旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

黒澤明の1.≪白痴≫2.≪生きる≫


    黒澤明監督作品
1.≪白痴≫
2. ≪生きる≫

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1.≪白痴≫


黒澤 明自身が一番好きだと公言していた作品≪白痴≫


赤間とい青年は、札幌イチの旧家に育ち、
金融業を営む大金持ちの息子であったが、

親の苛酷な躾への反発と 
惚れた女に(那須妙子)ダイヤを贈ろうと
親のお金をクスねたことで勘当された.

その親が亡くなり、親の財産が転がり込み、
札幌へ帰る列車の中だ。

列車の外は吹雪だ.
乗り合わせた亀田という男、  自分で白痴だと言う。
白痴ーー癲癇性痴呆ーーだと自分で言っている.

何年も笑ったことのない赤間はこの人の良い青年と
話しているうちに大声で笑ってしまった・
不思議な魅力を覚えた。

作者ドフトエフスキーは単に善良な人を書きたかっただけだ.
真に善良なものは白痴に等しいと言っているーーー冒頭の注意書きだ
....
この物語は一つの単純で善良な清浄な魂が周りの懐疑、不信によって
無慙に亡びていく痛ましい記録である.ーーとある.

冒頭シーンから、良いですねー.
二人は札幌の白一色の雪の中 写真館の前で立ち止まる。
美しい女性のーー黒のマントに身を包んだーー大きなポートレト.
”どうだキレイだろう!”
”とても不幸せな人のようだ、なんだか胸が熱くなる”と
涙を浮かべる。
 赤間は赤子とはなしているようなやさしい気持ちになる。

亀田は大野とい親戚を頼っていく所である。

那須妙子という女はある男の囲いもので、世間で
悪評が立っていて それをうち消したい為 
60万円という金で お金の欲しい男に
結婚を持ちかけている。あのポートレートの女性だ。

これが大野という家にも災いが降りかかることになってくる。
なぜなら、そのお金が欲しい男と
大野の娘、綾子との間に結婚話が有るからだ.加山という。
大野の娘綾子は母親に似て潔癖な娘だが
上流家庭育ち独特の少し意地悪なところもある。

綾子は何故か亀田に親近感を感じ
彼が白痴といっているのが信じられない。
心が美し過ぎて凡人には見えない何かがあるように
思われてならない。

那須妙子と結婚しようとしている男加山は
お金と綾子とを天秤にかけている。

そして、亀田は、那須妙子に初めて合って 
その女性は悪ぶってはいるが本当は
そんな人ではないと思った。昔どこかで見たような瞳....

亀田にじっと見つめられると、みんなすくんでしまうようだ。
その目はまるで神か仏かに見つめらるような...
.そんな気になりみんな自分をさらけ出せる....

妙子は特にキリストかなにかに遭ったような感じを受ける。
この人だけは信じられる!
そして赤間、妙子、加山、大野、妙子のパトロン東畑、の間で、
醜い争いがあり、人間の弱さがさらけ出され
亀田を苦しめる。

妙子は悪女と言われとぃるが、そうではなく
何も分からない時分に男の囲い者になった不幸な女性だと
亀田は思った。
今世の中がわかるようになって自分の身の、心の
置き場がない。そんな妙子を亀田は救おうとする.

庇えば庇おうとすればするほど妙子は皆の笑い者になる、
亀田は妙子を引き取ると言う。どうやって養う?そんな次元の
ことではない.
救おうとして...純粋な気持ちだ。

迷える子羊を救おうとする意識はない.白痴だからだ.
でも、妙子にはその気持ちがわかる。
この美しい女性の存在が、存在するだけで周りの邪悪な人間が
この女性を悪者にする。しかし、彼女の力ではどうすることも
出来ない。
”あの写真を見た時貴女が僕を呼んでいるような気がした。”
”わたくしも貴方を待っていたんだわ”

加山に赤間は100万円を積んで
妙子を譲れと言っていたが、妙子はその100万円の札束を
皆の前で暖炉にくべてしまう.
”この灰、炭はみんな加山さんあなたのものよ”
”私は亀田さんについていくわ”

これを最後まで書くと夜が明けるので最後に一気に
飛ばせていただく。
綾子、妙子の亀田の奪い合い、どうすることも出来ない亀田、
赤間は絶望して、妙子を刺し殺し、気がふれる.
赤間が哀れでならない
亀田は赤間と死を共にする。
綾子一家は、亀田の死を聞き、改めて、亀田の心の美しさを
再認識する.綾子の母は言う。
”あんな心のキレイな人この世にはもったいないよ”
”白痴は私達の方だったんだわ”綾子の頬を流れる涙は
止まらなかった....。

製作  松竹  1951年度作
監督  黒澤 明
出演  森 雅之/原 節子/三船敏郎/久我美子
     千秋 実/志村 喬/東山千恵子
原作  ドフトエフスキー

赤間と亀田の対照的な性格、そして奇妙な友情、
舞台をロシアから雪の北海道へと移し、その世界をたっぷりと
味あわせてくれます。
雪原、吹雪の中を走るそり、馬車、機関車、 
 望遠レンズは活躍します。丁寧に丁寧に撮られています.

モノクロの雪が美しく、亀田の心のように。
雪原に座る黒のマントに身を包んだ原 節子が美しい。
このような大陸的な映画でのヒロインは
彼女でしか出来ないだろう、見事なキャステイングだ。

戦争犯罪人として処刑されそうになった恐怖から精神に異常を
きたしたムインシュキン公爵の役を見事に演じた森 雅之

森 雅之は作家有島武郎のご子息である.

日本の俳優で知的さ、ノーブルさでは
この人の右に出るものはいないと思っている。

京大の哲学科を中退。
≪安城家の舞踏会≫、≪羅生門≫、≪我が生涯のかがやける日≫、
≪雨月物語≫、≪武蔵野夫人≫、≪浮雲≫.≪挽歌≫.
文学座にも席を置く.

どんな役に置いてもその育ちからくるインテリジェンスと、
気品は
常に漂っていて、そしてきちんとした演劇の基礎を
積んでいるから、
羅生門における陽の三船と比べて
陰の森の役どころは、目立たなかったようであるが、
この執念の炎に燃えている森の目つき、
あの演技が、羅生門の出来を高めたことを
評価する人も多い。

そして自堕落な貴族を演らせても、
育ちの良い人間から伝わる
ニヒリズムや自堕落さが際立つわけで、
普通の人が退廃をやっても
ニヒリズムにはならないのである.そういうニュアンスを
出せるのは、森 雅之だけであろう。

ニヒリズムは極めて西洋的であるから
海外の評価が日本的なものに走り、
彼の評価が上がらなかった.
が、やはり三船の野性的なものとは
対象をなし、陰のダンデイズムを演じられる俳優は
森を置いて他にはいないし、素晴らしい役者である.

笠さん、森さん、三国さんが私の大好きな..
そして俳優ではなく
役者さんである.

そして原 節子の悪女が想像できますか?
久我美子の気品と子悪魔ぶり、
三船の荒々しさ、
と四代俳優のまさに力演、競演である!

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2.≪生きる≫≪生きる≫

製作  東宝 1952年度
監督  黒澤 明
出演  志村 喬/伊藤雄之助/金子信雄/小田切みき


最近よく取り上げられるテーマ...
定年後の人生をどう送られますか..。

癌にかかった場合の告知はどうするか...
昔は告知だとか、定年後のつまり老後の余生など
真剣にマスコミが取り上げることもなかった。

この生きるという映画は何十年後の世の中の関心事を
戦後すぐに先取りして観客に問題を投げかけた映画であり、
監督は1歩下がったところから少しオーバーに
そしてフェミニステイックにまた皮肉っぽく描いている。
メークの濃い 醜気迫る志村喬の演技がそれを物語っている。

癌と告知されて初めて遣り残したことをやってみる。
癌にかかっていなくても
やりたいことを若いうちからやっておけば、たとえやれなくても
老後の下地を作ることは大事なことだ.
この頃こそみんな考えて準備をしているようだが
この時代にそんな余裕もなく、また考えつくこともなく送っていた人生だった
であろう.

そんな所にメスをいれた黒澤。

小津の東京物語が家族の崩壊というテーマを先取りして観客に投げかけたように
不治の病に罹ったものが残された時をどう費やすか?

この重く深刻なテーマを名優志村喬を配して世界の
ベスト10にも入ると言われるほどの名作に仕上げた。

この暗い映画をどう受け止めるか?
あまりに分かり易いヒューマンドラマとして描いた黒澤さんの思いは?

志村の息子夫婦が親の病を知らずに退職金を目当てに家を建てて挙句
別居しようという。
志村はそれを聞いてふさぎ込む.
怒鳴らなくてふさぎ込むのだ.
アノ当時の日本ではそんなひどい家族があるのかとも思えるが
そこが優れたひとの捉えどころが違うのだろう。
しかしそういうことがだんだん現実になってきたわけで

前に書いた東京物語の親を邪魔者とまでは行かずとも
絆のようなものが壊れていった現実を先取りした小津さんと比べると
テーマは違ってもそういった社会の有り様の未来を早くも
捉え一級の作品に仕上げた両者はすごいと言わざるを得ない。

そういった意味での比較をしながら見るとまた違ったものが
見えてくるのではなかろうか。

どちらの映画にも共通するのは登場する人間が一人二人を
除いては自分のことしか考えていない人間の登場がが多いと言うことだ.
今でこそそういった人間が多いからこそまた心が寒くなった時代だから
感じなくなってしまっていると思える世の中だからこそ
珍しくもないテーマかもしれないがどちらの映画も
アノ当時としてはセンセーショナルなテーマであったと思う.
見るものにとっては信じられない周りの人間達の存在。
だが、時代は違えどその当時からそう言うものであってただ表現できない
また気がつかないだけのことだったのではないだろうか。
つまりは以前も、これからもずっとある永遠の
親と子のテーマでもあると思う。

伊藤雄之助演じるメフィストフェレス的な小説家も魅力的な演技でしたし、
抒情詩的な映画の最高峰でしょうね.



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