”名も知れぬ人たちへ”・【転18】

・・・自分にもガンバレ・・・

次の週,私と妻と娘,三人で買い物をした。
妻のカツラだ。
入院していたころから聞いていたカツラの専門店。
いろいろ,あるんだなと思った。
今までこんなカツラのことなど考えても見なかった。

結構この店では,そういうお客さんが多いらしい。
ちゃんと隠しながら。対応も優しい。
これだったら任せることができると思った。
これが当たり前なのかもしれない。今まで知りえなかっただけかもしれない。

値段を見た,すごーく高い。でも妻の気に入ったものでないといけない。
"お金のことは大丈夫だよ"って伝えたから,"ちゃんと作ってもらうんだよ。"

妻は,抜け落ちた髪のかわりにかっこいいカツラを手にした。
『どーお,どーお・・・』笑顔,顔を振りながら。
『いいね,似合うよ。これで外歩けるよ。でもまあ,治療が終わったらまた生えてくるよ』
娘もうなづいていた。そうそうって。

このときは,まだ娘は妻の病気について知らなかった。
いつ言ったらいいのか,ずーと悩んでいた。
もう少し,もう少し・・・後でと。

・・・カツラ良かったね・・・
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