旧い映画を楽しむ。なでしこの棲家

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眼の壁    霧の旗


   1.大庭秀雄監督  ≪眼の壁≫
   2・山田洋次監督  ≪霧の旗≫

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1・≪眼の壁≫


あの恐ろしいオーム教の事件が、去って久しい!
あの大事件が、起きた時フト浮かんだのが、
松本清張の”眼の壁”であった.
この時代の世代は、誰でもそうであったように
清張は、ミステリー小説の分野では、”点と線”で
華々しいデビューで、次ぎの出版本が、待ち切れないくらい
の人気であったようだ.

私が、清張を読み始めたのは、少しあとで、
多分高校生位からだと思う.
すでに、たくさんの清張スリラーものが、揃っていて
次ぎから次ぎへとむさぼるように読んだ。
後に”火の路”という古代史ミステリーを読むに至り
古代史へ、のめり込んでいった。

そのミステリーものの中で、”眼の壁”というのが、ある.
清張物の映画化は、多いが、それぞれ原作の味を
損なうことなく(佳品)が多いと思っている.
特にモノクロで撮られた時代のものが、
今観るとき、時代感が感じられ
タイムスリップしたような感慨を受ける.

前述した ”点と線”は、カラー作品で残念ですが、
 ゼロの焦点 霧の旗 顔 眼の壁 などモノクロの
作品が良い.
『眼の壁』
製作    松竹 S.33年度
監督    大庭秀雄
原作    松本清張
出演    佐田啓二/鳳八千代/高野真二/渡辺文雄/朝丘雪路

会社の会計課長が、資金繰りをするなか、
パクリ屋というんですか手形詐欺に会って
会社に損害をかけて自殺をしてしまう.
可愛がられた部下の佐田啓二が、友人の新聞記者と二人
犯人の形跡を追って追い詰めるという話である.
まあーいろんな似たようなサスペンスものは
後にでてきたようだが、
この作品の特徴は、政界の黒幕と新興宗教のボスが...、

次々と起こる殺人の手口に絡んで焼き物に使う薬品(硫酸)が
使われたり 宗教団体が、旗を掲げて列車に載り込み
死体を包帯でぐるぐるまきにして運ぶ
まさにオームのやり口そのものなのだ.

このトリックをあの時代にもう予見したのか.
麻原が、これを真似たのかは、分からないが
ゾーッとした.

その頃、奇想天外なことが、後の時代に
ごく当たり前のことになることはたくさん存在する.
凡人が想像できないような...
おぞましい非日常的情景では横溝や、江戸川乱歩にあるが、
こういう日常に有り得ることを先の時代に小説として
組み立てたことが、やはりすごいなと改めて感じたのである
何気なく観る映画もドラマも後に繰り返しみると
ぜんぜん気付いていなかったものに眼が行く.
”ああーあの映画!観たわよ!でなく時代を見詰める眼が、
大事なのでは無いだろうか.

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2.≪霧の旗≫


≪霧の旗≫


寅さんシリーズの監督としてすっかり定着してしまっていた
山田監督だが、依然書いたように
ミステリー映画の脚本を書き、また監督もしている
作品を紹介しましょう。

本格推理映画の傑作”ゼロの焦点、”砂の器”で
橋本忍と組んでシナリオを書いている。

その山田監督が監督した≪霧の旗≫.
松本清張原作のこの作品は余程女性向きであるのか
何度か映画にもなり、テレビでも製作されているが
山田監督の演出の良さと
出演者倍賞千恵子、滝沢修の力演、好演とが相まって
何度観ても飽きないし面白さが増してくるという
他の製作と比べ群を抜いている.

倍賞千恵子はヒロインの桐子に扮する.

桐子は、兄が強盗殺人の犯人とされたが、
無実を信じ、熊本から上京して高名な大塚弁護士のもとを訪ね、
弁護を依頼するが弁護料が払えないという理由で
彼に冷たく断られる。

何度も頼むがそのうちに兄は獄死してしまい、
桐子は復讐を誓う。

桐子はバー”海草”にホステスとして勤める。

同僚のホステスから、恋人杉田の監視を頼まれる。
尾行した桐子は本郷のしもたやで杉田が何者かに
殺された現場に遭遇する。

そこに偶然大塚弁護士の愛人径子が先に来ていて
”殺したのは私じゃない、あなた証人になって”と
頼まれ一応頷くが、そこに犯人のものと思われる
ライターが落ちていたのを桐子はポケットに仕舞う。

当然、径子は警察に逮捕され、径子から桐子のことを
聞いた大塚弁護士は桐子に本当のことを警察に話してくれと
頼むが冷たく突き放す。
これから桐子と執拗に頼む大塚とのからみが始まっていく。

倍賞千恵子はこういう庶民の娘を演らせると俄然光る演技を
放つ。

この映画では復讐という強い意思力を必要とする役であるが
冷たい表情で完璧にこなす。

土下座をしてまで頼む大塚に桐子は動揺もせず、
罠にかけて関係を持ち暴行罪で
彼を訴え、失脚させ終には
熊本(天草かな)へ向かう舟の上から
ライターを海に投げるという完全な復讐を貫く。

最初は大塚に対して小気味良さを感じるが
あまりの桐子の意固地さにもそこまでやらずとも..と
思えてこなくもない.

が、そこにはなにも残らないということはこの映画では
さておいて良いのであって、
女性の恨みの激しさ、ここまでやるかというテーマを
桐子を通して社会への訴えとしてみれば完璧な映画である。

情報も少ないあの時代、弱者が泣きを見ていて
マスコミも叩くようなことはないから
ああいう手段しかなかった。

そのテーマを原作以上に誇張して演出したことが
倍賞千恵子のキャラクターと重なって秀逸な出来映えとなった。

原作以上の出来のこの山田監督の”霧の旗”を
観てくださいね。

筋だけを映画では観てはいけない。
原作をどれだけ膨らませ、どこに焦点を合わせているかを
見つめることで何度観ても良いものは良いと
初めて感じるものだと思う。

何故、リメイクがつまらないか...というのを分かる為には
原型をも観なければ比較ができない。

そうすると筋だけを映画で追うという観かたは
おかしい.

非情とも思える桐子の人間像を彫りあげたから
この映画は成功したのだろう。


製作  松竹  1965年度
監督  山田洋次
脚色  橋本 忍
原作  松本清張
出演  倍賞千恵子/滝沢 修/新玉三千代/川津祐介/
    市原悦子



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