旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

≪外人部隊≫と≪モロッコ≫


トーキーになってから、
時代順に女優を取上げていっていますが、
どうしても避けられない女優はハリウッドだけに限らず、
フランス,イギリスと順次紹介していきます。

人気の順や、作品毎ではなく、年代順にとりあげて
整理すると流れも分りやすいのではと
自分の為にもそういう整理の仕方をしています。

興味のない女優さんもあるかもしれませんが、
ここで取上げる女優さんは映画史に残る人たちで、
大雑把ではありますが取上げていきます。

こうやって作られた作品、活躍した女優さんを年代順に
追っていくと思いがけない共通点や、新たなる発見など、
いろんなことに気付かされてとても勉強になっています。

名女優といわれる人たちは、名作といわれる一本に
必ず出演していますが、2本3本という女優も数多いし、
一本だけしかなくてもどうしても省けない女優もいる。

ガルボ,デートリッヒ、コルベールが活躍した時代に
フランスでは一昨日紹介したアナベラがいますが、
その時期に活躍した、どうしても外せない女優がふたりいます。
マリー.ベルとフランソワーズ.ロゼです。
ミレーユ.バランも入れたいのですが、
彼女はまあ≪望郷≫一本ということで省きます。

マリー.ベル....1900年フランス生まれ
バレリーナーを志すが、舞台女優志望に転向。
24歳で映画初出演。
作品はなんと言っても≪外人部隊≫1934年。
≪舞踏会の手帖≫1937年であろう。

気品、そして憂いに満ちた容貌で
フランス映画の代表的女優となった。
大戦中はレジスタンス運動にも参加したようで、
その功績によって、レジオン.ドヌール賞を受けている。
このひともその生き様から来る美しさが画面に現れる人なんですね。

フランソワーズ.ロゼ....1891年パリ生まれ。
1913年≪ファルスタッフ≫という作品で
22歳のデビューである.
23歳でジャック.フェデー監督と結婚。

それが彼女の女優としてのキャリアにも
大きな影響を与えたようである。

1930年、トーキー時代に入ってから、
フェデー作品はもちろん
その他の作品でも大活躍が始まる。

映画評論家のおすぎさんが彼女の大ファンでいつも
≪ミモザ館≫や≪女だけの都≫を見なさい、見なさいと
しきりにおっしゃっていますが,本当にそうなのです。

≪外人部隊≫、≪ミモザ館≫、
≪女だけの都≫、≪舞踏会の手帖≫
≪四重奏≫、≪旅愁≫などなど
1913年から1973年まで
後年脇役に回ったとはいえ、
その存在感は観るものを圧倒する。

今日はこの二人が偶然にも一緒に出演している
≪外人部隊≫1934年度作品と
≪舞踏会の手帖≫1937年度作品を取上げてみます。

≪外人部隊≫(ジャック.フェデー監督)では、
マリー.ベルは二役を演じます。

主人公のピエール.リシャール.ウイルムが
外人部隊に身を落とす。
その原因は虚栄心が強く、派手で浪費癖のある女フローランスに
入れ込んでの結果である。
部隊に入ってからアルジェで知り合う彼女と対照的な女....
酒場の女イルマ....

この二人を演じわけ,
作品的には同じモロッコが舞台の外人部隊の
恋模様を描いた≪モロッコ≫よりも上等だという声を
よく聞きますね。

華やかで自分勝手な女だけれど魅力的なフローランスと
社会の底辺に生きる女イルマの
けだるい演技と演じ分けて評判を取ったようです。

≪舞踏会の手帖≫

今見れば古臭いと思う部類の映画かもしれませんが、
オムニバスという形式を使っての、これも名作です。

スイスの湖畔に住む金持ちの未亡人が
静かな余生を送っていてふと昔、
初めて出た舞踏会を思い浮かべる。
そのころ彼女に言い寄ったり、
慕情を抱いた人たちを訪ねてみようと思い立ち
一人一人を訪ねて、失望し帰ってくるというお話。

フランソワーズ.ロゼは
≪外人部隊≫では酒場のマダムでトランプ占いをする
これがまた、なんとも魅力的な役どころ。
流れ者として身を寄せた外人部隊の男たちに未来を占う。
物憂い感じの中に
女らしいやさしさを漂わせ、観るものを魅了する。

主人公(ピエール扮する)の兵士に、死の卦が出たときに
こころの動揺と悲しみを表現する彼女の演技は
存在そのものがすでに表現しているかのような適役で
印象深い。

ジュリアン.デヴィヴィエの≪舞踏会の手帖≫では、
ヒロイン.マリー・ベル扮するクリスティーヌに
恋焦がれた若者の母親役で、精神をおかされ、
ショパンのピアノ曲を弾きながらの狂人役は
鮮やかな重圧感のある演技で圧倒された。

女の中に母性を感じさせる不思議なマダムの魅力ロゼェ、
静かな憂いに満ちたしっとりとしたマリー.ベル。

どちらもトーキー初期の最高の女優であり、
息の長かったロゼェも
フェデー監督の三部作..≪外人部隊≫、≪女だけの都≫、
≪ミモザ館≫、そして、デヴィヴィエの
≪舞踏会の手帖≫あたりが
最高のときであろう。

フェデー作品でも最高傑作といわれる≪女だけの都≫は
過去になでしこでも紹介しました。

≪ミモザ館≫を紹介したいのですが、

今夜は≪モロッコ≫よりも良い?と評判だった
≪外人部隊≫のストーリーを簡単に。。。

虚栄心が強く、浪費癖のある女フローランス(マリー.ベル)の
散財で破産宣告を受けた男ピエールは、
外人部隊に志願したものの
いまだ彼女に未練がある。

しかし、女にも捨てられた。

彼は海を渡り、モロッコへと辿り着いた。

人種も国籍も問わない流れ者の吹き溜まりである。

町にはブランシュ(フランソワーズ.ロゼェ)の経営する酒場が
はやっていた。

そこで彼はフローランスにそっくりの
イルマ(マリー.ベルの二役)という女と出あった。

全ての過去を捨てたはずだったのにイルマに遭って
パリを思い出さずにはいられないピエール。

パリの懐かしさに堪えられなかった。

顔は瓜二つだが、白痴のように何でもピエールの
言いなりになる女だった。

イルマを愛すようになったピエールはイルマに絡んできた
ブランシュの良人を殺す羽目になってしまった。

ブランシュの計らいで罪には問われずに済んだが、

ピエールはブランシュが何を考えているのか分らなかった。

いつも足を引きずってけだるそうに話すブランシュ。

イスにどかっと腰掛け、トランプ占いをするブランシュ。

無表情なその顔でけだるそうに占うトランプ。
だが、それは恐ろしいほどに当るのだ。

兵士が出兵するときに占うと
死人の数までぴたりと当るのだった。

ピエールのところに叔父の訃報が入り,
遺産が転がり込んでくる。

彼はイルマを連れてパリへ帰ろうとする。

その前日の事。

夢にまで出てくるあのフローランスに
ばったりと出会ってしまった。

ピエールの心はかき乱され、
またもやフローランスへの思いが募ってくるのである。

フローランスのほうはといえば冷たかった。

こんな薄情な女のために
一生を棒に振った自分が恨めしかったが、
かといってイルマへの愛も
フローランスの身代わりでしかなかったと気付き、
絶望し、
パリも財産もどうでもよくなったピエール.

イルマには持っている全てのお金を与え、
パリへと見送り、自分は
外人部隊へ再入隊することにした。

出兵する朝、彼に酒場のブランシュが占ってくれた・

カードはスペードのⅠ・・・・・死・・・・と出た.

しかし、ブランシュはいつものように
無表情で何も言わなかった。

そして、ピエールの部隊は砂嵐の奥へと運ばれていくのであった。

なにかの本で以前読んだことがあるのだが、

スタンバーグの≪モロッコ≫のほうは
恐らくスタンバーグ自身がモロッコを実際に目にした事もなく、
作った作品であろうと。

かたやフェデーの≪外人部隊≫。

フランス人にとってモロッコは避暑地などとしてパリッ子は
いつも行き来しているわけで当然この作品の作者達も
モロッコをいつも訪れているに違いないと。

フェデー監督の≪外人部隊≫には、
モロッコの砂嵐の匂いがするというのだ。

しかし、では≪モロッコ≫が
モロッコの土壌と言うものを感じさせないか?というと
そうでもない・

その両者の差が、同じ砂漠の町を舞台にして、
全く別の種類の映画を作り出した。

スタンバーグの計算尽くされた隙のない構成の見事さ、
人間像の描き方の素晴らしさ。

フェデーの≪外人部隊≫は
どこか乾いた詩のような響きさえ感ずる。

上質のメロドラマ≪モロッコ≫に対して
≪外人部隊≫はメロドラマといった甘いものはなく、
リアリズムに近い人間の恐ろしさのようなものが
感じられるのである。

面白いですね。

同じモロッコを舞台の作品はこの時代であるからこそ
たくさん生み出され,
またそれぞれの監督の感受性と技量によって
違った、
そしてそれぞれに素晴らしい作品が生まれたのである。

デヴィヴィェの≪望郷≫、スタンバーグの≪モロッコ≫、
デヴィヴィェの≪地の果てを行く≫、
そしてフェデー監督の≪外人部隊≫と

見比べて見るとうんと満腹になりますよ。


さて、駆け足で女優さんを追っかけますので
省略される女優さんもありますが
お許しあれ。

ジーン,ハーローやマーナー.ロィといった女優さんも
この時期に表れましたが、
明日はちょっと飛ばして、
ビビアン.リーに触れてみます。.





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