旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

D.リーンとB,ワイルダー




巨大なスクリーンが当たり前になってきたのはいつ頃からだろうか?
戦前、戦後と洪水のように封切られた仏、伊、独映画のスクリーンは
35ミリというのか、そのこじんまりとした作品の内容からして
ピタリとはまっていた。

欧州映画の大スクリーンと言うのはピンと来ない。
その欧州映画のなかで、英国監督デヴィッド.リーンの映画の画面は大きい。
というよりスケールが大きい。

そしてもう一人
戦時中ナチの弾圧から逃れる為、渡米したオーストリアのユダヤ人である
ビリー.ワイルダー監督は英語が喋れないため独、仏で活躍していたにも
拘わらず、アメリカでは相当長い間苦労し監督としての
日の目を見なかったそうだ。

ワイルダーといえばご存知のように決して大画面ではないがその年代、
その年代に応じて今でも観客を満員にする人気のある監督だ。
その人気の秘密は後で述べるとして、
今日はこの二人の監督の形こそ違え、類似点を感じたので、
それと共に違う魅力についても比べてみたいと思った。

リーンと言えば、皆様がすぐに思い浮かべるのがあの
”アラビアのロレンス”
であろう。
もっと前のフアンは”戦場にかける橋”だろう。
しかし、彼を世界的に有名にした作品はベニスを舞台に
オールドミス(死語となり)のK.ヘップバーンが中年の妻子ある男と恋に落ち
理性を失うことなくアメリカへ帰っていくという
ラヴロマンスを描いた”旅情”だ。

ベニスの恋”の美しいテーマ曲に感情移入した女性たちは
独身女性の海外旅行など、夢の夢だったあの時代(1953)
二人の行方がどうなるのだろうと言う思いもあるが、
美しいベニスをスクリーンいっぱいに見せてくれた
あの映画に心酔したことだろう。

その前に”逢いびき”という佳品を撮っている。
わたしが見た順はバラバラで製作順と前後した。

ーー戦場にかける橋ーアラビアノロレンスーー旅情ー逢いびきーー
ーードクトル.ジバゴーーライアンの娘ーインドへの道ーー

大雑把にピックアップするとこういったところか。

旅情、逢いびきを除けば大画面の映画ばかりだ。
しかし、彼の大画面はハリウッドのそれとは、根本的に違う。
米国のそれは大画面で観客を魅きつけるというだけの意図が]ありありと見える
作品群が多い。
観客は作品の質を見落とし、ダイナミックだと勘違いする。
がリーンは違う。
(戦場にかける橋)--のタイのジャングル、(アラビアのーー)
のアラブの砂漠、(ドクトルーーー)のロシアの大雪原、
(インドへの道ーのインドの大地
つまり、映画のスケールの大きさと言う内容の必然性からくる大画面と
いうことである。
そのスケールの大きい内容に圧倒されると共に
その場所ーー自然ーーの広さに観客が圧倒される。

変わってその場所にこだわったもう一人がワイルダーだ。
しかし彼のこだわった場所は狭い場所である。

それはまるで舞台劇を観るような限られた場所である。
彼が10年もの長い不運な時代。それはちょうど
ハリウッド映画が頂点を迎えるちょっと前の時代である。

その頃彼が見たハリウッドの裏側を描いた”サンセット大通り”では
もと無声映画の大スターの荒れ果てた大邸宅が舞台。

”失われた週末”では、アパートの一室。
”麗しのサブリナ”の大金持ちの大邸宅。
”昼下がりの情事”では、一流ホテル。
”情婦”では、法廷。
”お熱いのがお好き”では、列車の中。
”アパートの鍵貸します”ではアパートの部屋。
”第十七捕虜収容所”の捕虜収容所。
”翼よあれがパリの灯だ”狭い操縦席。
”七年目の浮気”のアパートの上下。
まだあったかなあー?
とまーほとんどが限られた場所で移動もわずかなもの。

彼の真骨頂はセリフー台詞ーにある。
何故今だ者たちに受けるのか?

会話の面白さ、洗練、ウイット、一つ、一つのセリフが頭に残るほど
魅力のあるセリフ、シナリオ設定だ。

これは旧さも何もない洒落たいいまわしが随所にある。
モンロー、A.ヘップバーン、マレーネ.デートリッヒ、W.ホールデン、
J.レモン、J.スチュワート、S.マクレーンと当時絶頂の女優、男優を
駆使し、その洒落た会話、いいまわしで圧倒的人気と王者の座を物にした。
サスペンスと喜劇この両者をこの”場”という設定で、
そしてスケールの欠けた部分を人物像をクローズアップすることで
彼の描く人物は途方もなく面白く魅力的である。

彼の話術は絶品である。

戒律の厳しい英国において敢えて一貫して男女の不倫をテーマに描いたリーン。

そして、人物像を徹底的に面白く描ききったワイルダー

大小 画面の大きさは違えど、とことん場所にこだわった二人の意図。

それは、画面の大きさは違えど 内容 の濃さにおいては双璧であることに
間違いはない。

もう一度観直してみては如何?






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