”名も知れぬ人たちへ”【承33】

・・・妻のこころは今?・・・

以前は,いつも娘の控え室に直行,というよりも舞台袖で踊りを見ていたからすぐにでも娘と会えた。
肩にキャノンEOSのカメラをいつもさげていた。
いつでも写真をとれるように。
バレエの舞台は,遠い。

望遠レンズをいつの間にか購入していた。
妻は本当に”えらい”それはやりたいことはとことんやること。
高価なものでもランニングコストとか必要性とか,考えながら行動していた。
買ってから私に言う。なぜだろうね,私が反対するからかな。反対したことほとんどないけどな。
とにかくなんでものめりこむ方だった。

写真は妻の担当,私はいつもビデオの担当だった。
妻は私の車の中でどんなことを考えていたのだろう・・・。
こころは今,娘の控え室にあるだろう,ガヤガヤと雑音を発して,でもカメラの前では,”ハイチーズ”と音頭をとって,笑顔のオンパレードだ。
こんな,活気のある,舞台をやり通した屈託のない,そして自信に満ちた顔・顔・顔。
妻はこんな素敵な場所を想像していたのではないだろうか。
そんな場所にいたい,と思っていたに違いない。

でも,それがかなわない。バックミラーに写る妻の顔が不憫でならなかった。
もちろん,妻だけではない。
いつも自分のそばにいたお母さんがいない,そう思っている娘の気持ちも不憫でならない。

・・・妻+娘+私=不憫?・・・
次ページへ 前ページへ


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: