旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

田坂具隆1≪五番町夕霧楼≫2.≪湖の琴≫


1.≪五番町夕霧楼≫
2.≪湖の琴≫

ーーーーーーーーーーー
1.≪五番町夕霧楼≫

昭和30年も間近の頃、国宝金閣寺が青年僧の
放火によって焼失した。
この事件をモデルに書かれた小説2作。

≪金閣寺≫、≪五番町夕霧楼≫
三島由紀夫、  水上 勉

≪五番町夕霧楼≫
製作  東映 1963年作
監督  田坂具隆
出演  佐久間良子/木暮実千代/河原崎長一郎/千秋 実
     丹阿弥谷津子/宮口精二/岩崎加根子
原作  水上 勉

まだ、おぼこい夕子は入江の美しい与謝半島の貧しい漁村で
年老いた父と病に臥せった母、そして二人の妹と暮らしていた.
入江の上の墓のそばに美しいさるすべりの木がある.
ここが夕子の一番の安らぎの場である.
幼い頃から遊んだ場所....
家族を養う為、夕子は
京都西陣近くの娼妓屋夕霧楼に身を置いた.
夕子にとって京都に出てくることは娼妓の世界へ身を置く辛さより
他に何かがあるようだ

楼の女将も、娼妓達もいい人ばかりであった。
やがて、夕子は水揚げされることになる.
旦那は西陣織の織り元の主人である。
旦那は夕子を自分だけのもにしたくて大枚を払い、
他の客を取らせないようにした.

何かあるといつも、
夕子の脳裏には百日紅が真っ赤に咲いているあの入江の絶壁の
山上が浮かぶ。

おとなしかった夕子も次第にここの生活にも慣れていった.
それから、夕子の元に鳳閣寺の小僧さんが通うようになり、
皆が不信がった。
旦那の手前もあり、おかつは夕子に小僧のことを問いただす。

小僧さんーー正順ーはひどいどもりで、誰からも相手にされない.
夕子の村の寺の息子で幼馴染であり、通ってきても昔話を
して帰るだけの清い仲であり、
夕子は正順を兄のように思っていたのだ.
夕子が京都へ出てくることは正順に遭えるという
その望みの為、娼妓になることは
我慢出来るように思えたからであった。

正順は寺でもいじめられ、ばかにされ、
帰る家も無くなったた今
卑屈になっていた.
彼の安らぎ、心の支え、生きる望みは
夕子だけであったのだ。

旦那の嫉妬で鳳閣寺の住職に告げ口をされ、夕子も肺病になり、
絶望的になった彼は夏の朝、寺に放火する。

夕子の罹病以来、寄りつかなくなった旦那の白状さ、
純粋な正順と夕子の哀れさを思うと
おかつはいても立ってもいられなかった..

国賊と呼ばれ自殺した正順、その後行方がわからなくなり、
心配するおかつや、娼妓達.
真っ赤な百日紅の色ーーーその色の服を身につけた夕子の
息絶えた姿が見つかったのはその百日紅の木の下であった.

父は夕子を負ぶって家路を辿る。
”どんな辛いことがあったんや”...

これは恋愛ものではなく、純粋な美しい心と、心の触れ合いを、
また 寄り添うように慰めあった二人の心を
引き裂き踏みにじった哀しい物語である。

≪金閣寺≫
製作  大映
監督  市川 崑
出演  市川雷蔵/中村鴈治郎/北林谷栄/仲代達矢
原作  三島由紀夫 

≪金閣寺≫はその小僧さんに焦点をあて、放火するまでの
彼の心の動き、金閣寺への病的なまでの憧れ.
神聖化し、自分だけのものとする...。その過程を緻密に描いている


寺の住職の色町通いや、乱れた制度、
金閣寺を焼きたいと思う気持ちは
日に日に高まっていく...。

この両作品を”表と裏側” から背中あわせで観てみると
非常に面白い。

それにしても娼妓になれる潔さのなかにあんなに純粋で
温かく優しく強いものを秘めた夕子は理想の女性であろう。

佐久間良子の出世作であり、素晴らしい演技力である.
そして可憐な美しさとオ.ン.ナとして の美しさの両方が
画面から溢れるほど伝わってきます。

真っ赤な襦袢が美しく......哀しくて..

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2.≪湖の琴≫
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2.≪湖の琴≫


この映画を観た時から何時か訪ねたいと
思うようになってんん十年  湖北の≪十一面観音≫.
↓ (これをお読みになった方が送ってくださった十一面観音の写真です。勿体無いので転載しました.)
http://www.kitaomi.com/treasure/autumn1.htm

その映画は水上勉原作≪湖の琴≫
年の初めはこの作品でスタートです.
皆様、今年もなでしこの映画と着物の日記ともども
宜しくお願い致します。

さて、
これも貧農の娘と青年の運命のいたずらで悲恋の道を
辿ることになるはかなくも美しい物語。

舞台となる余呉の湖がことのほか美しい.
この湖の水で三味線や琴の糸を洗う西山部落という所へ
奉公に来た さく という娘は
そこで同じ村の出身の宇吉という青年と知り合う。
二人は恋に落ち、愛をはぐくんでいく.
宇吉は繭の紡ぎ方、洗い方、張り方をさくに丁寧に教えていく。

たまたま宇吉が兵役に取られている間に、
京都から糸を見に来た長唄の師匠にさくは見初められ、
彼の弟子にしたいと話がある.
師匠にはさくが十一面観音の化身のように思えたのだろう.

夜の接待の席で美しい三味の音を師匠より聴かされ
さくは京に行きたいと心が揺らぐ。

師匠はさくを大事にだいじにし、三味の稽古をつける.

さくに心を奪われていたが、内緒で兵役から帰った宇吉とさくがあっていることを
知り、嫉妬に駆られ、 それでも弟子や弟子やと自分に
言い聞かせていた師匠は、ある夜
理性を失い、さくを自分のものにしてしまう....
幻想の中で十一面観音のさくと舞う師匠。

宇吉に合いに西山部落へ戻ったさくは十一面観音の前で
ある決心をする。
二人の思いでの場所ー
繭小屋で宇吉と結ばれる。

が、翌日さくは宇吉が丹精こめて織った糸を首に巻いて
命を絶っていた....
宇吉はさくを余呉の湖へ沈める....

どうしてこのようなことになるのかとかいう
もどかしさは触れないでおこう。

蚕を大事に大事にする宇吉のやさしさ、
美しさ故、そして男に対して無知なさくの避けられない運命.

が部落のゆったりとした生活の流れ、
可憐なさくの着物姿はほっとする.

また琴糸が完成されていく過程が興味をひく。
そして働く娘達の着物姿も美しい、余呉の湖(うみ)も美しい。

東映が放った前作≪五番町夕霧楼≫に続く名匠田坂具隆監督の
美しい映像である。

師匠には男性の着物姿NO.1(わたしの勝手な順位)
の、先代中村鴈治郎.
気品もあり、この映画に格調を添えている。

さくの浴衣姿、木綿の着物、働く姿、
生活の衣服が着物であった良い時代を着物フアンには
見逃せない作品です。

山岡久乃の紫の絽の着物も美しい。
木暮美千代の紬や木綿の着物姿も美しい。
樹木希林がさくの幼な友達で出ているが、まだ初々しい.

さくが京都に行ってから、師匠に着せ替え人形のように
美しい着物をまとい、さらに美しくなっていく。
その変貌も見逃せない。

やさしい人たちばかりが出てくる中で
師匠と出会ったそのことがさくの不幸であったのであろう。

三味の合奏も美しい!

製作  東映  S.1966年度作
監督  田坂具隆
出演  佐久間良子/中村賀津雄/中村鴈治郎/千秋 実
    木暮美千代/田中邦衛/













© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: