”名も知れぬ人たちへ”・・・【承4】

・・・診察室から男の声がした,妻の名を呼んだ・・・

妻と私は,診察室へと入った。妻をいすへそっと座らせた。

少し小太りな先生が,妻の顔を見て眉間にしわを寄せながら
「どうしましたか?」と・・・

「生理中で貧血だと思うんですが,何かこのあたりに・・・」と妻が力なく話した。

「では,患部を見ますので」
看護婦が妻を別室へ連れて行った。

私は,診察室を後にし一般待合室で連絡を待った。不安,不安・・・貧乏揺すりなんかしたことなかったのにいつの間にか勝手に動いていた。

不安だらけの時間というのは本当に長く,そして寂しい。

「だんなさんですね,先生がお呼びですよ」と私の顔を覗き込む看護婦。
顔を上げるが目を合わさず診察室へ急いだ。

ドアを開け「先生,どうなんですか?」。妻の肩に置いた手が震えているのが自分でもわかった。

「重症貧血だから,すぐに入院してください。それから子宮に腫瘍があります。今はなんとも言えませんが,組織を付属病院に送ります。」

・・・重症貧血??? 子宮??? 腫瘍???・・・


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