Laub🍃

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2011.08.17
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カテゴリ: .1次メモ
 俺には姉が居た。
 最低最悪の自己中女で、男の間を渡り歩くような奴で、何度かその男どもが家に押しかけてきたこともあった。

 いつも、いつも俺はあいつのわがままに振り回されてきた。

「しょうがねえな、姉ちゃんは」

 口癖になっていた。姉ちゃんは何を言っても反省しないから、こっちが大人になるしかないのだ。

 けどある日、あいつが刃傷沙汰で死んだ。


 それから、俺は何をしていいのか分からなくなった。

「愚弟に試練を与える」
 なんて、バカみたいな台詞吐いていた小学生の頃を思い出す。

 よくこの秘密基地に無理矢理連れてこられた。
 無理矢理そこの番人でもさせられた。

 もう、あの力強い腕と体温を感じることは二度とないのだと悟り、俺は姉ちゃんが死んでから初めて泣いた。

 どうして、あんな優しい顔できるのに、楽しそうにいつも彼氏の話してるのに、あんな酷い死に方をしなくちゃいけないんだ。あいつらに無理心中されるくらいなら、俺が、俺が先に、姉ちゃんと…………


 もう、俺には何も大事にしたいものはなくなっていた。
 姉ちゃんに奪われるかもしれないと思っていたバイクも装飾品も何もかもが、姉ちゃんにとられることが永遠にないと分かってから、要らなくなってしまった。

 ああ、何もかも姉ちゃんの生だ。

 俺の人生は本格的に狂ってしまった。

 今まで何もしなくても求められ、仕事を押し付けられてきたから、今更自分一人では何の為に頑張ればいいのか分からなくなってしまった。

 誰か、姉のように俺を引っ張って行ってくれないか。必要としてくれないか。

「君、治験に興味ない?」


 必要とされるならなんでもいいと、連れて行かれた怪しげな実験室。


「……これ……大丈夫、なんですか」
「大丈夫大丈夫、広まってからだったらもう誰も「駄目」なんて、言えないから」
「……まあ、いいです」

 そこで、禁術に手を出した。



 その考えが変わったのは、俺が実験室に入って数日後のこと。


「お前か、新しく入った奴は……夜一、といったか?」


 俺を引っ張っていった人の上司は、自分勝手そうで意地悪な笑みを浮かべていて、
 おまけにいつもイントネーションを間違える姉と、同じ間違え方をその人はしていた。
 ただ、それだけだったけれど、俺はその人に今後の一生をすべて捧げることに決めた。






 その研究室では、外ではおいおい、犯罪だろ、と思うようなことが普通に執り行われていた。だから、段々と俺もそこに馴染んでいった。あの時の俺と同じように新しく来た人間に対し、若いな、と思うくらいには。
 だってそこにはこの世の心理があると思ったから。
 あっけらかんで俺に嘘を吐かず女とか家族の絆というものに夢を見させなかった姉ちゃんのように、それはすがすがしいまでに露悪的だったのだ。

 同時に、世間では未だに俺達の存在が受け入れられていないことも理解していた。

 昨日踏み込んできたばかりの「ヒーロー」とやらが俺達を屠っていく様に見入ってしまったし、頭のどこかに残る幼い俺が、共感さえしていた。
 俺達がやっていたことは受け入れがたいだろうと。気持ち悪いことなのだと。
 それでも愛してしまっているのだ。彼女のわがままと、その対象を。

 彼女の死体の前、ぼろぼろになったヒーローの目の前。
 それ以上によろよろとしながらも、最後の砦を守り抜く。

 それさえ渡してくれれば殺さないと言う声など聞こえない。もはやこれは俺にとって生きがいなのだから。
 そうまで、愛せるーーーーー姉や彼女のようにわがままを言おうとできる、自分自身を誇りにすら思う。そんな自分に、また笑った。



2016.09.26 01:52:39





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最終更新日  2016.10.17 21:44:12
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