Laub🍃

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2011.03.24
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カテゴリ: .1次題
進めない。これ以上は氷の岩肌。





 幼馴染の事が昔から大嫌いだった。傲岸不遜で周囲の好意に甘えやりたい放題。
 嫌い過ぎて親に引っ越しまで嘆願したが、親や弟はやつのことを「自分を持っている」「頼れる」と気に入っており、とうとう僕は折れた。
 だから僕はいつもやつを規律する唯一の立場に立とうとしてきた。
 僕は頭でっかちだとかやつを妬んでいる可哀そうなやつだとかいろいろ言われてきたが、そういった問題ではないとその度に言い返してきた。ただただ、生理的に合わないのだ。
 そんな接し方をされたあいつはといえば、あいつの言うなりにならない僕に対し苛立ったり、時に僕の指摘にある穴を逆に指摘してきたり、面倒そうに無視したりといった反応ばかりだったが、ごくたまに人に言えない悩みを相談してくることもあり、そういった時は少しは可愛げがあるものだと思ったものだった。

 時が過ぎ、僕達は鶯桐学園の風紀委員長と生徒会長に就任していた。
 人と人の諍いを放っておけなかった僕は雑用係のボスとあだ名される風紀委員長に。
 自分を愛し敬うなら望むものを与えてやるといったどこぞの悪の組織の長のように育ったあいつは生徒会長になり、二年の初夏の就任式からこっち、僕達はろくに喧嘩もしなくなった。

 提出物や会議関連で顔を合わせる時以外は互いに無視。はじめは幾度か奴の傍若無人な振る舞いに反応しかけたが、じきに慣れた。
 最近あのバカよりもある意味で厄介な転校生が現れたようだが、こいつにも大して大げさな反応をすることはないだろう。僕は僕の冷静に保たれた道を歩み、周囲の人間をそこへ矯正していくだけだ。


**


 幼馴染に冷たい対応をされるのは慣れているが、ここまで冷たいのは初めてだった。
「あー、ほんっと面白い奴」
「かいちょーってばほんと悪趣味」
 そう言う会計も、薄笑いに隠しきれない愉悦を抱いている。
「お前も見ただろ、あのがーんばってがんばって俺を無視しようとしてる時のぴくぴくって動く眉」
「だからって…煽る…為に問題……って…小学生…みたい……」
 じとりとこちらを見詰める書記。怒んな怒んな。

 幼い頃から、会計も、書記も、他の多くの奴が、風紀委員長である奴のことを目で追っていた。からかった時の反応が本当に面白いのだ。いつもいつも真面目で素直で自他に厳しくて、そしていつも一人で生きている。その姿は氷の彫像のように美しく、そして触れがたい。礼儀の仮面を取り払うと岩肌がある、その先にはどうあがいても進めない。だからこそ外でやいのやいの言うしかない。

 だから俺は、その外野の最前列に立つことに決めた。
 全てに対し厳しい奴の、特別厳しく対応する相手になろうと思った。

「かいちょー、転校生がまた風紀委員長に見咎められてるみたいだけど?」
「よし、庇いに行ってやろう」

 ああ、氷の女王に心を奪われた少年の気分だ。







最終更新日 2016.08.23 03:36:14





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最終更新日  2017.11.06 21:19:54
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