旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

時代劇諸作品の長屋



★1~.....と掲載しています。


男の子は、風呂敷で覆面とマントを付け、
女の子は、さらわれるお姫様役を...
役を奪い合い、日の暮れるまで遊んだ...

鞍馬天狗、怪傑黒頭巾、紅孔雀、白鳥の騎士、白馬童子 水戸黄門
子供だけでなく大人も喜んだ時代劇

芸術作品とまでなったものもある
宮本武蔵 大菩薩峠、椿三十朗 血槍富士 雄呂血 眠狂四郎 忍びの者
などなど、順次書いてまいります。
≪東映のチャンバラ映画≫


千葉周作の北辰一刀流
柳生石舟斎の無刀どり
柳生十兵衛の柳生神陰流
宮本武蔵は二刀流
机 竜之介は音無しの構え
眠 狂四朗の円月殺法
源氏九朗の濡れ髪一刀流

そして、旗本退屈男ー早乙女主水之介は諸羽流青眼くずし

わたし達が子供のころ、風呂敷をかぶったり、巻いたりして
男の子等は竹棒を振り回し、
鞍馬天狗だの、怪傑黒頭巾、白鳥の騎士、白馬童子とやらに
なりきって遊んでいたっけ。

だから、作り話の多い中でも少しは史実に関係のあることも
出てくるチャンバラからいろんな物を学んでいたと思う。

そして、それよりもっと旧い映画だのその頃は、
親達も良く知っていたので、生まれる前のことも結構
家庭で学んでいたようだ。

私なども、中学生の頃は山手樹一朗が大好きで
ご近所に住まれていた工業高校の校長先生がお好きなこともあって
よくその樹一郎物を貸し借りしていた、

樹一郎と言えば代表作は”桃太郎侍”
あのころ、樹一郎は人気作家であったと思う。

と、チャンバラにも原作はあるもので、
結構面白いというか ええーあの人の って言う作品が多い。
”新吾十番勝負”--大川橋蔵ーなどは川口松太郎である。
チャンバラは何で、人気があったか?

筋と言えばいろいろと組み立ててはいるが、
史実には忠実でもない、どうと言って善者と悪者が戦うだけの
ことなのに。

これは、やはり、昔の人はラジオの時代から
歌舞伎だの、落語だの浪曲だのというものが娯楽で
大人達はよくその筋を知っていた。

小さい頃 うちだけでなく、よそのお宅でも
おばあちゃん、おじいちゃんが合戦の話しや、浪曲の筋だのを
孫達に話してたりしてた。

そういうたくさんの題材がチャンバラのネタにもなると、
オオーッツと耳を傾けて聞き、映画をみてもあああれかと
いう面白さ。

先は分かっていても分かったとおりになる楽しさが
あったからである。
清水の次郎長の子分の名前を全部知ってる面白さ、
忠臣蔵の四十七士の名を全部知ってたり
そういうのを親が知っていたから、結構卓袱台囲んで
話してたのではないかと思う。

そして、東映時代劇の全盛期ーー昭和30年から38,9年まで
は、すごい勢いで封切られたものだ。

片岡千恵蔵ーーー遠山の金さんのシリーズもの、
        任侠東海道、忠臣蔵 新撰組、国定忠治        
市川歌右衛門ーー旗本退屈男のシリーズもの、
        赤穂浪士、髑髏銭、無双剣シリーズ
大友柳太郎ーーー怪傑黒頭巾、むっつり右門捕り物帖シリーズ、
        丹下左膳、鳳城の花嫁、
大川橋蔵ーーーー新吾十番勝負シリーズ、若様侍捕り物帖
        雪之丞変化、股旅物、恋山彦、
中村錦之助ーーー一心太助、里見八犬伝、紅孔雀、笛吹き童子
        獅子丸一平、源氏九郎颯爽記、野次喜多、
        瞼の母、沓掛時次郎、
        剣は知っていた紅顔無双流
書き出せば切りがない。
柴田錬三郎、吉川英治、長谷川伸、大仏次郎、山岡荘八、
村上元三、直木三十五、佐々木味津三、林不忘、司馬遼太郎
などなど、
大衆時代小説と呼ばれた全集を買ってもらったっけ。

原作が良いとか、映画が良いとかそんなことより
どっちも楽しめた。
神州天馬峡、鳴門秘帖、宮本武蔵、
吉川文学など大人も子供も楽しめた
痛快娯楽時代小説ーー→痛快娯楽時代劇へ
ずいぶんと映画化されていますね。

美空ひばり、東千代の介、大河内伝次郎、新藤英太郎、月形龍之介
堺駿二、若き里見浩太郎、そうそう、伏見扇太郎なんていたわ。

ーーメモーー
旗本退屈男の姿、形、ファッションのこと!
トレードマークの眉間の三日月傷ー歌舞伎の馬盥(たらい)から
とったもの、
この狂言は明智光秀が信長の意を受けた森蘭丸に
顔を傷つけられたのだが、その傷をそっくりそのまま
頂いてイメージ作りをしたのだそうだ。
だから、主水之介の紋所も明智光秀と同じ”桔梗”の紋だ。
歌舞伎(仙台萩)の仁木弾正のような凄みのある役が付けている
かつらをまねた形をとり入れたのだそう。
マゲの両側からツバメの翼のように毛が張り出している形。
あの派手な衣装ーーシリーズ化されて徐々に派手になっていったが
白黒のころから、結構派手だったそうだが、
撮影所に見物にくるお客様へのサービスもあって、派手にした
嘘か本当かーーあの時代だったら、それもあるかな?と。

歌舞伎界出身の役者が多かった東映のスターたちーー
踊りの名手も多く、歌舞伎の世界の物語も知り尽くした
役者達が作り上げた東映城の住人によるチャンバラは
おもしろくないはずはないのである

毎日毎日、かかっている我が家のチャンバラ、

これらのビデオばかりなのです。

ちなみにわたしはもう見飽きたけど、母は毎日毎日
みてるのかかかっているだけなのか...?です

★1.≪宮本武蔵と大菩薩峠≫


うちの母は、月に一度は、ー(宮本武蔵)中村錦之介ーの映画を
ビデオ鑑賞している.
何度観ても飽きないのだそうで
一諸に観る私は、そらんじて話せるようになってしまった.
この映画は、5年の歳月を費やして製作され、関が原のシーンから
始まり、徳川家光の世 巌流島の決闘までの映画である.
5部作で8時間という長きを付き合わねばならない.
改めて思う宮本と机龍之介の比較をしてみた.

『大菩薩峠』
製作  東映 S.32年度
監督  内田吐夢
原作  中里介山
出演  片岡知恵蔵/中村(萬屋)錦之助/
    長谷川裕見子/木暮実千代

『宮本武蔵』
製作  東映 s.36年度
監督  内田吐夢
原作  吉川英治
出演  中村(萬屋)錦之助/三国連太郎/木村 功
    入江若葉/浪速千栄子/木暮実千代

『大菩薩峠』については、前後して、
(大映)、市川雷蔵主演で作られたが、(内田吐夢)監督
で、比較したく敢えて、(東映)作品を上げてみた.

1950年度末~1960年代にかけては、
この内田監督の時代劇全盛時代である。
チャンバラと時代劇をどう区別するか?
この時代のチャンバラ映画は、1週間で、新作へと
看板の変わるほど次々と封切ラレタ.

黒澤時代劇が、出てからのち、彼の作品ばかりが、
取り上げられ、今日までその継がれかたは、尾を引いている.

だが、我々世代の時代劇フアンには、 
マキノ雅弘 松田定次 沢島忠 森一生 など、たくさんの 
チャンバラ映画監督が、いた.
が、伊藤大輔と内田吐夢は時代劇の名監督であり
その作品を観れば、黒澤だけでないことも分かる.

なぜこの武蔵と机龍之介(大菩薩)映画を比較したか..
画かれた世界の 共通点と相反する一生の物語があるからだ.

武蔵は、沢庵和尚と出会えたことにより、
学問と剣の道を知り また、知ったが故に悩み、敵も作り
だが背後に仏の心が”沢庵”や”お通”という純粋無垢の
女性の在存が彼の行く道を単に剣だけでなく、
人間として成長することへの導きとなり
後世名を残すほどの一生となる.

龍之介は反対に強いとはいえ、その邪悪な剣により
非業の最期を遂げる一生となる.

が、共通して言えるのは、その節目、節目に優れた
人生の師、また女性に巡り合う.
面白いのが、曰く因縁の輪廻と言うか人の巡り合わせが、
非常に類似している点だ.
これは、吉川英治も中里介山も、
”仏の道、心、慈悲の心”を
1本の芯としてのテーマを投げかけているように
思えるのだ.
どうにもならない”業”
生き方によりこうも違う。
が、龍之介を悪人として終わらせない.
この”世界”を吐夢監督は、両者芸術作品に仕上げたと思う。

武蔵に生涯”想い”を貫く”お通”は入江若葉を置いて
他の女優は、浮かばない.”お通”=入江のイメージは
壊したくない!
錦チャンの武蔵は、これまた武蔵とイコールで、
この映画で、演技開眼!

殺陣のシーンはすごい迫力で
特に(一乗寺下がり松の決闘)では カラーから突然モノクロに
変わる。
時代劇の殺陣のシーンでは、最高であろう.
錦之介の熱演、三国の不気味さ、
数ある吉川英治映画の最高傑作である.
方や勝負の極限の世界、方や勝負の狂剣の世界.

両映画から伝わるものは”気品”である.
時代劇には、役者の色気と気品が大事であると
思っている。
最今 気品のある男優、女優はいるかもしれないが
時代劇の色気を出せる俳優は、激減して、悲しい!
付け焼刃の芝居では、なく
時代劇のなんたるかを指導してから出演させて欲しい
ものだ.
市川 机を取るか、片岡机を取るかは好みであるが、
市川 机は、眠狂四朗と重なり
私は、減量して挑んだ片岡 机を選ぶ。

来年の某国営放送の大河ドラマは見たくて 観たくない.
はて、困った....


★2≪におひたつ色気.市川雷蔵≫


妖剣か心剣か、
纏った黒羽二重から、におひ立つような男の色気を
振りまいているのに、その内面から滲み出る
からからに乾いた色気。

悪か善なのかで割り切れない剣士”眠 狂四朗”.

つまりは明日のことなどどうでもいい。
今日一日を大事に生きているわけでもない。
強くても栄誉やお金が欲しいわけでもなく、
かといって、惰性で生きているだけでもない。

この、言葉で表すのが非常に難しいキャラクターを
演じるということは...

ひところ≪ニヒル≫と言う言葉が流行ったことがあるが
これも、俗っぽくて、当てはまらない。

女性の喪服姿が美しいということにも通じた
黒の羽二重、絹、冷ややかな布、
この衣を100%生かして着れる男優が何人いるか?

ただ纏えば良いというものではない。
源氏の君のように、ただ、はんなり似合うのもダメ!

その研ぎ澄まされた物腰、円月殺法から投げかけられる
妖しい光と共にそこに近寄るのも憚れるほどの
芳香たる香り。

これは、もう雷様=眠 狂四朗である.
他の役者では何かが一つずつ欠けてしまって色気もない.

28歳で映画デビューするまで、大阪歌舞伎界に身をおき、
意欲的に修行を積んだ.
そのころの他の時代劇俳優と同じような経験を持つ人である.

東映がチャンバラ映画の黄金期を作った頃.
大映は≪羅生門≫のヴェネチア.グランプリ、
≪雨月物語≫≪山椒太夫≫ヴェネチア.銀獅子賞
≪地獄門≫でカンヌグランプリと、アカデミー外国映画賞
と高い映画技術を持った、芸術性の高い映画を撮り続けていた.

1951年にデビューしてからの雷様は
白塗りの二枚目や、軽妙な二枚目半の役者であった。

その彼に回ってきた大役が≪新.平家物語≫の平清盛役。
眉の濃い若武者役であり、気迫のある演技を見せ、

その後、何年かしてこの作品が市川 昆監督の目に止まり
あの、三島由紀夫原作≪金閣寺≫の映画化ー≪炎上≫ーの主役に
抜擢されたのである.

三島はこの後雷様のフアンとなり、雷様が亡くなるまで
付き合いが続くことになり、数々のエピソードもある.

この作品で、キネマ旬報、ブルーリボン、NHK映画
それぞれの主演男優賞を獲得している。

15年の役者生活の間に154本の作品に出ることになるが、
東映城の役者と一つ違うのは、相手役の女優さんが自社の
人ばかりでなく、いろんな女優さんと共演していることだ.

私は≪狸御殿≫や、軽妙な股旅ものも好きでした。
眠 狂四朗に出会った彼はこれこそ自分のための
役柄だと自分にしか出来ないと信じ、その役にいれこんだ.

律儀でウイットに富んだ品行方正な普段の彼とは違う
妖しいまでの魅力を振りまくその役≪眠≫に出遭って、
それからの彼は、
多種類に渡る飛躍的な役者人生を送ることになったのだ。

≪眠≫の現代版ともいえる ≪ある殺し屋≫≪陸軍中野学校≫
などはその延長であり、この殺し屋にすごい魅力を
感じると言う人の声を良く聞く。

≪破壊≫≪華岡青洲の妻≫などの文芸映画にも好演し、
その間にも≪眠≫のシリーズは続いた.

そして、歌舞伎の出演も続いた.
先達て≪若尾文子≫のページで≪千羽鶴≫を紹介したが、
この主役は雷様で行くはずだったがそのとき、彼は
病床に伏していてついに起き上がる事はなかった。

西洋文学や、新派その他いろんなことに精通している雷様に
魅かれた三島由紀夫は雷様の死までその交際が続いたという.

このころ雷様より提案のあった≪マクベス≫の構想が練られて
いたが、ついにかれが演じることは、出来なかった。

その翌年11月25日三島もこの世を去った。1970年でしたか?

主な、主な作品

≪新.平家物語≫  溝口健二
≪桃太郎侍≫    三隅研次
≪炎上≫      市川 昆
≪ぼんち≫     市川 昆
≪ジャン有馬の襲撃≫伊藤大輔
≪弁天小僧≫
≪お嬢吉三≫こういうのも好き!
≪薄桜記≫     森 一生
≪大菩薩峠≫    三隅研次、脚本衣笠貞之助
≪切られ与三郎≫  伊藤大輔  これは、名作だと思います。
≪歌行燈≫     衣笠貞之助 泉鏡花の世界,たまらん!
≪斬る≫      三隅研次
≪忍びの者≫    山本薩夫
≪ある殺し屋≫   森 一生 脚本 増村保造
≪陸軍中野学校≫  増村保造
154全作品のうちの一部です。

泉鏡花の世界を雷様と山本富士子が演じた≪歌行燈≫
これは、≪絵≫だけでうっとり!

鏡花の作品がちゃんと演じられて初めて 
時代劇の世界で男優も女優も  ーいっちょまえーになれると
思った.

時代劇に不可欠な色気、所作が出せるようになるのだ。

30年経ってもなお時代を超えた人気と存在感。
三島と雷様、生きてたらこの30年間に何を生みだしたか。

失ったものは大きい。

違った雷様も見てみたかったが、
いやいやあの狂四郎さまの水も滴る、黒の着流し
あの独特の色っぽい声...
だけでいいと。

もしかしてはいっぱいあるものだ...


★3

≪お吟さま≫    製作 松竹 にんじんクラブ S.37年
          監督  田中絹代
     出演
吟     有馬稲子
高山右近  仲代達矢
利休    中村鴈治郎
りき    高峰三枝子
      富士真奈美  /岸 恵子
          原作  今 東光

この作品で直木賞を受賞したー自ら名乗った八尾は河内の
生臭坊主ーー今 東光ーーの作品の映画化・
監督は、あの名女優ーー田中絹代 である.
幼女の頃より慕っていた高山右近を諦めた利休の娘お吟は
勧められるまま万代屋宗安のもとへ嫁ぐが、
右近との再会で、恋は成就する.が、秀吉の横恋慕により.
宗安、三成の陰謀もあって、右近は落とし入れられ
吟は後を追おうと。..
利休や母おリきの助けもむなしく、父、母、娘の名残りの茶会を
迎え....

おぎんと右近の悲恋物語である。
この映画に登場する先代 中村鴈治郎 の利休は 
三国連太郎、三船敏郎の利休よりも私のイメージからすると
一番自然でピタリとはまっているように思える。

三国さんも三船さんも好きだし作品ー利休やー本覚坊ーーも
良かった.
が、先代鴈治郎さん(中村玉緒のお父さん)はとにかく
着物が、身に付いていて
この人を上回る男性の着物姿は無いと思う。
所作、喋り方、醸し出すもの
歌舞伎役者だから当然だと言われるかも知れないが、
そういうことではなく.
この人は、この時代ありとあらゆる映画に脇役も含めて
出演していて、歌舞伎から遠のいていた時代がある.
長年身についた所作というものはやはり違うもので
演技より前に自然に所作が出来てしまっているから
観る方としては安心出きる.
”小早川家の秋”での着物を脱ぎ着するところなんぞ
カッコイイよー.歩く時の姿ーー適当に品もあり
やな役やるとそれはそれなりにああー上手いーー
ーー小道具の使い方も板についてーーと

この映画の利休もしかり。お吟さんの悲恋より
利休さんばかりを眺めていましたデス.

ーーーーーー
 ★4.

  ≪東映のチャンバラ映画≫


千葉周作の北辰一刀流
柳生石舟斎の無刀どり
柳生十兵衛の柳生神陰流
宮本武蔵は二刀流
机 竜之介は音無しの構え
眠 狂四朗の円月殺法
源氏九朗の濡れ髪一刀流

そして、旗本退屈男ー早乙女主水之介は諸羽流青眼くずし

わたし達が子供のころ、風呂敷をかぶったり、巻いたりして
男の子等は竹棒を振り回し、
鞍馬天狗だの、怪傑黒頭巾、白鳥の騎士、白馬童子とやらに
なりきって遊んでいたっけ。

だから、作り話の多い中でも少しは史実に関係のあることも
出てくるチャンバラからいろんな物を学んでいたと思う。

そして、それよりもっと旧い映画だのその頃は、
親達も良く知っていたので、生まれる前のことも結構
家庭で学んでいたようだ。

私なども、中学生の頃は山手樹一朗が大好きで
ご近所に住まれていた工業高校の校長先生がお好きなこともあって
よくその樹一郎物を貸し借りしていた、

樹一郎と言えば代表作は”桃太郎侍”
あのころ、樹一郎は人気作家であったと思う。

と、チャンバラにも原作はあるもので、
結構面白いというか ええーあの人の って言う作品が多い。
”新吾十番勝負”--大川橋蔵ーなどは川口松太郎である。
チャンバラは何で、人気があったか?

筋と言えばいろいろと組み立ててはいるが、
史実には忠実でもない、どうと言って善者と悪者が戦うだけの
ことなのに。

これは、やはり、昔の人はラジオの時代から
歌舞伎だの、落語だの浪曲だのというものが娯楽で
大人達はよくその筋を知っていた。

小さい頃 うちだけでなく、よそのお宅でも
おばあちゃん、おじいちゃんが合戦の話しや、浪曲の筋だのを
孫達に話してたりしてた。

そういうたくさんの題材がチャンバラのネタにもなると、
オオーッツと耳を傾けて聞き、映画をみてもあああれかと
いう面白さ。

先は分かっていても分かったとおりになる楽しさが
あったからである。
清水の次郎長の子分の名前を全部知ってる面白さ、
忠臣蔵の四十七士の名を全部知ってたり
そういうのを親が知っていたから、結構卓袱台囲んで
話してたのではないかと思う。

そして、東映時代劇の全盛期ーー昭和30年から38,9年まで
は、すごい勢いで封切られたものだ。

片岡千恵蔵ーーー遠山の金さんのシリーズもの、
        任侠東海道、忠臣蔵 新撰組、国定忠治        
市川歌右衛門ーー旗本退屈男のシリーズもの、
        赤穂浪士、髑髏銭、無双剣シリーズ
大友柳太郎ーーー怪傑黒頭巾、むっつり右門捕り物帖シリーズ、
        丹下左膳、鳳城の花嫁、
大川橋蔵ーーーー新吾十番勝負シリーズ、若様侍捕り物帖
        雪之丞変化、股旅物、恋山彦、
中村錦之助ーーー一心太助、里見八犬伝、紅孔雀、笛吹き童子
        獅子丸一平、源氏九郎颯爽記、野次喜多、
        瞼の母、沓掛時次郎、
        剣は知っていた紅顔無双流
書き出せば切りがない。
柴田錬三郎、吉川英治、長谷川伸、大仏次郎、山岡荘八、
村上元三、直木三十五、佐々木味津三、林不忘、司馬遼太郎
などなど、
大衆時代小説と呼ばれた全集を買ってもらったっけ。

原作が良いとか、映画が良いとかそんなことより
どっちも楽しめた。
神州天馬峡、鳴門秘帖、宮本武蔵、
吉川文学など大人も子供も楽しめた
痛快娯楽時代小説ーー→痛快娯楽時代劇へ
ずいぶんと映画化されていますね。

美空ひばり、東千代の介、大河内伝次郎、新藤英太郎、月形龍之介
堺駿二、若き里見浩太郎、そうそう、伏見扇太郎なんていたわ。

ーーメモーー
旗本退屈男の姿、形、ファッションのこと!
トレードマークの眉間の三日月傷ー歌舞伎の馬盥(たらい)から
とったもの、
この狂言は明智光秀が信長の意を受けた森蘭丸に
顔を傷つけられたのだが、その傷をそっくりそのまま
頂いてイメージ作りをしたのだそうだ。
だから、主水之介の紋所も明智光秀と同じ”桔梗”の紋だ。
歌舞伎(仙台萩)の仁木弾正のような凄みのある役が付けている
かつらをまねた形をとり入れたのだそう。
マゲの両側からツバメの翼のように毛が張り出している形。
あの派手な衣装ーーシリーズ化されて徐々に派手になっていったが
白黒のころから、結構派手だったそうだが、
撮影所に見物にくるお客様へのサービスもあって、派手にした
嘘か本当かーーあの時代だったら、それもあるかな?と。

歌舞伎界出身の役者が多かった東映のスターたちーー
踊りの名手も多く、歌舞伎の世界の物語も知り尽くした
役者達が作り上げた東映城の住人によるチャンバラは
おもしろくないはずはないのである

毎日毎日、かかっている我が家のチャンバラ、

これらのビデオばかりなのです。

ちなみにわたしはもう見飽きたけど、母は毎日毎日
みてるのかかかっているだけなのか...?です


★5

今日は男の時代劇の紹介です.

≪軍師.山本勘助の壮大なロマン.風林火山!≫


映画≪風林火山≫
製作  東宝 1966年度作
監督  稲垣 浩
原作  井上 靖
出演  山本勘助ーー三船敏郎
     武田信玄ーー中村(萬屋錦之助)
     由布姫ーーー佐久間良子
     上杉謙信ーー石原裕次郎
     武田勝頼ーー中村勘九郎
     他ーーーーー緒形 拳、久我美子、中村翫衛門、志村喬

風林火山は軍師山本勘助を主人公にした、武田家の興亡史である.
勘助が実在の人物であるかどうか定かではない。
時代は勘助がまだ今川家のやっかいになっていた頃から 
四度目の川中島の合戦で討ち死にするまでの物語である。

山本勘助はブ男で、片目、指も自由が利かず、
足は片足が不自由とある.

生まれは近江、三十数年諸国を流浪し、三河に落ち着き、
中年過ぎて武田家に仕えた。
信玄は諏訪氏を攻め、諏訪頼重自刃のあと、その娘由布姫を
側室に迎える。

ーーーー勘助は武田の家臣板垣信方の計らいが縁で
信玄に初めて会い、自分の補佐すべき武将を見つけた。

小さい時から、蔑まされた環境に育った勘助にとって
信玄は一人の人間として扱ってくれたただ一人の、
またはじめての人物であった.

討ち死にするその日まで勘助は晴信の腹心として
一生懸命に仕える。
由布姫を側室に勧めたのも勘助。

そして、その姫への慕情。
いや無償の愛であった。
勘助にとって由布姫は、晴信と同じ位彼の夢であった。
信玄(晴信)も、由布姫もどちらも欠けてはならない。
彼の唯一の壮大な夢であったのだ。
だから、晴信と信玄の子、勝頼を信玄以上にこよなく愛す。
どこか、シラノ.ド.ベルジュラックを思わせる恋である.

由布姫を守り、勝頼を助け、上杉との避けられぬ、
度重なる合戦に情熱を傾ける生涯を送ることになる。

城取りと言う夢に、由布、勝頼親子を通して向かっていく
大ロマンの物語である.

三船敏郎の絶頂期にはわたしたちの間でも
中年の魅力と言われて人気もあったが、
俗にいうロマンスグレーとか、
中年の魅力と言うものとは全然違う。

男の中の男という感じで、
むしろ男性に圧倒的に人気があった.
そして、女性とのラブロマンスというシーンを
持つような映画もない..

あるとすれば、殆どが女性への片思い、純情な、そして
不器用な思慕というものが断然多い。
だから、男性に人気があったのだと思う。

現に、男性としての危険な香りが感じられない。
女性は危険な香りのする男性に魅かれるものだ.

高倉健さんが女性にも人気が出たのは、
彼が大スターになってからでもずーっと後のことで、
やくざ映画全盛の頃の健さんは圧倒的に男性の支持が強かった。

三船さんはそういう時期がくる前に、黒澤との仲たがいから
三船プロなるものを作って、作品にも恵まれず、
違った魅力を出さず仕舞いに終わった。

健さんは二時代を築いたが、
三船さんはすごかったとはいえ、
一時代になってしまったと思う。

黒澤あっての三船さんだったし、
やはりその時代は素晴らしい。
いつも女性に仄かに想いを寄せ、男らしく、
また、やんちゃで荒荒しく野性的でもあり、
その魅力は一級だった。

この勘助は彼にピッタリの役柄であるし、
信玄と謙信とを見比べる歴史から、
秀吉の軍師であった、竹中半兵衛と見比べる上でも
非常に面白い.
ーー男勘助の壮大なロマンーーという点で見ては如何でしょうか。

また、井上靖という作家は山岳小説を多く書いているが、
こういう時代小説を書いたときもその”山”というものへの
愛情が満ち溢れているし、
どちらかというとこういった時代小説の方が
生き生きとして魅力的で好きである。

★6.≪地獄門≫

好きでもない相手から愛を告白されたら
貴女はどう思いますか?
貴女はどうしますか?

大映映画  ≪地獄門≫


時は保元の乱後、後白河法王を推す清盛と藤原の道憲が揃って
昇進した為、これを根に持った源 義朝と藤原信頼は清盛が
熊野詣の留守中に挙兵、法王を幽閉し道憲を殺した。

世にいう平治の乱である。
法王の身代わりとして輿に乗った袈裟(京 マチ子)という女性は
清盛の家臣盛遠(長谷川一夫)に助けられる。

盛遠は袈裟に一目ぼれする。

盛遠は今、厳島に滞在している清盛の元へ法王幽閉の知らせに
走り、清盛はすぐに都へ戻り、義朝らを討つ。

清盛に褒賞を授けられる身となった盛遠は
袈裟を嫁に欲しいという。

が、袈裟は渡辺の渡(山形 勲) の妻であった。
武に対しても義に対しても一本気な盛遠は女性に対しても
一途で到底諦める事など出きず、清盛にも執拗に迫る。

盛遠の兄は盛遠にいって聞かせるが一途と言えば聞こえはいいが
言い出したら聞かない盛遠はあきらめるどころか
その恋情は増すばかりであった。

渡るは温和で律儀な夫で袈裟とは仲睦まじい夫婦であった。
袈裟は渡るにも打ち明けるが、やさしい夫は、
袈裟を慰め気持ち良く相談にも答え、一件落着かに見えた。

温和なわたるは、牙剥き出しで向かってくる盛遠を
相手にしないようにするが、やんちゃ坊主は引かない。

ことごとく、わたるに皆が身びいきするのも気に食わない。
元々は、正義感も強く、武勇に優れた、盛遠であったが
恋が彼を変えてしまった。

日に日に想いはつのる。

とうとう嘘で袈裟を呼び出した盛遠は
夫と分かれて自分と一緒になれと理不尽なことを言って
袈裟を困らせる。
とうとう袈裟はある決心をして、盛遠に今夜屋敷の渡るの
寝間へ忍び込ませることを約束する。

夕餉の席で袈裟はわたると杯を交わし、
今夜は袈裟の部屋で寝るように勧める。

夜中に忍び込んだ盛遠はわたると思った袈裟を切り殺して
しまう。

そこで初めて袈裟の貞淑な気持ちに気付くのであった。
自分の欲望ばかりに走っていた自分に比べ、
袈裟はわたるのことを思いやって我が命を差し出した。

なんと浅はかな自分勝手な男だったと後悔するがもう遅い。

観念した盛遠はわたるに自分の首を刎ねるよう頼む。
が、わたるにしてみれば、盛遠の首を刎ねたところで、
袈裟は戻らぬ。彼は言う。

”おまえは首を刎ねてもらって
それで済むかも知れぬが、たった一人の妻に 
死に臨んで一言ももらされなかったこのわしは
どうすればいいのだ?
わしは夫婦とは信頼があって成り立つものだと思う。
なにも打ち明けられずにおいて行かれたわしはこれから先
どうやって生きていけば良いのか?”と。

盛遠は初めて、気が付いた 人を愛するということは
そういう事なのだと。

頭を丸め ≪一生 地獄の呵責に責められるのだ。≫と
袈裟の菩提を弔うため諸国行脚に出るのであった。

ねっ!
すごく現代的なシナリオだと思いません?
この作品は原作が菊池寛。

1954年度のカンヌ国際映画祭のグランプリ作品です。
監督 衣笠貞之助

衣装調整は松坂屋となっていますから、
帷子、武者装束など豪華絢爛です。

3人3様の”愛の形”が面白いですね。
わたるの愛し方、愛に対する理念。
袈裟の貞淑な 捧げるだけの愛。
盛遠の奪い取っても自分の愛を押し付ける様。

黒澤明の≪羅生門≫の後半で
夫婦と野盗の3人の証言ーーーつまり自分を正当化しようと
してすべて食い違い、誰が本当のことを言っているのか
結局分からないというテーマと比べてみると
非常に面白いですね。時代の背景が同じだけに。

平家の全盛という戦いばかりの世の中で、
愛に身を焦がす武者に焦点を充てたことが、
非常に現代的感覚で私は面白うござんした。

カラーも美しく、瓜実顔の京 マチ子は本当に平安時代の
女性を思わせる美しさで、この辺りまでーー
ーー雨月物語辺りまでかーーは京美人でいけてます。。

その後はバタ臭い国際派女優になりました。

以前、観た時はなんか軟弱な時代劇と思ったのですが、
視点を変えてみるといやーわたしが間違ってたと
思いました。

そう、あの当時にしては 
これは愛の形についての極めて現代的な映画なのでした。


★7


   ≪丹下左膳≫
悪玉、善玉と分けた場合、葵の紋の印籠のように
善玉が最後に悪者をやっつけて隠し持ったるそのものを
出して膝まづかせる.観客はそこで
拍手喝さい、大喜びというのが常である。

が、先にも書いたように机 龍之介にみられる
主人公悪玉と言うのがある.

ここに人気のあった丹下左膳を登場させてみよう。
今の世の中、
善が悪をやっつける水戸黄門人気が圧倒的だが
丹下左膳は剣豪小説なる分野で圧倒的に人気のあった人物だ。

龍之助も狂四郎も美男だが、左膳はブ男というより、
右の肩から唇にかけて深く切り込まれた刀傷があり
不気味といったほうが的確な表現である。

そして右目はつぶれ、右腕は斬り取られて無い。
これが、美男士相手に対等以上の立ちまわりをする.

蒲生泰軒に言わせると、この化け物左膳の方が
四分六で分があるそうな.

これだけ不具が揃うと普通劣弱になるものだが、
左膳の場合は逆転する。

そして女性に対しては面食いであるのが面白い。

人気の秘密は大衆の中の弱者の強者に対する思いを左膳が
変わりに晴らしてくれる そこに人気の秘密が
あるのではなかろうか.

東北は饗庭(あいば)藩の藩主が無類の刀好きで、どこで聞いたか
柳生家の家宝、関の孫六の夜泣きの名刀 乾雲丸と坤龍丸を
欲しいという。
誰も探しに行くものが無い中で、家臣だった左膳が名乗りをあげ
江戸の町に出没するようになる。

おんなものの赤いお腰に古袷を着流し、名刀求めて
柳生道場へ出向く。

筋といえばその名刀2本がさまよい、
大勢で取り合うというだけのことだが
なんといってもこの映画の魅力は左膳の人物の魅力であろう。

不気味で不器用で物事の計算など出来ないが、
よく知ればお人好しのところもあれば純情さもある.

林 不忘原作の左膳を当初はあの名監督
山中貞雄が大河内伝次郎で撮った。昭和10年のことである。

今回私が観たのは戦後すぐの同じ大河内伝次郎のものだが、
監督はマキノ雅弘である.

後に大友柳太郎が東映で撮っているが、
これはもう殆ど原作から離れた娯楽チャンバラである.

しかし、
この戦前戦後の2作は背景やストーリーが
原作に沿っての剣豪ものの匂いを残した作品である。

命がけで主君の為に名刀略奪を試みる左膳が
最後に大岡忠相の裁きのもとで主君に裏切られ、
”お目出たやな 左膳”と自分に言い聞かせるという
主従の繋がりのはかなさも混ぜて波乱万丈の
ストーリー展開となる。

続編に”こけざるの壷”があるが、
ストーリーの面白さでは圧倒的に
坤龍丸、乾雲丸の名刀の奪い合いのこの作品が面白い。

もともと、丹下左膳という小説ではなかった.
大岡政談の中のひとつの事件として
書かれた作品であったが、
剣魔 丹下左膳があまりに 圧倒的人気を得たために
連載の途中から、いつのまにか
丹下左膳と変わっていたそうである。

机 龍之介が無目的の殺人の中に
無明の闇にさまよう
求道のうめきのようなものが感じられ、
ラストシーンでどうしようもなく地獄の責め苦に遭うごとく
あわれにも自分の子さえ腕に抱くことも出来ずうめき、
苦しみながら死んでいったのと比べ
左膳はあくまでも主君の命で動いただけのことである。

同じ剣魔でも左膳の場合に慈悲だの求道だのは登場しない。
その精神は、忠義と裏切りである.

書き手の思いが連載中にどんどんエスカレートして
剣魔 を落ちこぼれとするなら、エリートをとことんやっつけろ
みたいな作者の思いが魅力的な人物と
なっていったのではあるまいか.

製作 大映
監督 マキノ雅弘
出演 大河内伝次郎(二役)丹下左膳と、大岡忠相
    /水戸みつ子/山本富士子/
    沢村国太郎(津川雅彦の父)

戦後のこの時代にこれだけのセットを作ったマキノはやはり
只者ではない。

★8

≪浪花の恋の物語≫今日はこの映画の共演で、恋が芽生え結婚したお二人。

中村錦之助と有馬稲子.
近松門左衛門の≪冥土の飛脚≫を映画化した
   内田吐夢監督の ≪浪花の恋の物語≫デス。

この作品も小学生の時にリアルタイムで観ました。
とにかく画面がきれいできれいでという印象が残っていました。

内田吐夢監督は先に紹介した≪宮本武蔵≫5部作や、
≪大菩薩峠≫といったスケールの大きい様式美溢れる作風で
知られている。

≪血槍富士≫や、≪花の吉原百人斬り≫といったケレン味あふれる
画像は現代劇のケレン味で魅きつける吉村公三郎と
よく比較される。

改めてみた、≪浪花の恋の物語≫は上手い構成と
日本時代劇の様式美ここにありと思わせる出来である。

ストーリー
近松座の作家、門左衛門は次ぎの作品の構想が決まらずにいた.

飛脚稼業を営むお店(たな)の養子忠兵衛は堅物で、働き者と
評判だった.縁談も決まりかけていたが、ある日親しい友達に
無理やり、遊びを教えると言われて連れていかれた郭(くるわ)で
美しい遊女梅川と出遭った。

お互いに魅かれあった二人であったが、梅川にも
遊郭のお大尽(豪遊するひとのこと)から、身請けの話が
持ちあがっていた.
思いつめた忠兵衛は、お客から預かった50両の金を
行きがかり上、茶屋の主が言う見受け料、250両と
加えて200両という大金の見受け手付金として、払ってしまった。
お店に帰るのが遅いので思い当たった友人は茶屋に訪ねていった.

忠兵衛は友達と思って、恥を忍んで打ち明け、
持ちかえる50両を2,3日という事で、借りた。

茶屋にしてみれば、ライベル出現でお大尽にも金額を
吊り上げられるとほくそえんでいる。

それから、今度は武家邸に届けるよう母から言われ、
300両の金を預かって出かけた忠兵衛は、
途中、ふと、梅川のことを思い出し、茶屋に行ってしまった.

250両を差し出しているお大尽を見て、
咄嗟に、懐に手をやった.
しかし、そこで、主や、お大尽にまたしてもバカにされ、
身上(しんしょう)のことまで、あからさまに言われ、
歯を食いしばった。

いくらお金の世界とは言え梅川の気持ちに反して、
好きでもない相手に身請けされなければならないとは
非人情だと.、それが、世間というものだとわかっていながら、

”梅川に問いただす”と部屋へ行くと。。。

友人が梅川に、お金の出所から、今までの経緯をと、
とうとうと喋っている。
しかも、”わしの金だけは先にかえしてもろとこ!”と.
これには忠兵衛は頭に血が上った。
”友達と思えばこそ、恥も何もさらして打ち明けすがったのに
ようもようも、みんなの前で恥をかかせてくれたなあ”
懐から金を出し、封印をちぎってばらばら、じゃらじゃらと
ばら撒いて、泣き笑いで、梅川と抱き合い、
”これでわしらは夫婦や”と...

捕り方はお店に踏み込み母は捕らえれていった。
ここで田中絹代扮する母は品格も、気丈さも充分に伝わってきて
素晴らしい.
逃げた二人は死ぬ前に生みの親に会いに行くつもりであったが、
なんの罪もない梅川に累が及んではいけないと
ここで別れようという.
自分は封印切りの罪で、死罪を覚悟していると....。

さて、近松はふとしたことから、この二人の経緯を見守っていたが
ふたりが逃げたことを知り、小屋主からせっつかれ、
このふたりのことを戯作にしようと思いたつ。
まだ,心中はしていないようだ。
郭の一部屋で構想を練っていると、梅川が連れ戻されてきた。
梅川は狂ったように、井戸端へ降りていき、飛び込もうとするが
主に捕まり、”死ぬことさえ自由にならないのですか”.
”お前には2度勤めがまっているのじゃ”。

結局、忠兵衛は打ち首となり、梅川は”忠さま、忠さまと
半狂いである.
世間の非情を見て,近松は何を思ったのだろう・・・?

雪の中、近松は筆を執り、イメージを浮かべる..。
それは、歌舞伎の世界の中で、
梅川、忠兵衛が雪の中、舞う美しいシーンであった.
会いたかった親にも会わせ、道行をさせようというのか..。


近松は芝居小屋の大向こうから舞台を一心に見つめている。
舞台では、観衆が食い入るように涙する、”冥土の飛脚”の
人形浄瑠璃が上演されている。
カメラは近松の目から、ずーーっと引いて行き、桟敷を乗り越え、
舞台の人形の背中へと引く。

そして、再び、近松の目へと戻り、
フエイドアウトしていくのである。

その近松の目はこの残忍な芝居を世に投げかけ、ひととき涙する
観衆へのメッセージであり、芝居にした後悔でもある.

恋の物語だけではない、人間の面子を傷つけられた男の悔しさ、
どうしようもない封建制への告発。
人間性への謳歌、なにも語らない、ただ、そんな不人情な終わり
にはしないとだけいった近松は
ただ、しずかに、
人間の織り成した悲劇を差し出しただけなのだろう.
そこが、近松への入り口だと思うのである。

溝口健二の≪近松物語≫や、≪雨月物語≫、≪山椒太夫≫といった
モノクロのシンプルな幻想世界とは又一味違った、
現実の梅川、忠兵衛と、近松のイメージの中の歌舞伎の世界の
梅川、忠兵衛と、ラストの人形浄瑠璃の梅川、忠兵衛を
上手く絡み合わせて、良く知られた梅川、忠兵衛のストーリーを
近松がどういう風に捉え、浄瑠璃作品として仕上げたか?
を併せて描いた。
そのカラーも非常にうつくしく
ふたりが黒の紋付、献上博多帯の衣裳で踊る舞いは
この世のものとは思えぬ、息を呑む美しさである..。

制作 東映  1959年度作
監督  内田吐夢
出演
   忠兵衛    中村錦之助
   梅川     有馬稲子
   近松     片岡千恵蔵
   友人     千秋実
   お大尽    東野英治郎
   遊郭主    進藤英太郎
   忠兵衛の養母 田中絹代

原作 近松門左衛門...冥土の飛脚より






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