Laub🍃

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2012.07.14
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カテゴリ: .1次メモ
「それ」は、海から現れた。

 僕達の世界では、異界人は海から現れる。死者の代わりに。
 だから戦や病など何かしらの原因で大勢が死ぬと、昔から海へと流すことに決まっていた。
 そうすれば、海がこうして補ってくれるのだ。

 それゆえに、海はすべての母などと呼ばれている。

 そうして現れた異界から来た人々は、言葉が通じたり、通じなかったりと様々だったが皆子孫繁栄に貢献してきた。

 僕に新しく出来たお嫁さんもそんな一人だ。

「ホシナ」
「バト!今日は新しい料理を作ったの。味見してみて!」

「バトのために頑張ったのに…」
「うん、ありがとう。でも心配なんだよ」

 海から生まれた人々はこの世界の魔法を知らない代わりに、様々な新しい技術を知っていた。
 「料理」もその一つだ。
 もともと世界にあるものをそのまま食べていた僕達が今こうして新しい幸せに浸れるのも、子の人達のお陰。




 --いいことばかりではないけれど。



 「廃殿」と呼ばれるそこ。そこに入って古い薬の原料を探している僕が言うのも難だが、ここはひどく悍ましい。この仕掛けも、この仕掛けを作ることになった理由も、僕が喉から手を伸ばすほど欲する薬も、全て異界人が作り上げた。持ってきた。この世界にあるものをあるがままでなく、より優れたものにする技を。けれど、僕達元々この世界に居た者には扱いきれなかったのだ。幼い頃の暗い暖炉で誰かが話している情景と目の前の昏く口を開ける洞窟が重なる。

 入っていきなり襲ってくる刃を紙一重で避け、食らいついてくる岩を削ぎ落とし、奥へ奥へ進む。何百年何千年も前の化け物が封じられたここには恨みと外への渇望が染みついている。

 何が恐ろしいか。

 それを外に逃さない「廃殿」自体の力だ。

 気を付けなければならない。

 行きはよいよい、帰りは怖い。ようやっと薬を手に入れても、帰り道にはいきなりすべてが閉ざされ出られなくなった。自分はそこでずっと暮らしてもよかったが、彼女達に薬を届けなければならなかった。
 言い伝えの記憶、古い記憶が混じり合って仄かな光となり、次にすべき手順を教えてくれる。
 踏むべき床、罠のある壁、毒の出る天井……それらを全て耐え抜いて防ぎぎきって避け終えたつもりだった。

「……外、だ……」

 最後の封印をうろ覚えの呪文でこじ開けた時、そこには綺麗な青空がぽっかりと空いていた。









「ーーーーーあ、」

忘れていた。

「閉じなければ」





…その決断が、気付きが一瞬遅かったと知るのは、それから15年後だった。

to be continued... ?





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最終更新日  2017.02.08 23:04:07
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