Laub🍃

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2011.03.23
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カテゴリ: .1次題
勝利ってなんだろう?どこから?どこまで?なにについて?

 俺達はずっと狭い箱庭で暮らしていた。
 だからそこで決められる勝利はいつも決まった人ばかりがもっていくものだった。
 今俺がかいちょーと呼ぶ男、ふくかいちょーと呼ぶ男。俺はいつもその二人にとりつくされたあとの銅メダルしかもらえなくて、だから俺は競争することをあきらめた。代わりに何よりも友情や愛情に類するものを求めた。それらは勝利とは関係ないと思っていた。
 だけど、関係があったのだ。
 愛されるためにばかり行動している俺はつまらないと、最初俺にキャーキャー言っていた子たちも徐々にあの二人に流れるようになっていった。
 そして俺にはおこぼれをよこしてくるのだ。生徒会の会計、補佐、色々な立場で呼ばれもしたけどNo.3だっていうことには代わりがない。毎回毎回、クラスが変わろうと違う学部に進もうと「お前は俺達の次に頼りになるからな」と拾おうとしてくる。いい加減にしろ、と毎回言いたかった。
 悔しくてどうしようもなくて落ち込む俺を慰めたのは、今俺がしょきって呼んでる男。本当に良い奴。普段は無口で内気な癖に、落ち込んでる奴にはひどく優しい。
 だから俺はいつもかいちょーとふくかいちょーの言うことは聞かなくても、しょき…枝葉葵の言うことには従った。まあ、あいつが俺をとがめだてすること自体少なかったけど。

 あいつは、本当に良い奴だ。だからーーー…
「会長」
「俺はもう会長じゃねえ…だろ、お前らがリコールしたんだから」
「…でも、だからってこれは…あんまりだ」
「いいっつーの。いっそ自業自得だって笑えよ…!」
「そんな…」
 こういう奴に惚れられてしまう。
「…あーおいっ!どしたのー?」
 助走をつけて飛び込むと、二人の驚いた顔。……二人とも気付いてたでしょ?それとも、俺が割り込んでくるのがそんなに意外だった?ま、いっか。
「……いつの間に呼び方を変えたんだ」
「かいちょーさんこそ、何してんのー?大丈夫なら早く立ち上がりなよ。歩けないなら保健室に行く手貸そうか?」

「あー、それなら大丈夫大丈夫!だって俺とあおい、生徒会辞めたから」
「……は?」

 生徒会を辞めさせられて学内での立場が落ちて、今までやってきたことのツケが返ってくる。
 そうしたら優しい葵が生徒会長を不憫に思うのは致し方ないこと、予想内だ。
 だから、そのツケの矛先を分散してやる。



 カーディガンを捲り上げ痛々しい内出血を晒すと、会長が目を細める。

「お前、もしかして俺の為に…」
「馬鹿じゃないのー?ナルシストもいい加減にしよーかかいちょー」
「だからかいちょーって呼ぶなっつーの!……保健室、行くぞ」
「いった!もー、手加減してよかいちょー」
「お前が勝手に怪我してんのが悪い」
「何それ・・・」

 俺の腕を馴れ馴れしく掴む会長はどうでもいい、問題はあおいだ。
 視界の端に意識をやると、あおいが俺を微笑ましそうな目で見ている。よし、今回も、勝った。
 あいつの目の中に、最も多くうつっているのは俺だ。


***


 会計は、いじめられていた。親の立場が強い俺、伝説になった生徒会長を兄に持つ副会長とは違って、あいつには何の後ろ盾もなかったから、何かで秀でる度に成り上がりの癖に、などと陰口を叩かれていた。そしてこいつはこいつでプレッシャーに耐える為に自分を傷付け続けた。こいつの爪が小学校の頃ぼろぼろだったのを何度なおそうとしたことか。不器用だが頑張り屋なこいつは、いつもいつも自分を不利な方向に持っていくのだ。放っておけなかった。

 ずっと俺はこいつの為に、こいつを常に守る為に頑張り続けたのだ。

 なのに、今お前がこんな腕してちゃ、しょうがないじゃないか。

 ぎゃーぎゃーわめく会計の腕にこめた力を少し緩め、偶然に見せかけ傷跡をなぞる。

「ッつ・・・このばかいちょー!!!」
「なんだと」

 …けれどこの傷は、俺の為に作られたものと言って、過言でないのだろうな。

 今度こそ。

 そう思うと少し、口角が上がった。

最終更新日 2016.08.23 12:29:52





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最終更新日  2017.11.06 21:21:13
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