旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

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≪若者のすべて≫Ⅱ


  ≪若者のすべて≫後編

まずはストーリーから。

ロッコ(A.ドロン)は、
母と
兄シモーネ(レナート.サルバトーリ)、
幼い弟、チーロとルーカと共に
南イタリアの故郷から、
ミラノにいる長兄ヴイネンツエ(スピロス、フカス)を
頼って出てきた。

長兄はちょうど
ジネッタ(クラウデイア.カルデイナーレ)と婚約のパーテイーを
彼女の家でしているところだった....

まず、この作品は5人の兄弟....長兄、次兄、ロッコ、
弟のチーロ、末弟のルーカという5人の兄弟の順に
5章で綴られている。

それぞれに焦点をあてながら、彼ら一家の暮らしの変遷を
描く。

長兄は婚約をしたものの、一家全員を養うほどのゆとりはなく、
表向きの婚約は流れ、行く当ても無い一家は
慈善宿泊所を転々と移り住んだ。

兄弟たちは職も思うように見つからず、
雪が降ると市が募集する雪かきをしたりして収入を得たりしていた。
もともと長兄はボクシングをやっていたが、才能がないと
あきらめていた。性格はまじめだが、ジネッタとの結婚のことで
頭がいっぱいだ。
拳闘の才能は次兄のシモーネにもロッコにもあった。
シモーネは収入を得るためにプロの拳闘に入り、筋もよく
ランキングもあがり、母はやっと安心した。
ロッコは拳闘を嫌い、洗濯屋に勤める。

ロッコは母にとっては聖ロッコと呼ぶほど、家族を守る意識と
神を敬い、寡黙でまじめであった。
が、何事もいったん心に決めると意志の強さを発揮し、
まだ20歳だが、母は一番頼りにしていた。

シモーネはジムに通っているうちにチンピラ仲間と遊ぶようになり、たまたま知り合った、娼婦ナデイアに魅かれ、
酒も女も賭博も慎まねばならないスポーツの世界を放り出して
女と2,3日姿をくらますというようなことを平気でした。
しかし、女はそれこそ悪い仲間の事件に巻き込まれて、
姿を消すのに彼を利用しただけであった。
シモーネは簡単に捨てられた。
シモーネはここいらから、都会の毒気に汚され、周りの人間をも
毒していくようになるのである。

ロッコはシモーネがお金ほしさに洗濯屋の女主人にも手を出し、
盗みを働いたことを知り、勤めを辞めたが、ちょうど
彼には兵役の招集が待っていた。
....除隊して帰ってきたミラノの駅で、刑務所から出てきた
ナデイアと偶然に合う。
大人になったロッコにナデイアはふと心惹かれ、
カフエで話をするうちにロッコの純真無垢なこころと
とてつもなくやさしい性格に救われ、また、遭おうと言って別れれる。

ナデイアは足を洗い、ロッコとまじめに向き合いたくて、
タイプの学校に通い始め、ロッコも彼女を愛し始める。

しかし、それを知ったシモーネは自棄と嫉妬のあまり、
仲間と一緒に、二人を取り囲み、ロッコの目の前で、
ナデイアを強姦する。

虫一匹殺せないロッコも兄に立ち向かったが、
悲しさと情けなさのほうが先で、”兄さんは人間のクズだ!”
と兄に殴られるまま、
号泣しつづけるのだった。

ナデイアを愛しながらも、今のシモーネには、ナデイアが
必要だ、帰ってやってくれ”と、ロッコは告げた。
ナデイアもまた、自暴自棄になり、夜の女となった。
ロッコは勧められるままにプロボクサーとして、デビュー。
その才能は忽ちあらわれ、チャンピオンとなる。

弟チーロは、勉強家で、アルフアー.ロメオ社の技術者となる。
彼は何事にも寛大なロッコとは違って、同じ家族思いでも
許してはならないことをちゃんと心得ていて、
シモーネの堕落に手厳しい。それが兄の為だと思っている。
そんな4人の兄たちを見つめる末弟ルーカは
それぞれの兄たちが好きだ。

シモーネは家を出たまま、自堕落で、前の仲間たちにも
馬鹿にされ、自分を制しきれないところまでになっていた。
5年後には、ロッコは選手権試合にも勝ち、
アパートの住人たちも交えてお祝いをしていた。
ロッコはルーカに言う。
”故郷にいた頃は貧しかったが、みんなの心がひとつだった。
いつか、だれか、故郷に帰って欲しい。ルーカ、おまえなら
出来るよ”

ルーかは”ロッコと一緒なら帰るよ”という。
そんな中、シモーネがコートに血をつけて戻ってきた。
家族に心配をかけたくないロッコは
自分の部屋に連れ込み”何があった?僕だけに話すんだ”

シモーネは湖畔で売春婦になっているナデイアに
復縁を迫ったが、彼女が彼に浴びせた言葉は。
”人間のクズのあんたと元に戻るつもりは無い。わたしの
一番大事なものをあんたは汚した。あんたが触るとみんな
穢れてしまった。これで胸のつかえが降りたわ、どうにでも
して頂戴”と言ってうなだれた。
シモーネに残っていた最後のプライドは傷つき、絶望と重なって、
彼は、ナデイアをナイフでめった突きにして殺してしまったのだ。

それでも結局家族のもとにしか帰るところは無かったし、
ロッコの懐しか彼の救いの場所は無かった。
シモーネの告白にロッコは折り重なって号泣した。
彼のために10年という選手としての契約までしたのに、
兄を救うことが出来なかった。
”俺たちに彼を裁く権利は無い、救うことだけを今は考えてやるのだというロッコと、
兄のためには許してはならないことがためになることもあるとふたりの考えはまるで違う。
限りなく寛大なロッコ。現実を直視するチーロ。

ルーカはチーロに”シーモーネが捕まってうれしいだろう”と
責めた。
チーロはルーカに言った。

”僕は誰よりも、シモーネが大好きだった。
シモーネは結局都会の毒に染まってしまい、ロッコの寛大さが
それに輪をかけたんだ、時には許さないことも必要なんだよ。”

ルーカは”いつかロッコと故郷に帰るよ。”
    ”ロッコは多分帰らないさ、それに故郷だって
昔の故郷じゃないさ”....

アパートへと向かうルーかの目にはロッコの選手権試合の
ポスターが壁に張り巡らされているのが映った....

故郷をこよなく愛したロッコ、なじめない都会にも毒されず、
自分の信念と無垢な心を失わずに生きるロッコはルーカにとっても
支えだった。

家族にとって故郷というものが人生にどれだけの影を落とすか、
捨てざるを得なかった暮らしの状況をリアルに映し、
家族が支えにもなれば、離散ということも、また現実である。
戦後のイタリアの底辺に生きた家族を繊細にありのままに描いた
ヴイスコンテイの傑作です。

ラストは、私も号泣しました。
ドロンのロッコは美しい顔と家族の幸せだけを願いとする
生き方、行動が交じり合ってこよなく哀切を投げかけた名演技
だと思います。
シモーネ役のサルバトーリ、ナデイア役のジラルドも
環境に翻弄されていく役を見事に
演じたすばらしい作品です。

ドロンの原点ここにあり!


1960年度製作、
監督 ルキノ.ヴイスコンテイ
音楽 ニーノ.ロータ...哀感漂う詩とメロデイーが
             効果をあげています。


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