目指せ!シナリオライター

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形見のネックレス~We always love you


高校入学直前、涼風 優美の父親・優輝が、交通事故で亡くなってしまう。優美は、大の父親っ子で、普段、父親の前でしか、素直になれなかった。その後、誰にも悲しみを見せずに明るく振舞っていた。それから、高校に入学し、若い頃の父親そっくりの教師・風見優に出会い、初めて父親以外の人間に素直さを見せる。
そんな様子に気づいた親友・高原久美が、なかなか素直になれない優美を陰から助けていく。優美は、風見と接するうちに父親と趣味や性格も似ていることを感じ恋心を抱き始める。
風見は、自分を避けるような態度をとる優美を不思議に思う。徐々に、接していくうちに明るさをみせるようになったので、安心したが、優美からシチューをもらい、自分への思いに気がつく。風見は、優美にあいまいな返事で断ってしまう。そんな折、優美は、幼馴染の工藤 健一に告白されるが、風見を諦めきれず断ってしまう。
その後、スーパーで働いている優美の母親・美紀に風見が興味を抱いてることを、知り初めて母親に素直さを見せる。学校で風見を避けてしまう。
そんな時、福岡から上京していた、風見の母・千春に出会い、自分に似た過去を持つ風見に同情し、風見や美紀を許していく。この頃、美紀も風見に興味を抱いていた。
突如、優美の祖母が倒れ、美紀と優美は、福岡へ帰る。そして、そこで思いもよらない事情で、二人は風見と出会う。優美は、二人の関係を認めてはいるが、何かしっくりこない。引越しのため、東京へ戻った優美は、再度、健一から告白された。




キャスト
涼風 優美・・・黒川 綾花
涼風 優輝・風見 優・・・福山 雅治
涼風 美紀・・・黒木 瞳
高原 久美・・・上戸 彩
風見 千春・・・泉 ピン子
工藤 健一・・・えなり かずき













穏やかな陽気の日曜日ということもあり、大勢の親子連れで賑わっている。
噴水の水のしぶきが、涼しさを吹き込んでいる。
ベンチで仲良く話す少女二人。
そこへ、サッカーボールが転がって来た。
優美「あっ、危ないよ。こんなところでサッカーなんかしちゃ。学校のグラウンドでやりなさいよ。」
健一「開いてなかったんだから仕方ないだろ。」
健一、ぶっきらぼうに答える。
久美「子供たちに当たったら危ないだろっつてんの。」
健一「俺たち、そんなヘマしねーよ。」
二人を馬鹿にするかのように去っていく。
子供「えーん。痛いよー。」
母親「大ちゃん、大丈夫?あっ、あなた達ね。」
健一と数人の仲間「すっ、すいません。」
慌てて逃げていく健一たちを優美たちは、呆れたように見つめている。
優美「来月から、高校生だね。そろそろ将来、何になるか決めないとな。久美は、実家継ぐの?」
久美「うん。でも、はじめからなるの決まっててもあまりおもしろくないよ。」
優美「そうかも。何になろうかな?まだ、わかんないや。」
優美、公園の時計に目をやる。六時を差していた。
優美「あっ、もうこんな時間。そろそろ帰らなきゃ。お父さん、帰って来ちゃう。はやく制服見せなきゃ。ごめんね。久美。」
久美「はいよ。気をつけてな。」
駆けていく優美を優しく見守る久美。
いつの間にか、あたりは静かになっていた。
犬の散歩をしていたり、ジョギングしている人など昼とは違う雰囲気になっていた。
公園の前の道路(夜)
キキッー
車の急ブレーキが響き渡る。
近所の家々から人が出てくる。
一人の男性が倒れている。
妻らしき女性が駆け寄る。何か大きな声で叫び狼狽している。
後ろで優美が、目に涙をためながら立ち尽くしている。
久美が、優美の肩を抱えている。
パトカーや救急車が、集まり、普段は、静かな住宅街がざわめいている。
病院(夜中)
父親の顔に、白い布がかぶさっている。
母は、泣き崩れている。
優美は、涙をこらえながら、医師や看護士達と見守っている。

数日後
優美・自宅(朝)
優美は、家事一切をこなしている。
その場面が映しだされる。
母は、部屋に引きこもりがちである。

母の寝室
優美「お母さん、お粥出来たよ。」
美紀「いらない」
優美、小さなため息をつく。
優美「食べないと駄目だよ。せっかく、私が作ったんだよ。ほら、起きて。」
優美にそそのかされるように母が起き上がる。
美紀、お粥を口に含む。
美紀「・・・おいしい。」
久しぶりに笑顔を見せた母。
優美、精一杯の笑顔で答えた。
居間(夜中)
父の遺影の前。
優美「お父さん、何で死んじゃったの?お父さん ・・・。(しばらく泣いている。)今日ね、お母さん久しぶりに笑ってくれたよ。」早くもとのお母さんに戻って欲しいな。お父さんも見守ってあげてね。」
母親の部屋
母、眠れずに本を読んでいた。
いたたまれず、涙を流している。

優美の部屋(日替わり)
優美、目が覚める。
時計に目覚まし時計に目をやる。
優美「あら、まだ、五時半。でも、もう眠れそうもないな。」
押入れの前にかけてある制服に目がとまる。
優美「あっ、着替えよう。うん。似合う。似合う。」
一人、鏡の前ではしゃいでいる。
リンリンリリリーン。目覚まし時計が鳴り響く。
いつの間にか、目覚まし時計は、六時を指していた。
お気に入りのエプロンをして部屋を出る。
優美の足が止まる。
おいしそうな匂いがする。
(食卓)
テーブルに、トースト、スクランブルエッグ、コーンスープが置かれている。
優美の大好きな朝食メニューだった。
優美「お母さん・・・。」
美紀「(笑いながら)おはようでしょ。挨拶も出来ないの?」
優美「(泣き顔に無理して笑顔をつくりながら)おはよう、お母さん。」
美紀「はい。おはよう。今日から、高校生ね。行く前に、お父さんに制服姿見せてあげなさいよ。お父さん、あんなに楽しみにしてたんだから。」
優美「(朝食の途中で)うん、見せてくる。」
美紀「これっ、何ですか?優美、はしたない。」
居間
優美、父親の遺影の前ではしゃいでいる。
美紀、うれしそうにその様子を見ている。

二ヶ月前
自宅・居間(夜)
優美「お父さん、制服できたよ。見て、見て、かわいいでしょ?この制服。ねえ、ねえ。」
優輝「おっ、かわいいな。でも、優美は、制服で学校を選んだのか?」
優美「うん。そうだよ。」
美紀「まあ、呆れた。」
一同大笑い。
優輝「あれっ、何かこの制服大きくないか?」
優美「あれっ?これLサイズじゃない。大きいよ。」
美紀「あれっ。まあ。呆れたお店ね。また、取り替えてこなくちゃ。」
優美「(少しすねて)せっかくお父さんに見てもらおうと思ったのに。」
優輝「残念だけど、仕方ないな。」
優美「お父さん、かわいくて、優美に惚れちゃうかもよ。」
優輝「そうかもしれないな。口説いちゃうかも。」
美紀「お父さん・・・。」
優輝「冗談だよ。冗談。」
優美「お母さんったらやきもち妬いてる。」
美紀「優美。」
優輝「モテル男は、つらいな。」

通学路
優美・心の声「お父さん、私、高校生になったよ。お父さんに見せられなかったこの制服姿。どう?似合うでしょ?本当に、お父さん、口説いちゃうかもよ。私、お父さんになら付いて行くよ。ほら、ツンと突き出た胸。スラリと長い脚。道行く男性の目が釘付けだよ。お父さん、早く優美を口説かないとほかの男にとられちゃうよ。」
優美の目から涙がこぼれた。
今日は、暖かく、空が一段と青く感じる。
優美「うーん。いい天気だな。」
久美「(心配そうに)おはよう。優美。」
優美「(笑顔で)おはよう。久美。元気だった?制服かわいいよ。」
久美「(ほっとして)優美こそ、かわいいよ。うん。似合う。似合う。」
優美・久美「キャッ」
健一「おっ、やった。やった。今日は、青にピンクか。ませやがって。」
健一、自転車で、二人に向かい舌を出しながら、走り去った。
優美「こら、健一。待ちなさいよ。スケベ。」
久美「待ちなさいよ。」
健一、振り向かず、坂を下っていく。
優美「もう、せっかくの気分がダイナシ。ムカツクー」
久美「本当に健一。幼い頃からやること変わってないんだから。あのクソガキ。」
学校の周辺
二人と同じ制服を着た生徒達が大勢歩いている。
優美「二人揃って、入学出来てよかったね。」
久美「うん。この辺じゃ、憧れの学校だもんな。」
私立大和女子大学付属高等学校。
進学実績が、校内の掲示版に貼り出されている。
ソフトボール部全国大会出場の垂れ幕が下がっている。
教師達が生徒を迎えている。
教師A[おはよう。]
教師B「おはよう。」
優美・久美「おはようございます。」
若い教師「おはよう。」
久美「おはようございます。」
優美「おは・・・」
優美、駆け足で、その場を逃げるように去っていく。
久美「ちょっと、どうしたの?優美。待ってよ。(若い教師に向かい)すいません。失礼します。」
若い教師「どうしたんだろ?」
他の教師や生徒は、優美が走っていく方向を見ている。
廊下
優美が、久美を待っているかのように立っていた。
優美「ごめん、(照れながら)トイレ行きたくなって。」
久美「(怪訝そうな顔で)ならいいけど・・・・。でも、びっくりした。急に走り出すんだもん。手加減してよ。元陸上部。」
優美「ごめん。ごめん。久美も早いじゃない。」
久美「当たり前だよ。ガキのころからあんたを追いかけてるからね。」

体育館(中)
入学式が行われている。
校長の長い挨拶が行われている。
久美「(口を押さえながら)ファーア。」
優美、それを見て笑っている。
校長の挨拶が終わり、担任教師の紹介が始まる。
司会者「続いて、一年C組」
若い教師「C組を担当します、風見 優です。担当は、英語です。よろしくお願いします。」
優美、そわそわしている。
風見と目が合い慌てて目を背ける。
久美は、その様子を見ている。
一年C組(中)
優美「席まで隣だね。久美こんな偶然あるもんだね。」
久美「偶然なんかじゃないっての。ただの腐れ縁だよ。」
優美「そうかもね。でも、隣が久美でよかった。しらない人だと不安だから。」
久美「あのね、そうやって考えるといつまでも友達できないよ。」
優美「いいの。久美一人いれば。」
久美「よく、そんなセリフ照れないで言えるな。」
久美、蕁麻疹かのように体をかいている。

優美の自宅(夜)
居間・父の遺影の前
優美「お父さん、もう生き返ったの?そんなわけないよね。気のせい。気のせい。お父さんは、ずっと私の心のなかにいるもんね。」
ワン、ワン。飼い犬・ラッキーが寄ってくる。

優美の幼少時
動物園(昼)
キリン・シマウマ・像など、いろんな動物を見て、父の頭の上ではしゃいでる優美。
優美「パパ。ライオンみたい。」
美紀「まあ、優美ったら。」
優輝「ライオンは、怖いぞ。食べられちゃうぞ。」
優美「優美、平気だもん。(駄々をこねるように)ライオンみたい。ライオン見たい。」
ライオンの檻の前
ライオン、優美達の前で吠える。
優美「(泣き出す)ウアーン」
優輝「ほら、言っただろ。ライオンは、怖いぞ。食べちゃうぞ。(ライオンのお面を付けて)ガオー。」
優美「ウアーン。(美紀の方へ逃げるように)ママ、ママ。」
美紀「はいはい、こっちへ来なさい。優美、もう大丈夫よ。」
優輝「ガオー。ガオー。」
美紀「(恥ずかしそうに)パパ、もうやめなさい。他の人も見てるから。それに優美も泣き止まないでしょ。」
優輝「(我に返って)ご、ごめん。優美、大丈夫か?」
優美、泣き止み、笑い出した。
動物園の帰り(夕方)
優美「私も何か動物飼いたい。飼いたい。」
美紀「どうせ、すぐ飽きるでしょ。我慢しなさい。」
優輝「そろそろ、優美の誕生日じゃないか。お祝いに犬でも買ってやろうよ。」
美紀「もう、甘いんだから。」

ペットショップ
美紀「どの犬がいいか、見てらっしゃい。優美。」
優美「うん。ありがとう。ママ。」
優輝「わあっ。犬がいっぱいだ。」
美紀「当たり前でしょ。ペットショップなんだから。」
楽しそうにみている優美。
優輝「ごめんな。ママ。犬嫌いなのに。」
美紀「仕方ないでしょ。あの子のあんな喜ぶ顔見てたら何も言えないわ。そのかわり、私ももう少しで誕生日だからね。知ってるとは思うけど。」
優輝「きついな。」
財布を見る優輝。
優美「あっ、これがいい。珍しい。かわいいな。」
店長・寺田「おっ、お嬢ちゃん。運がいいね。このダックス・フンド、昨日、売れることになってたんだけど、お客さんの都合で、キャンセルされちゃったんだよ。」
優輝「ラッキーだな。優美。」
優美「パパ。それにしようよ。ラッキーにしようよ。うちにも、ラッキーが来るかも。」
美紀「あら、まだ、買ってもいないのにその犬で決まりね。」
一同笑い。
ラッキーが、吠え続けている。
優美「あっ、ごはんだったね。付いておいで。」
ラッキーと優美が楽しそうに駆けていく。
優美「お前がきてから、お父さん、すぐ、課長になったし、懸賞は当たるしいいことずくめだったね。あっ、でも健一が、生牡蠣で当たったけ?ふふっ」
ラッキーの頭をなでながら、話しかけている。
優美の目から何粒かの滴が落ちた。
美紀「優美・・・。」

通学路(朝)
道行く優美と久美、話をやめ、スカートの裾を抑える。
優美・久美「きゃっ」
自転車が、二人を横切った。
健一「BにCってとこか。」
優美「もう、健一。最低。」
久美「あの野郎。今に見てろよ。」

校門
風見「おはよう」
優美「(か細い声で)おはようございます。」
風見「やっと、返事してくれたね。ありがとう。」
優美、足早に走り去る。
風見「おはよう。」
女子生徒A「おはようございます。先生、うちのクラスの英語、教えてよ。」
女子生徒B「そうだよ。あんなヒゲゴジラやだ。」
中村(ヒゲゴジラ)「オッ、オホン。」
風見「早く教室に行きなさい。」

一年C組(中)
風見「英語も私が担当します。分からないところが、あればドンドン聞いて
ください。学校生活で困ったことでもいいから、相談にきてください。」
優美、風見と目が合うが、慌てて目をそらす。
久美は、優美を見ている。
校庭・噴水広場(昼休み)
風見「よう、涼風、大丈夫か?」
優美「あっはい。」
風見「何か元気なさそうだな。あと、それから、俺の事で何かあるのかい?嫌われてるような感じがするんだけど。」
優美「そ、そんな事ないです。し、失礼します。」
久美、紙コップを二つ持ってやって来る。
久美「あれっ。先生、優美みなかった?」
風見「ああ。今、校舎へ入ってたよ。」
久美、風見に紙コップ一つ手渡す。
風見「ニガー。」
久美「あっ、先生、ブラック駄目だった?子供みたい。」

優美の部屋(夕方)
美紀「優美、あなた、ラッキーの散歩は、どうしたの?さっきからうるさいわよ。」
ワン、ワン、ワン
優美「あっ。もうそんな時間か。忘れてた。ごめんね。久美。」
久美「あっ、いいよ。気にしないで。別に。」
廊下
久美、居間の方に目をやる。
久美「・・・(絶句)。」
美紀「かっこいいでしょ?おじさんの若い頃よ。優美が一番お気に入りの写真なの。」
久美「え、ええ。」

公園(中)
「ラッキー、待ってよ。」
ラッキー、一人の男性にぶつかり倒れる。
風見「大丈夫か?あれ、どこかで見たことある犬だな。セブン、セブンじゃないか?懐かしいな。うん?首輪か。きっといい人に育てられてるんだろうな。こんなに長生きしてるんだから。ん?」
優美が、驚嘆しながら立っている。
風見「もしかして、涼風か?セブンの買い主は?」
ラッキー、うれしそうに風見の顔をなめている。
優美「はっはい。ふふっ、うふふ。」
風見「涼風の笑った顔初めて見た。うれしいな。でも、何がおかしいんだ?」
優美「その子、今、ラッキーって名前なんです。でも、なんで、先生がラッキーの事を知ってるんですか?(昔のペットショップでの話しを思い出し)もしかして、ラッキーを買うのをキャンセルした人って」
風見「ああ、俺なんだ。それから、三日くらいしたら、売れてた。寺田の親父恨んだよ。俺が、あんなに世話してたのにと思って。でも、涼風に飼われてたほうがよかったな。ここまで、長生きできて。でも、よく知ってたな。」
優美「買う前にペットショップ屋のおじさんが言ってました。だから、ラッキーって名前にしたんですよ。先生は、何でセブンにしたんですか?」
風見「そりゃ、決まってるだろ。ウルトラマンセブンからとったんだ。ま、よくある話だよ。」
優美「やっぱし。ふっ、うふふ。先生っておもしろい。」
風見、照れて、頭をかく。

学校・校門(朝)
風見「おはよう。おっ涼風おはよう。」
優美「(元気な声で)おはようございます。」
久美「・・・・・。」

通学路(夕方)
優美、スカートの裾を押さえる。
後ろから、手が伸びる気配がした。
バチン、自転車倒れる。
健一「いてーな。何すんだよ。いきなり、カバンで叩くなよ。」
優美「また、私の胸触ろうとしたでしょ。」
健一「そんなことしてねーよ。ただ、お前に大事な話があるから、肩叩こうとしただけだよ。ひでーよ。」
優美「日頃の行いが悪いからよ。いい気味だわ。なーに。話って?」
神社(境内)
健一「あのさ、俺、前から、お前の事好きだったんだ。今まで照れ隠しからいたずらばっかしてきた。ごめん。俺と付き合ってくれ。」
優美「気持ちは、うれしいけど、ごめんね。私、まだ人を好きになれない。それに同級生は、好きじゃないし、年上の人が好きなの。ごめんね。」
優美、足早に神社を後にした。
健一「俺、俺。諦めないからな。」
健一、ポケットから小銭を取り出し、賽銭箱に投げた。
健一「俺の初恋、実りますように。」
佐藤住職「何を言っておる。うちは、安産の神様だぞ。」
健二「えっ?」

学校・通学路(朝)
久美「来たよ。」
優美「うん。」
スカートの裾を押さえる。
自転車、静かに二人の横を通りすぎた。
優美「・・・。」
久美「あれ?どうしたんだろうね?」
優美「う、うん・・・。」

一年前
優美の自宅・居間(昼)
優美「ね、ね、お父さんここわかんないだけど、教えて。」
優輝「(得意げに)どれどれ、貸しなさい。」
教科書を手に取る。
優輝「うん。うん。これは、関係代名詞が隠れていて・・・・・(か細い声で)うん。うん。うん。」
優美「どう?」
優輝「お母さーん。」
美紀「(笑いながら)はいはい。じゃっ、お父さん、昼ごはんの支度よろしくね。」
楽しそうにエプロンを付ける優輝を見て、二人は、笑っている。

食卓
優美「英語は、一番出来たって言ってたくせに。お母さん、本当なの?」
美紀「らしいわよ。」
優輝「らしいとは、何だ。今のが、昔より難しくなってるんだよ。でも、おいしいだろ。この、(英語調に)スクランブルエッグ。」
優美「うん。おいしい。スクランブルエッグだけは、お母さんよりおいしいな。誰かにそっくりな味なんだけど、思い出せない。」
美紀「悔しいけど、負けだわ。」
優輝「じゃ、食べたら、料理教室行ってくる。」
二人「夕飯楽しみにしてるよ。」

教室(中)
風見「・・・風、涼風、聞いてるのか?」
優美「あっ、はいすいません。」
皆が笑う。
風見「じゃあ、この問題訳してみろ。」
さらに授業が進む。
風見「えー、この構文は、ここに関係代名詞が、隠されていて(小さな声で)うーん。うーん。俺もようわからんのだが・・・。」
女子生徒C「先生、よく聞こえません。」
優美、クスクス笑っている。
久美、優美を見ている。
教室(中)
久美「優美、今、私のも風見先生に出してきてくれない?おねがい。」
優美「後で、一緒に行こうよ。」
久美「駄目。私、これから、古文の宿題やるんだ。一つ一つ片付けないと心配だから、今出してきて。」
優美「もう、仕方ないな。」
久美は、ファッション誌を取り出して、読み始めた。

職員室(中)
優美「失礼します。」
風見「おう。涼風か。他の先生達なら会議中だからいないぞ。」
優美「あっ、風見先生、昨日の宿題です。今日、渡しそびれちゃって。高原さんと二人分です。」
風見「おう。そうか。ありがとう。」
風見は、カバンの中から、小さな弁当箱を取り出した。
優美「先生、いつも自分で作って来てるんですか?」
風見「安月給だからな。これでも料理は、うまいんだぞ。」
風見、弁当箱を開けた。
優美「うわー。おいしそう。頂き。」
風見「おっ、この野郎。俺の大好きなスクランブルエッグを。」
優美「・・・・・。」
父のと同じ味がした。
風見「どうした?まずかったか?」
優美「ううん。おいしいです。お父さんと同じ味がしたから。」
風見「へぇー。お父さん、料理するのか?いいお父さんだな。」
優美「今年の三月になくなっちゃったんですけど・・・・・。」
風見「そうか。悪いこと聞いちゃったな。俺も親父といい思い出はなくてな。親が離婚しちゃってな。この町を離れたんだ。」
優美「それで、ラッキーを。」
会議が終わり教師達が戻ってきた。
風見「あっ、涼風、古文は、自習だからな。知ってるとは、思うけど。先生、誰も行けないから、静かに自習するように言っといてくれ。」
優美「は、はい。(あれっ、久美?)」
島田「山口先生、まだよくならないんですか?」
風見「ええ。退院延びたらしいですよ。心配ですね。」

教室(放課後)
優美「帰ろうか?」
久美「うん。ちょっと待って。あっ、優美、図書室付き合ってもらっていい?」
廊下
風見が図書室に入っていった。
久美「あっ、私、数学のテストの事で、島田先生によばれてんだっけ。本返しといて。」
図書室のドアが開く。
風見「こらっ。高原、廊下は走るな。」
優美が駆けてく久美をみて笑っている。
風見「ったく。しょうがない奴だな。本を返しに来たのか?入りなさい。」
優美「失礼します。」
風見「おいおい、ここは、職員室じゃないぞ。」
駐車場が見える。
島田先生の車は、なかった。
優美「(久美)・・・。」
風見、小説コーナーで本を探している。
他には、誰もいない。
物音一つしない静けさ。
自分の心臓の鼓動だけが聞こえる。
風見「涼風。」
優美「(びっくりして)は、はい?」
風見「どうしたんだ?ボーッとして。」
優美「あっ、先生、小説好きんですか?どういうの読まれるんですか?」
風見「西村 京太郎が好きだな。」
優美「十津川警部シリーズですか?」
風見「よくしってるな。読んでるのか?」
優美「お父さんが、好きだったんです。先生と趣味同じみたい。推理小説と料理。(風見の(左手に目をやりながら)コックを目指してたみたいなんです。」
風見、慌てて隠す。
優美「今日の晩御飯?先生かわいい。」
風見「これでも、家に帰れば主夫なの。言うなよ。秘密だぞ。」
優美「はい。二人の秘密です。」
ドアが開いて何人かの生徒が入ってきた。
少し、ざわついてきた。
久美、外から図書室を伺っていた。
久美「優美、頑張りなさいよ。それにしても、風見先生ったら。あはは。」
自宅・居間・父の遺影の前(夜)
優美心の声「お父さん、私、好きな人できたみたい。でも、学校の先生なんだ。いけないよね。わかってる。分かってるんだけど・・・。お父さんそっくりなんだもん。女の子ってやっぱりお父さんに似ている人を好きになるのかな?」
美紀「優美、晩御飯できたから、テーブルに並べてくれないかしら?」
優美「うん。今行く。」
優美、皿を並べていく。
優美「あれっ?何か懐かしい。いい匂い。」
美紀「やったね。お父さんに近づいたかな?優美の大好きなスクランブルエッグ。」
色も形も父親が、作ったものと変わりない。
優美、つまみ食い。
美紀「こら、優美、はしたない。」
優美「おいしい。おとうさんよりおいしいかも。」
美紀「ありがとう。初めて言われたな。優美に。」
美紀の目から涙がこぼれた。
優美「お母さん・・・」
通学路(夕方)
久美、スカートの裾を押さえる。
後ろから手が伸びる気配がした。
ガチャン 自転車が倒れた。
健一「いてーな。何すんだよ。」
久美「うるさい。私の胸触ろうとしただろ。もう許さないからな。」
久美、健一に殴り掛かる。
健一「違う。違う。勘弁してくれよ。」
久美「何が違うんだよ。このスケベ。」
健一「お前に話があるんだよ。何で殴るかな。」
久美「日頃の行いが悪いんだよ。」
神社(境内)
あたりは静まりかえっている。
久美「何だよ。こんなところにつれてきて。」
健一「あのさ、俺・・・」
久美「お前とは、付き合わないぞ。」
健一、唖然とする。
健一「俺だって、ごめんだぜ。お前みたいな凶暴女。」
久美、健一を殴る。
健一「「何で殴るんだよ。優美だよ。優美。俺が好きなのは。」
久美「(テレを隠しながら)諦めたほうがいいんじゃない。優美、今、好きな人いるから。」
健一「誰だよ。そいつ、同じ学校の奴か?」
久美、呆れ顔をしている。
久美「うちら、女子高だよ。男子いないから。ま、確かに学校の人だけど、先生だよ。優美は、昔からお父さんっ子だから。年上の人に惹かれやすいんだよ。健一、もっと立派になってからチャレンジしてみれば?」
健二、ポケットから、小銭を取り出す。
賽銭箱に投げ入れた。
健一「立派な男になりたい。」
佐藤住職「また、お前さんかい。うちは、安産の神様だぞ。」
健一「あっ」
近くの人が笑い出す。  

学校(昼休み)
有紀「優美、今日さ、終わったら、みんなでカラオケ行こうよ。」
優美「うん。でも、私、早く帰らないと、今日、お母さん、仕事だから。」
有紀「まじめだね。優美も女子高生らしくしないと損だよ。」
優美「うん。でもラッキーに餌あげないといけないから、ごめんね。」
優美の自宅前(夕方)
一人の少年が家の中を伺っている。
優美、そっと少年の肩を叩く。
少年「わあっ」
優美「何してんのよ。うちの前で。怪しいよ。」
健一「べ、別に。」
優美「あっ、そう。じゃーね。」
健一「ま、待てよ。ラッキーの散歩行って来てやるよ。おばさんにラッキーの世話頼まれたんだよ。」
公園(中)
ワン、ワン  ラッキー勢いよく走り始める。
引っ張られる健一。
たくさんの子供達が遊んでいる。
野球のボールを加えてくるラッキー。
後ろで泣いてる子供達。
健一「ほらっ。ラッキー、ボールを話せ。」
なかなか離そうとしない。
風見「ラッキー、ボールを離せ。」
ラッキーの口からボールをとり子供達に投げた。
子供達「おじさん、ありがとう。」
風見「(おじさんか)。」
健一、風見をじっと睨んでいる。
健一「おじさん、何でラッキーの名前知ってんだよ。」
風見「涼風さんの弟さんかい?お姉ちゃんの学校の先生だよ。」
健一「弟じゃねーよ。俺は、優美が好きなんだ。絶対に渡さないからな・」
健一、ラッキーを風見から引き離し、公園を出て行く。
ラッキー寂しそうに風見を見つめている。
風見「・・・・・?」
優美の自宅(玄関)
優美「あっ、お帰り。健一、ありがとう。ジュースでも出すから上がってきなよ。」
ワンワン、ラッキー家の中へ入っていった。
優美「こら、ラッキー汚いわよ。」
健一「俺、諦めないからな。あんな奴に負けないからな。」
健一、飛び出して行った。
優美「・・・・・?何だろ?久美」
久美「さあ。」

居間(父の遺影の前)
優美「お父さん、先生ってね、毎日、自分でお弁当作ってきてるんだよ。先生のスクランブルエッグとてもおいしかったよ。お父さんほどじゃないけどさ。でも、同じ味がしたんだよね。不思議と。私も挑戦してみようかな。スクランブルエッグ。それからね、先生、小説好きなんだって。お父さんが、読んでた十津川警部シリーズ。私もお父さんに言われたとき読んでみればよかったな。でも、本苦手だし・・・。それからね、先生ってね、あれ、話が止まらないや。変だね。私、どうかしてるね。」
優美、お気に入りのエプロンを付けキッチンに向かう。
おいしそうに餌を食べているラッキーを見て、微笑む。
美紀「あら、おいしそうな匂いね。今日は、シチューかしら?早く食べましょう。」
優美「お母さん、先に手を洗ってきてよ。」
美紀「はいはい。」
美紀、面倒くさそうに手を洗いにいく。
優美は、二つの小さなタッパにシチューをすくい、一つを父の遺影の前に、もう一つを冷蔵庫にしまった。

美紀の部屋(夜中)
バタン、バタン 何度か冷蔵庫のドアの音が聞こえる。
美紀「あの子ったら。ふふっ。」

学校・教室(昼休み)
有紀「優美、何をそわそわしてるの?何か落ち着かない様子だよ。」
優美「(慌てて)あっ、何でもないよ。大丈夫。大丈夫。」
優美は、紙袋を持って教室を出て行った。
薫「あの日かな?」
有紀「かもね。優美の性格からしてそんな感じだね。」

職員室前の廊下
うろうろしている優美。
久美「今日は、大丈夫だよ。風見先生、一人のはずだから。そのシチュー渡したいんだろ?」
優美「えっ?何で?」
久美「匂いでわかるよ。それにあんたと長い付き合いだからね。優美のことは、何も聞かなくてもお見通しだよ。風見先生のこと好きなんだろ?あんたのお父さんの若いころそっくりだもんな。ずっと、わかってたんだけど、あんたみてるとじれったくて我慢できなくなった。」
久美は、目で優美を促した。
優美は、入るのを躊躇している。
久美「(大きな声で)失礼します。」
優美の背中を押した。
優美「きゃっ。」
優美は、前に倒れこみそうになる。
風見「誰だ?」
優美が、ゆっくり、風見の前まで歩いてくる。
風見「おう、何だ?涼風どうした?」
優美「先生、こ、これ食べてください。失礼します。」
優美は、逃げるように出て行った。
風見「・・・・・・?」
会議が、終わり、他の教師達が戻ってきた。
島田「風見先生、チャック開いてますよ。」
風見「えっ?(あっ、これか。まずかったな。)」
風見、慌てて、チャックを上げる。
武田「いい匂いしますね。今日は、シチューですね?」
風見「えっ?シチュー?」
武田「違うんですか?」
風見「あっ、そうです。シチューです。ハハッ。」
風見は、慌ててタッパのフタを開ける。
武田「先生、かわいいとこあるんですね。」
風見「ハハッ。少し凝ってみました。」
人参がすべてハート型だった。
風見「涼風・・・。」

スーパー田中屋(夜)
風見、このスーパーで、毎日買い物をしている。
ずっと、気になっている女性がいる。
今年の三月に亡くなった姉にそっくりの女性である。
姉とは、十歳以上、年が離れており、そのくらいの年齢の女性である。
風見、初めてその女性のレジに並ぶ。
女性「いらっしゃいま・・・・・。」
風見「(ドキッ)・・・・。」
後ろの客「早くしてよ。」
女性「(我に返ったように)す、すいません。いらっしゃいませ。」

優美の自宅前
ピンポーン
美紀「はーい。」
美紀、ドアを開けびっくりする。
風見「・・・・・。(しばらく何も言えず)あなたは、さっきのスーパーの。優美さんのお母さんだったんですか?」
優美「あれっ?先生どうしたんですか?」
風見「シチューの容器返しに来たんだよ。ご馳走様。おいしかったよ。」
優美、素直に喜んでいる。
美紀は、驚いた様子で、二人の会話を聞いている。
優美、美紀の様子に気づく。
優美「先生、ちょっと、公園で話しませんか?お母さん、行ってくるね。」
風見、美紀に頭を下げる。

公園
ブランコに座る二人。
しばらく、黙っている。
人影はなく、電燈の明かりが、二人を明るく照らしている。
風見「なあ、涼風。気持ちはありがたいんだけど・・・。」
優美「は、はい。だけど・・・?好きな人いらっしゃるんですか?」
風見「(ドキッ)いや、特に。そういうわけではないんだけど・・・。これは、それ以前の問題だと思うし。」
優美「私が、先生の生徒だから?でも・・・そんなことで、振られたら、私・・・どうしようもない。先生が、先生が悪いんだよ。お父さん、そっくりなんだもん。顔も、優しさも、趣味も、なにもかも。好きになっちゃうよ。先生のバカー。」
優美、公園から泣きながら走り去る。
ブランコでただ一人、たたずむ風見。
公園に一人の少女が入ってくる。
久美「先生、大丈夫?あの子、今、先生のこと以外見えなくなってるの。お父さんが、亡くなったばかりに、先生と出会って正直辛かったと思う。でも、今ここまで優美、元気になれた。そして、先生の前では、素直に自分の気持ちを出せてる。ありがとう。先生。そのうち、今の思いが間違いだと気づくと思うから。それまで、優美を温かく見守ってあげてください。お願いします。」
久美は、風見に向け、頭をさげている。
風見「俺は、どうすればいいのかな?」
久美「今までどおり、優しく接すること。優美がどんな態度をとろうとも、先生の前だけなんだから、素直になれるの。私たちでは、助けられないの。」
風が吹いてきて肌寒くなった。
風の音しか聞こえないほど静かである。

優美・自宅
美紀、夕食を作っている。
ボーッとしているようで、何か危ない。
優美「お母さん・・・。」
美紀「ああ。お帰り。」
美紀は、落ち着きがない。
優美「あっ、危ない。」
優美、慌てて味噌汁の鍋の火を止めた。
優美「味噌汁、私がやるよ。」
美紀「ありがとう。」

居間(父の遺影の前)
美紀、父の遺影の前で、ふだん飲まない酒を飲んでいる。
美紀「あなた、今日、あなたの生まれ変わりかっていうくらいそっくりな人をみたわ。あなたの若いころそっくり。私、惚れちゃうかも。冗談よ、冗談。」
優美「お母さん・・・。」

食卓(朝)
美紀「昨日の男の人、あなたの担任の先生?あまりにお父さんそっくりなんでびっくりしちゃった。」
優美「(ホッとして)うん。私も最初は、びっくりしたよ。料理や小説とか趣味も一緒で、それに優しいし・・・。
美紀、時計に目をやる。
美紀「優美、そろそろ時間よ。」
優美「(食事を少し残して)行ってきます。」
美紀「何ですか。はしたない。」
美紀は、笑顔で見送る。

スーパー田中屋(夕方)
美紀「いらっしゃいませ。」
風見「どうも、昨日は、失礼しました。何か私、亡くなられたご主人に似ているみたいで。」
美紀「優美の先生ですってね。よろしくお願いしますね。本当、主人そっくりなんでびっくりしました。あの子、父親の前でしか、素直になれない子だったから。主人が死んでからは、周りでは、強がってたけど、一人で一晩中泣いてましたから。先生の前では、素直になれるとおもいますから。それにだんだん明るくなってきたし。」
風見「はあ・・・。」
美紀の顔を見つめる。
左頬のほくろがある。
姉と一緒でどこか面影を感じる。
美紀、再び、風見に笑顔を向けた。
風見、ドキッとする。
客「早くしてよ。後ろつかえてんのよ。何の知り合いかしらないけどさ。」
いつに間にかレジに長い列ができていた。

風見・自宅(アパート)
釣りを渡されたときの触れた手の感触がいつまでも残っている。
やさしい笑顔がうかんでくる。
まさに、姉そのままである。
風見「生徒の母親だもんな・・・。それに涼風のこともあるしな。まさか、何言ってんだ。そんなことあるわけないぞ。向こう十歳以上も年上だし、ただ似てるだけさ。どうってことないぞ。」

学校・校門(朝)
優美「おはようございます。」
風見、何か物思いにふけっている感じである。
優美「風見先生、風見先生、おはようございます。」
風見「(我に返ったように)おう、おはよう。涼風。高原。今日も仲いいな。」
風見、他の生徒たちにも一言、二言声をかけている。
久美「何か変だね。風見先生。」
優美「そうかな?いつもと同じじゃない?何か考え事してたんでしょ。でも、久美ってすごいよね。すぐ人の気持ち読めそうで。私、全然わからないや。」
久美「あんたとずっと一緒にいるせいかな。」
優美「・・・・?」

一年C組(中)
風見、優美と目が合うが、優美は、笑いかけるが、風見は目をそらしてしまう。
風見「この問題わかる人?」
優美「はい。」
一番に挙手をする。
続いて、3.4人が挙手した。
風見「じゃ、久しぶりに挙げた片山。」
生徒たち笑い出す。
久美「何かあった?」
優美「何にもないけど・・・。」

昼休み(職員室)
優美「先生わからないところがあるんですけど・・・。」
風見、慌てて席を立つ。
風見「ごめん。ちょっと。会議がはいってて、後にしてくれないか?」
風見、急ぎ足で職員室を出て行く。
風見「いてぇー。」
大きな物音がした。
女子生徒C「先生、大丈夫?」
女子生徒D[クスクス、今時、転ぶ人も珍しいよ。」
風見「あはは・・・。」
久美「ね、何か変だろ?」
優美「うん。」

風見・自宅
風見「何でだろう?意識しないと思えば、意識してしまう。美紀さんの娘さんなのに、本人にあったらどうなるんだろう?俺は、教師なのに何やってんだろう?自分の生徒から逃げるなんて。頭では、わかってるのに。体がいうことを聞いてくれない。」

スーパー田中屋(夜)
美紀「いらっしゃいませ。どうですか?うちの子は。おしゃべりだから困るでしょ?」
風見「いいえ、そんなことないですよ。本当にいい子ですよ。今時、珍しいタイプの子ですね。きっと、お母さんの育て方がよろしかったんでしょうね。」
美紀「まあ、先生ったら。そんなこと言ってもん何も出ないですよ。(後ろの方をみて)ありがとうございました。」
風見、美紀にそそのかされるようにその場を立ち去る。
風見「あっ、あの・・・。」
美紀「いらっしゃいませ。お待たせしました。」

店外
風見、美紀を探した。
美紀の姿はなく、別の女性がレジをしていた。
風見「ふうっ。」
肩を落とし、自転車に乗る。
美紀「先生。」
風見「(ドキッ)涼風さん。どうしたんですか?」
美紀「私、あがりなんです。先生をみかけたんで。では、また。」
風見「は、はい。また来ます。」
美紀「ふふっ。ごめんなさいね。また来ますっておかしいなと思って、私に会いに来ているみたい。ふふふっ。」
風見慌てふためく。
笑った顔も姉そっくりだ。
美紀「また、お待ちしています。では、おやすみなさい。」
風見「おやすみなさい。」

風見・自宅
風見「ただいま。」
田舎から、母・千春が出てきている。
千春「お帰り。」
風見、姉・純子の写真を眺めている。
千春「どうした?何かあったのかい?優。」
風見「(我に返り)あっ、大丈夫・大丈夫。お袋、疲れてないかい?肩揉むよ。」
千春「なんだい?気持ち悪いね。」
風見、再度、姉の笑顔の遺影に目をやる。

通学路(朝)
健一「おい、優美。」
優美「何よ?」
面倒くさそうに振り向く。
健一「何か機嫌わるそうだな。お母さんと喧嘩でもしたのか?」
優美「(怒って)そんなんじゃないわよ。」
健一、黙り込む。
一人の少年が歩いてくる。
正「よう、健一。あっ、珍しい優美も一緒じゃん。あっ、お前のお母さん若い男と楽しそうに話してたぞ。最近、亭主死んだばかりなのに。やるねぇー。お前のお母さん。なっ。健一。」
健一、答えない。
優美「健一、もしかして、風見先生?」
健一、答えない。
正「健一、何で答えないんだよ。本当のこと言えよ。」
バシッ、正の頬をはたいた。
正、倒れこむ。
正「いてぇーな。何すんだよ。」
久美「うるさい。早く行け。これ以上いうともっと殴るよ。」
正「この凶暴女。覚えてろ。」
久美「ガキみたいなこと言ってる。」
優美、泣きながら走り出した。
二人、声をかけられなかった。
たくさんの生徒たちが歩きにぎやかになっていた。
健一「久美、ありがとう。でも、俺、何もできなかった。」
久美「あれでいいよ。よく言わなかった。少し見直したよ。」
久美、優美を目で追っている。
健一「あいつ、泣いたの初めてみた。」
久美「もともと、人の前では、素顔見せないからね。お母さんの前でもらしいよ。お父さんにだけ素直になれたんだ。そんなお父さん、そっくりな人がいたんだ。惹かれちゃうよ。ピュアな子だからね。でも、絶対そのうち健一の存在に気づくよ。」
健一、赤面した。
久美「いっちょ前に照れやがって。男だね。」
健一「(慌てて )そんなことねーよ。久美なんか(久美の胸を触りながら)これなきゃ女かどうかわからねーもんな。(スカートをめくり)おっピンク。いっちょ前に女だね。」
久美、健一を2,3回殴る。
健一「いてーな。この野郎。覚えてろ。」
久美「正と同じこと言ってる。」
久美、笑いながら見送っている。

学校・校門
風見「おはよう。」
優美「(ムスッ)おはようございます。」
風見、怪訝そうな顔で優美を見る。
久美「バカ。」
風見「バカ?」

優美・自宅(夜)
優美「・・・・・。」
美紀「優美、ただいまも言えないの?」
優美「(美紀を睨み)・・・ただいま。」
美紀「どうしたの?優美。何かあったの?」
優美、泣きながら部屋へ入っていく。

食卓
美紀「ご飯よ。降りてらっしゃい。」
優美「いらない。」
美紀、二階へ上がる。
美紀「優美、開けなさい。何かあったの?」
優美「いいから、ほっといてよ。お母さんなんか嫌い。」
美紀、初めて見る優美の行動に諦め下に降りていく。

食卓(朝)
優美「行ってきます。」
美紀「行ってらっしゃい。」

通学路
久美「おはよう。」
優美「・・・おはよ。」

学校(昼休み)
久美「先生、優美が、何を気にしてるかわかる?」
風見、首を横に振る。
久美「優美、先生が、自分の母親と仲良くしてるって聞いたの。あの子、今、先生のこと好きだから。しばらく、冷たい態度しか取れないと思うの。優美が素直な気持ちで問いかけてるんだから。先生も素直な気持ちで返さなきゃ。前の優美の返事、あの子納得してないよ。ちゃんと本音で答えてあげて。」
風見、ただ黙っている。

スーパー田中屋・店内(夕方)
パートA「涼風さん、いつも来る若い男性、知り合い?」
美紀「娘の担任の先生です。」
パートB「あんなに親しくしてたら、私達妬いちゃうよ。優美ちゃんも妬いちゃうかもよ。」
美紀「ふふ。そんなこと。(・・もしかして?)」

店外(夜)
風見「どうも。涼風さん。」
買い物袋を落とす美紀。
風見「大丈夫ですか?」
美紀「大丈夫です。ありがとうございます。」
商品を拾い集める二人。
手と手が合わさる。
風見「あっ、すいません。」
美紀「(頬を赤らめて)こちらこそ、すいません。」
しばらく、黙り込む二人。
千春が少女と二人でスーパーへ入っていく。
風見・心の声「あっ、お袋。何で涼風と。」
美紀「最近、優美、学校でなにかありました。この頃元気なくて。」
風見「えっ?家でもですか?学校でも元気がなくて気になっていたんです。」
美紀・風見「やっぱり。・・・えっ?」

公園(夕方)
千春「すまんが、娘さん、スーパーは、どこにあるのかの?」
重そうな手提げ袋を抱えている。
優美「あっ、荷物持ちますよ。スーパーまで案内します。」
優美、千春から手提げ袋を受け取る。
千春「いやあ、すまんのう。あんたみたいな人が嫁にきてくれればありがたいのう。しかし・・・・・。」
優美「息子さんがいらっしゃるんですか?」
千春「おるとも。私が言うのもなんだが、できた息子でのう。離婚して母と十年上の姉とで三人でくらしてきたんだが、文句や泣き言一つ言わず、私や姉の手伝いを喜んでしてくれたもんだ。」
優美「いい息子さんですね。いまは、こちらに。」
千春「こっちで高校の教師をしとる。昔、離婚する前、このまちに住んでおってな。両親にとっていい町じゃなかったのに、自分でこの町の思い出を変えるって言っておった。」
優美「もしかして、風見先生のお母さんですか?」
千春「優を知ってるのか?もしかして優の教え子か?」
優美「はい、いつもお世話になってます。」
千春「こんな偶然ってあるもんだな。」
優美には気にかかる言葉があった。
優美「あ、お母さん、さっき私に嫁に来てほしいといった後、しかし、といってましたけど。」
千春「ああ、優の奴、ある生徒さんの母親を好きになったみたいでな。これも私が、忙しくてかまってやれなかったせいかもな。優は、姉が母親がわりでな、姉のことを慕ってての。その姉が、今年の三月に死んでしもうた。」
優美は、ドキッとした。 
千春「それから、優のやつ、ひどく落ち込んでのう。何も手をつけられなかったらしい。しばらくしてから、スーパーで、姉に似た人を見たと言っていた。それから、少しづつ元気を取り戻してな。でも、いつしか恋愛感情に変わったらしくてな。母親としては、反対したいんじゃが、優のことを思うと何も言えん。」
優美は、その話にひどく心を打たれた。
優美「人は、みな自分の異性の親に似た人を好きになるんですよ。風見先生もお母さんやお姉さんに似た人を好きになったんですよ。ちゃんと、お母さんを見て育ってるからですよ。風見先生もうちのお父さんににてるんですよ。もう亡くなりましたけど。風見先生が、好きになった人もお母さんに似てたくましい女性ですよ。だから、安心してていいですよ。その人も、風見先生に似た人を好きになった人ですから。」
優美の目に涙がうっすらと光った。
千春「その人ってまさか?」
優美「はい、うちの母です。あっ、着きましたよ。スーパー。」
二人で店に入る。
優美・心の声「異性を求める目って、案外みんな同じかも。私だけじゃないんだ。仕方のないことなんだよね。お母さんも風見先生も許してあげなきゃ。恋愛なんて個人の自由なんだし。こんなやさしいお母さん持って先生幸せだね。もしかして、健一のお母さんに私、似てるのかな?似てるわけないよ。私あんなにやかましくないし。例外もあるよね。」
美紀「あら、優美じゃない?スーパーにいるなんて珍しいわね。誰かしら?隣のお婆ちゃん。」
優美達、風見達のほうへ目をやる。
風見慌てて、目を伏せる。
美紀「どうしたんですか?先生。」
風見「うちの母なんです。娘さんと一緒にいるの。」
美紀「えっ?どうして一緒にいるのかしら。」
美紀の横顔を見つめる風見。
店のあかりに照らされて宝石のように美しく輝いている。

風見・自宅
風見「さすがにうまいや。お袋のスクランブルエッグ。」
千春「そりゃ、そうだろ。母さん料理うまいんだから。」
千春、しばらく風見を見つめる。
風見「どうしたんだ?」
千春、お茶をすするのをやめ、湯のみをテーブルに置く。
千春「優、お前、例の好きな女性のことどうなってるんだ?」
風見「ああ、まだ好きだよ。歳のことなんか関係ないよ。どうしようもなく、好きなんだよ。」
千春「今さら、何も言いやしないよ。自分のことは自分で決めていいから。ただ、人を傷つけるのは、よしてくれ。あんないい子を。」
千春の目から涙がこぼれる。
風見「お袋・・・。(涼風・・・)。」

校庭(放課後)
久美「先生、気持ち固まったんだ?」
風見「ああ、涼風に話そうと思う。何があっても気持ちは変わらないし。早い方が・・・。」
久美「思い立ったが吉日だね。優美のフォローは任しといて。」

公園
優美「あれ、先生どうしたんですか?」
風見「家行ったらラッキーの散歩だって言われてな。たぶんここじゃないかと。」
ラッキー、風見になついてくる。
久美「ラッキー、おいで。」
久美、ラッキーを連れて公園を出て行く。
ブランコに座る優美と風見。
人影はない。
涼しい風が吹いている。
風見「あのな、俺、涼風の母さんのこと・・・。」
優美、風見のブランコを漕ぎ出す。
優美「いいよ。言わなくてもわかってるから。覚悟できてた。なのに、何で涙でてくるんだろう?
絶対泣かないって決めていたのに。」
優美の涙が、風見の肩に落ちた。
風見、いたたまれない気持ちになった。
優美の涙を打ち消すかのように雨が降り出してきた。
優美「えーい。えーい。」
風見のブランコを思い切り漕ぎ出した。
久美が、ラッキーを連れて公園に戻ってきた。
優美、久美の元へ走り出し、久美の胸で泣いた。
久美「おもいきり泣きな。」
風見、久美に頭を下げ、公園を出て行った。
雨は、優美の涙とともに大降りになっていた。



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