Laub🍃

Laub🍃

2012.02.25
XML
カテゴリ: .1次長

 精神攻撃の専門官と部下には恐れられている。
 俺は別に攻撃するつもりなどない。
 俺は別にこいつを指導することを面倒に思っているわけではない。
 ただ手加減は面倒だ。
 俺についてくる覚悟を決めたのであれば泥を食う覚悟をすべきだ。
 慰めは期待するだけ無駄、こいつらが仲間同士でやればいいだけの話だ。

 それも出来ないのであれば他所に行け。

 俺は部下がなかなかそうできないことを知っていて、それを言う。


 俺の居るそこは掃き溜めの2番隊と裏で呼ばれている。
 軍の掃き溜めと呼ばれるそこは名前の通り他の隊でごみと見做された全てを吸収し再利用する。
 腐りかけの物資だろうと爆弾持ちの武器だろうと役立たずの兵士だろうと、文字通り全てを強制的に使う。壊れるまで。

 イジオン=トイコール。鬼教官と呼ばれる俺の目指すものは、俺の部隊、フラスコのような独壇場から一筋の花が咲く事だ。……喩え今の任務が地味なものであっても。

 俺達の任務は専ら”廃殿”の守備、その封印を更に強めること、なおかつそこから出されるエネルギー、瘴気を有効活用することである。だが、黒く茂った茨がそれを阻むのだ。
 何かを隠すように、封じるように覆っている鉄の茨は俺が物心ついた頃からずっとそこにあった。
 こんなお伽噺もある。

『茨の奥には美しいお姫様が眠っていて、いつか素晴らしい王子様がやって来るまで待っているのだろうな』

 ……今は亡き親父殿が話してくれたお伽噺だ。親父殿は”海から来た者”だから、この国の歴史には疎い筈なのだが、おそらく親父殿の出身地にも似たようなことがあったのだろう。
 だが、その王子様……こちらの世界で言われる”臣下”だ……が仮に居たとしても、そいつらは俺達に阻まれる筈だ。

 ”神殿”の奴等は、虎視眈々と封印を破る事を狙っているようだが、そうしたら国のパワーバランスが崩れる。それは、俺達の属する宮殿の力が弱まる事や、それを恐れた者たちが新たに火種を作る事を示している。


 だから今日も俺は国境であり、無尽蔵なエネルギー源でもあるそこを守り続けるーーーー

ドォン……

「!?」

 何か重い音だ。どういうことだ。
 基地全体に振動が広がっているが、しかし主な震源地は西。確かーーー廃殿の、入り口にあたる場所。


 ……最悪だ。
「ペタラ=リバー!!!応答せよ!!!ペタラ!!!応答せよ!!!」

 通信機の回線を繋ぐ。故あって奴の連絡先は一番に登録してある。問題が多いからだ。

 俺の部下の中でも一番の爆弾娘、ペタラ。能力がないわけではないが、感情が昂ると暴走し敵味方の区別なく被害を及ぼす。本人の体は丈夫で気が弱いからより質が悪い。それゆえに山間の紛争地帯でさえ持て余され、こちらに回されてきた。しゅんとした橙頭が頭を過る。
 最近は少しずつコントロール出来てきていたのだが、くそ。
 あいつが危険な地域に居るなんて、地雷原に爆竹を投げ込むようなものだぞ!!

「……上官…ど……」
「ペタラ!!!」

 ノイズ交じりだが聞こえた。思わずほっとする。

「ごぼ……すみませ……逃げてくだ…さ……」
「ペタラ!?ペタラ!!!」
「茨が…放たれました……臣下と…ぐ……名乗る数名が……戦闘力は…非常に……私では……」
「…そうか、貴様が勝てないのなら相当強いのだろう、もういい、撤退しろ。命が優先だ」

 もういい、命懸けで守る任務はこいつには辛いだろう。

「…私は…無……」
「ふざけるな、貴様はまた闘うことから、生きる事から逃げるのか!!!!もう見放すぞ!!!!」
「……上官ど……今まで怒ってくれて……あきらめな…で…あり……」

 話の合間合間にひゅっ、ひゅっと息がどこかから漏れる音が聞こえる。
 もう、駄目なのかもしれない。
 廃殿の入り口に走りながらもそう考える自分を殴りたくなる。

「ペタラ!!俺が行くまで待ってろ!!!」
「今まで…迷惑かけて…すみま……」
「俺は!お前の……お前たちの指導を面倒だと思った事など一度もない!!!」

 難しいと思った事はある。先は長いと思った事はある。
 だがそれは、こんな形で終わらせる為ではない。

「へへ……よか……」

 あと少し。あと少しだ。

 通信機の声が、実際に聞こえる声と重な

『ブチーーーーーーーーーーーーーーーー』

「……え?」

 部下のもとに辿り着いた筈の俺が目にしたのは、原型を留めない何か真っ赤なものと……それを喰らう、なにものか、だった。



to be continued... ?





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2017.03.19 18:05:30
コメント(0) | コメントを書く
[.1次長] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: