揺らめいている。
身体には、極太の金属槍が刺さったままだ。

『人間風情ガ!思イ知・・・・・・

「思い知るのは貴様だ!」

デビルが、猛り叫んだ。


「お前は俺から全てを奪った。
  しかし、お前は俺に1つ体現して教えてくれた。「力こそ全てだ」と。
  だがなァ、オルトロス!この世には力より大事なモンがいくらでもあらァ!
  それはなァ・・・・・・」


「護るべき者だ!」



デビルが凄まじい覇気を纏う。
眼の感じは変わり、瞳孔が見開かれる。


横で見ていたミズキには判った。

(ゾーンだ・・・・)

「行くぞコラァ!」

クロームデスレイザーを勢いよく振り上げ、遠心力で高く飛ぶ。
そしてそのままオルトロスの頭部を斬ろうとするが、蒼い尾がデビルを直撃した。



直撃したのだ。が、しかし。
刀身で受け止め、そのまま尾を蹴って地面に降り立ったデビル。
着地の反動を使い、次は首元に潜り込む。

度重なる一閃、ブレス、咆哮、毒煙。

デビルはオルトロスを押し始めていた。


『馬鹿ナ、コレガ人間ノ・・・・!?』

これが人間の「人を思う力」
オルトロス本人が一番驚いていた。

それは、かつて自分にもあった力。
矮小で、か細く馬鹿げた力とたかをくくり、遙か昔に捨てた力・・・・。

そのときだった。

ズギィン


必死の力で振り切ったクロームデスレイザーが、
胸殻に刺さったままの巨大槍に弾かれてしまったのだ。

その隙を見て、オルトロスは最後の攻撃を繰り出そうとした。
このちっぽけで、しかし強大な力を持つ人間を消すために。


「再装填完了!第2次砲撃、発射ァ!」


ズギャン

・・・・・・・オルトロスの胸殻に、2本の巨大槍。
どちらも胸から背中へと貫通していた。

力なく、倒れるオルトロス。
まだ息がある。 とどめを刺そうと、デビルがデスレイザーを振り上げた。


聞こえたのだ、その瞬間、耳の奥に。


『死ぬのか、俺は・・・・。最後に・・・・・』

人間の、中年代の人間の声だった。

『最後に・・・、頼みがある・・・・・。
  どうか・・・・、真実を知って欲しい・・・・・』


その場にいた全員が、理解できない言葉を発する。
みな固唾をのんで聴くしかなかった。


『俺は、ずっと操られていた・・・。
  深い深い闇の淵で見た、奴の名は・・・・・・』


『「レイジア・ディバイン」 、それが・・・奴の・・・』

「何の事だ!一体何を・・・・・ッ」



『ミハエルに、我が息子に伝えて欲しいのだ・・・・くッ。
  ・・・その真実を、そして・・・・』

『伝えて欲しいのだ。
 「父は、お前を愛さないときは無かった」と・・・・ガハッ!』


蒼龍の口から、赤黒い血が溢れ出る。
にわかには信じられない、操られていたなどと・・・。
でも。


「オルトロス!貴様の言ってる事が本当なら、貴様は今死ぬべきではない!
  ミハエルを追いかけ、そして幸せになるんだ。他人に動かされる人生は間違っている!」


『もういいのだ、ミズキという少年。
  私は、罪を犯しすぎた。もう長くない、死を持って、償わせてくれ』

『それから・・・・』


目の色が淡くなってきている、もう死んでしまう
何にも・・・・できない・・・・・・。


『デビルという少年。いや、イルマ。
 ・・・・・すまなかった・・・・・・・・・・・・・・・・・・』



伝説の槍使いは、静かに息を引き取った。


「おい・・・・待てよテメェ・・・・。何だよそれ・・・・・!
 お前が犯した罪なら、奪った命の分だけ、もっと生きて償えってんだァッ………!」


すすり泣くデビル。
声もかけられぬまま、雲は少しずつ晴れていく。
青い空が見えて、遙か向こうに、激変の予感を感じるのは。


これから、 2年半 も後の事であった。





混色旅団小説 本編  G編完結





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