Laub🍃

Laub🍃

2012.04.10
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カテゴリ: .1次メモ
 生徒会書記の無口な春山ツグミは、合唱部で歌う時だけ口を開ける。
 なんでも喉を傷めたくないそうだ。
 普通の時に一切口を使わないが、音楽の才能によってこの学園に招かれたから先生方もそれでいいと納得している。
 そんなツグミのあだなは、名前を文字って「沈黙の春」もしくは「ハレルヤ」だ。外国人か。

 俺はそんなツグミの幼馴染をかれこれ15年やっているから、すっかりこいつの代わりに喋る癖がついてしまった。翻訳もお手の物だ。
 なのに、最近転校生がやってきたことでそれも崩れてきてしまっている。

「ああ~ツグミ~どうしてお前はいつもは無口なんだ~♪綺麗な声が勿体ない~♪」
「歌うな!」

 ああ、噂をすれば。


「お前も返すな!」

 日常会話がミュージカルになるなんて誰が思う。
 おかげで耽美な雰囲気だった王道学園が一か月でなんか別のものになりつつある。

「おやおや~またやっているのか~♪」
「雉打の言う通りだ、歌いすぎると喉を傷めるぞ~♪」
「練習になるからいいだろ~♪」
「よくねえっつーの!つーか賛同すんなら歌うなよ!!」

 俺にはツグミの喉を守る義務があるのに、当のツグミが載せられてちゃ世話ない。
 しかもこの件でツグミには「変だけど面白いやつ」っていう印象がつきまくってしまった。あの静かで綺麗なツグミはいずこ。俺が好きになったのはオウムみたいにけたたましいツグミじゃないのに。

「でも~♪」
「……なんだよ」



「普通の話し方なんて~長いこと忘れてたから~♪」
「…そのままでよかったのに」

 こいつが普通に話す所なんて、おれだってほんとにちっちゃいときにしか見てねえ。
 それで、よかったのに。

「あの時みたいに~自分の言葉で話せる~♪」


 なんだ?……あの時?

「わからないならいい~♪そのうち話す~♪♪」
「あ、ちょっと待てよ!おい!!」

 歌いながら、ついでにふらりと踊るようにツグミは踊りだす。
 くそ、俺も踊ってやろうか。同じアホなら踊ってやろうかちくしょー。

「俺は音痴なのにその気も知らないで……♪」

 うああああ、やっぱ失敗した、音程おかしい、声裏返った恥ずかしいうわああああああああ!!!

「!?」

 ぼふっと音がして、気付いたら俺はツグミの腕の中に熊のように抱き締められていた。

「それで~いいの~少しも恥ずかしくないよ~♪」
「……おい、それパクリじゃねーか。自分の言葉どうしたよ……ぶふっ」

 たくましい体格してるくせにかわいい性格してるこいつを、守りきれないのは残念だけど。
 こうして、守られるのも、いいのかもしれない。

「あ~♪」
「スズメは音痴だな~♪これは歌って練習するしかないな~♪」
「この野郎~♪お前ってそんなやつだっけ~♪」

 ああくそ、鳴かなければ笑われることなんてないのに。ちくしょー。バカか俺はバカか。いやもうバカでいいや、ツグミが笑ってくれるならなんでも。

「…うん、そんな奴だよ」
「!?」
「いまのなし~♪」
「ちょっとまて、もう一回…」
「今の話し方変だったからなし~♪」
「てめ…」

 久しぶりに聞いたスズメの普通の声は、俺の歌声と同じくらいに変で。
 こんなバカバカしい関係も悪くないな、なんて思ったのだった。

******


 十年後、そこはホモォの代わりにミュージカルが横行する学園として有名になったとさ





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最終更新日  2016.12.06 13:16:00
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