Laub🍃

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2010.07.24
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カテゴリ: .1次メモ
 憎い。あのひとが憎い。

 そう思わないようにずっと押し込めてきた。

 押し込めないと、黒い影が相手に襲いかかってしまうから。
 大抵その後後悔するのだ。そうして、もっと人とうまく関われなくなる。
 僕はそれが嫌で、できるだけ人に近付かないようにしていた。

 一方。時々うっかり発露してしまう僕の力を見て、言いふらそうとした人たちは、皆黒い影に任せた。
 その結果がどうなったのかは僕は知らない、知る気もない。
 ただ、それが募る毎に己が恐ろしくなっていき、更に自分や自分の能力を見詰めることもせず抑圧するだけになり、抑圧すればするほど暴発した時の威力は恐ろしいものになり。

「面白い力持ってんじゃん」




 彼が僕も他人も世界の全てを憎まずかといって抑圧せず、赦しているように見えたからか。



 そんな、ある日。
 彼とも大分仲がよくなり、話したことのないことも沢山、彼相手にならば話せるようになっていた頃。

「あのさ、ちょっとだけでいいんだ、力貸してくんねえ?……こんなこと頼んで、ごめんな」

 ううん、と首を振る。彼がほっとした表情を見せる。
 優しい彼がこんな力を頼るなんて、何か力仕事でも頼みたいのだろうか。

 しばらく逡巡するのをじっと、彼にだけは向けられる笑みを浮かべて見ていた。

「……あのさ、どうしても、赦せない奴がいるんだ」



 ……そうか。彼も、俺と同じなんだな。

「うん。いいよ」











 目の前の肉塊を見下ろす。
 ざまあみろ。
 彼に恨ませるなんてこと、するからだ。

 恨むことは憎むことはとても苦しいのに、優しい全てを赦すようなあいつに唯一赦されない行為をするなんてひどいやつだ。

 僕は彼の事情を聴いていない。



 ああ、でも、これからはきっと。

 今までの様には彼とは話せないのだろうな。


 ずちゅりと黒い影が腕を引き抜いたのを見届けながら、僕は汚いな、と呟いた。





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最終更新日  2015.09.30 22:52:28
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