「診療所の窓口から」2001.3  



はるか上の方で、とうとう戦いが勃発したようだ。
今年は激戦のようだ。
奥で待機している自分たちのところにも、ただならぬ気配が伝わってくる。
身辺が、落ち着かなくなってきた。出動の依頼が下されるのも、時間の問題だろう。
人の体では、外からの敵の侵入が確認された場合には、ただちに緊急部隊が対応する。
それから、排除すべく、組織だった系統で、次からつぎに指示が下されていくのだ。我々、ヒスタミンも、指令を受け次第、すみやかに出動する。
害になる物質を排出できるよう、アレルギーの症状を起こすのが役割だ。
この前の「さば」という名の魚介類のときも、激しい戦いだった。
仲間が総動員で立ち向かっても、時はすでに遅く、防ぎ、追いだすことはできなかった。その時の宿主の状態を、今でもはっきり覚えている。
かゆみや、じんましん、と呼ばれる、各症状でとても苦しんでいた。
力になれなかったことを、残念に思う。
しかし、それはもう、昨年のこと。
多くの犠牲を払ったものの、その後、なんとか落ちつくことができた。
けれども、今度はもっとたいへんだ。
花粉症の季節がやってきたからだ。
これは、毎年のことだけに、たちが悪い。
我々の準備は、いよいよ万全だ。
出番が来たら、まず、異物を体外へ排出するために、粘膜を刺激して、涙や鼻水を出させる。
花粉を排除するために全力を尽くすのだ。
宿主に、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみが生じるのは、そのためだ。
だから、どうか我慢してほしいのだが。
高じて、あまりにも過活動になってしまうと、逆に、我々の作用が宿主に苦痛を与えるようになってしまう。
すると、“薬”という、物質が、外から投入され、良かれと思ってやった、一連の働きは止められてしまうのだ。
こうなると、もう動きようがない。

ヒスタミンは、細胞の中で待機しながら、考え続ける。
もっとも、宿主自身の体の動きが保たれないと、困る。
だからこそ、この事態は甘んじて受け入れるしかないのだが。
なんとかバランスを保てる方法はないものか、と。


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: