Laub🍃

Laub🍃

2011.12.13
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カテゴリ: .1次メモ
 自分が造りものだってことには随分と前から気付いていた。
 何をすればいいのか分からない癖に勇者って自意識だけは一人前で、ある日唐突に「やるべき」ことがなくなってからはそれを探す毎日で何度も自分を馬鹿みたいだと思った。挫折する度に目の前で繰り返し行われる悪事を見逃すたびに反応してくれない「鍵穴」を見る度に自分は勇者、自分は勇者なんだと言い聞かせた。

 だから彼が、守がやってきた時は本当に神様みたいだと思った。
 彼が元の世界を語る時、少し暗い目をするのを見て、神様の世界というのは大変なんだなあとも思った。守の親族がこの世界を造ったと聞いて、ああやっぱりと思ったものだった。
 ずっとここに居ればいいのに。
 そう思うのに時間はかからなかった。

 世界は思っていたよりも随分と残酷で、僕たちはに嫌われているのか嫌なことの連続で、その度に挫けそうになったけど守がそれでも進もうと言うから、僕は納得するまで付き合うのが勇者として最後の仕事なんだと思った。

 だけど向こうの世界に帰ると分かった瞬間堪えられなくなった。

 いっそ僕が身代わりになればいいんじゃないか、守の記憶をそこで探すんだ、なんてとち狂ったことを実行してしまったのは僕がそれまで何も考えずに気持ちを抑えつけていたからだろう。



 いくつもの青く光る隆線の中を抜けて、すぽーんと放り出されたそこは、真っ暗だった。





「ここがー…守の、世界」

 真っ暗だ。とても静か。
 何もしなければ平和だということだけは守の挙動と話でなんとなく分かっていたのでじっとしていた。
 魔方陣の残照が消え、夜目がきいてくると段々部屋の状況が分かってきた、書物がやたら沢山ある部屋だ。守はやっぱり賢者に転職すべきだった、俺にばっかり転職の巻物を使うなんて。
 部屋を恐る恐る出る。
 宿屋のように細い階段が左手にあり、たんたんと降りていくと

「守…!部屋から出る気になったの!?」
「…え?」

 目の前には見慣れないー守の家族と思われるー女性が立っていた。






「……ずっと、騙されていたのか。俺は」

 やることもないので、魔王の死体に話しかける。
 ゆらゆらと揺れる炎、灯す何百本の爪はまったく短くならない。

「もう戻ろうかな……」

 確かここの近くの村ーああああが結婚する相手の居る村なら、まだかろうじて無事な筈。

 無理だろうか。
 もう駄目かな。

 薬草を摘まんで口に入れ腹を癒すのも何度目かになる。

「……ああああ……」

 本当あほらしい名前。
 こんなんだからあいつは居なくなっちゃったんだろうか。
 駄目な造り主よりずっとしっかりしているあいつは、自由に幸せにしているのがお似合いか。
 それなら俺はここで飢えて魔王みたいに乾涸びる方がお似合いなのか。
 ここに来てからは、ちゃんとやれてると思ったのにな。

 赤黒い部屋の中、外に出れば広がるであろう真っ青な空を思い返す。
 夕暮れ、村を歩く時。真夜中、出ると言われるモンスターを待ち伏せして紺碧に染まった草原で二人で待っている時。

 あいつと一緒なら俺はなんでもできるような気がしていたのに。

「会いたい……」

「まもる」

「……ん?」

 目の前に、『ああああ』が立っていた。







「あのね、あっちの世界とこっちの世界を僕行き来できるようになったみたいなんだ!」

 申し訳なさそうに笑う『ああああ』を見て、俺は話の内容半分も理解する前に『ああああ』に抱きついていた。

「うっ…ううううう……」
「え、あの、守、それであっちの僕は守の姿になっちゃってて」

『ああああ』の腕は驚いて俺の背中の近くをうろうろしている。やっぱ可愛いなこいつ。

「まじかよ…そりゃ災難だな」
「ううん、全然いいんだよ!守かっこいいし」
「はぁ!?」

 目を瞬かせ、咄嗟に腕を突き放して『ああああ』を見る。

「そりゃ…お前が可愛いだけだろ……」

 というか、そんな姿にセットしたのは俺だから罪悪感が出てくるんだが。

「可愛いって、あんまり嬉しくない……でも守が褒めてくれたんならいいや!」
「切り替え速いな」
「そりゃ速くもなるよ。あっちの世界で『就職』したし」
「はぁ!?」
 そんなに時間が経っていたというのか。いや、でもこいつがゲームの中、俺がゲームの外に居る間はやっぱり現実世界の方が時間の流れが速かった気がする。
「え、もしかして家族に会った?怪しまれなかった?」
「大丈夫だったよ!一週間会ってないからって不安がられたけど」
 二人ともゲームの中に居る場合は現実世界の時間は殆ど立たないんだろうか。
「それで、どうやって戻れるのか分からなくて何年か頑張ってたけど、今日「守に会いたい」って部屋で呟いたらなんかに吸い込まれるような感じがしてさあ」
「え!?」
「なんか神様みたいな人の声がして、お前はこれからゲートを行き来する権利を得た、なんて聞こえたんだ」
「お、おー……因みに、俺は戻れたりする…?」
 恐る恐る聞くと、難しそうな顔。
「……難しいんじゃないかな。だって守、魔方陣見える?あそこ」
「うっ……見えない」
 『ああああ』の指さす先には暗闇。
「だよね。さっきから全然あっちに目線やらないんだもん。元の世界の思い出話あれだけしてたのに。……もしかしたら、隠し要素として見つかるかもしれないし、これからも捜してみる?守が元の世界に戻りたいなら」

 暗に本当は戻りたくないんだよね?と言われている気がした。

「……そうだな。続けるか、冒険」

 『ああああ』が結婚しても、子供が出来ても、新しい勇者が旅に出てもー一緒に歩いて行けたらいい。
 まずは『ああああ』を改名する所からだ。 



***



 あれから数年経った。

「…お前さー、結婚しねえの?」
「え!?どうしたのいきなり」

 今ではとっくに見慣れたピンクが振り返る。

「いや、だってお前何人も結婚できる相手みたいなの現れたのに。特に世界を救った勇者様だろ?引く手あまただろーに」
「…わかってるくせに……」
「なにが?」
「……なんでもない。ところで、『隠し要素』の祠はこの近くみたいだよ」
「おー、分かった」




 その祠は男性キャラとも結婚し、挙句不思議な力でそのアイの子である次世代勇者まで造れる特別システムのものということを知ったのは全てが終わった後だった。


****


「……今度は農場経営ゲームってとこか」

 随分と日常は色々なゲームに満ちているもんだ。
 あれだけゲームだと楽しかった行いもリアルでやるってなるときつい。

「こっち終わったよー!」

 鍬を片手に可愛い息子が叫ぶ。

「ああ、そろそろ飯時だ丁度いい。あいつも帰って来るだろ」

 あいつは案外あっちの世界になじみがあったみたいで、こっちとあっちの世界を行き来している。息子は羨ましがるけれど、言うほどいいもんじゃないと思うぞと言って誤魔化しておく。
 たまに無性にあっちの世界が恋しくなるけれどこっちにはまりきった今、精神的にも戻れるとも思わない。
 ふと、畑の向こうに気配。

「あー!お帰り!!」
「ただいま!うわー、頑張ったじゃないか!!」
「おかえり、あきら」

 あきらーーーー士。まもるとも読ませるこの字は、今では元『ああああ』の名前として定着している。
 夕焼けに染まった顔がへらりと相好を崩す。
「ただいま。変なことなかった?」



 -たまに、自分が籠の鳥のような気分になる。
 こんなに広い世界に居るのにおかしな話だ。
 大体それは外の世界を知っているからそう思うだけの話で、生まれた時からここに居るNPCや息子にとってはここが全てなのに。
 平和すぎる世界で、他の人と一定以上は絶対に親しくならない世界の片隅で俺は自分に言い聞かせるように呟く。

「大丈夫。今日も何もなかった」
「本当に?」
 少しずつ近寄っていく。こちらもへらりと誤魔化すように笑う。
 …何を誤魔化しているんだろう、俺は。
「ああ。お前こそあっちの世界で大変じゃなかったか」
「はは、数え上げればきりがないけど、なんとかやってる。守と保に会えるから頑張ってるよ」

 籠の鳥が不幸せだと誰が決めたのか。
 俺は少なくとも、幸せの深みにはまりこんでいる。
 大丈夫ーー幸せ、だ。






【こうして勇者と導師たちは末永く幸せに暮らしましたとさ】





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最終更新日  2016.11.20 14:08:34
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