Laub🍃

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2012.07.15
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カテゴリ: .1次メモ
「おいおい…、設定変更したんじゃなかったのかよ」
「そのはずですが」

 今日も相棒は無愛想だ。でもその顔には少し予想外のことに戸惑う色が見える。

 こいつでもこんな顔できるんだな。今まですべてのことを想定通りとでもいうかのように動いていた相棒の初めての表情に少し征服感を感じた。

「っぶね!!!」

 ドロドロの犬のようなシルエットのモンスター。緩慢そうなしぐさに反して、ここぞというときは素早い一撃を繰り出してきやがる。

「ありがとうございます」

 間一髪、モンスターの手から連れ出した相棒は相変わらずの無表情で、焦った様子は全く見られない。むかつく。

「お前もちょっとは避けようとしろよ!!」

「ごたごたうっせえんだよ!…ったく、こんなんなっても高みの見物してるみてえな言い草だな」
「ありがとうございます」
「褒っめってっねっえ!!!……っと、くそ、あぶねっ!!」
……表情の観察なんてしてる場合じゃないが。

 相棒は、この世界でいうところの神様だ。
 ただしくは「げーむますたー」とかいうらしいが、よくは分からない。
 この世界は相棒によって作られたものらしい。俺たちの過去も今の状態も何もかも相棒が仕組んだこと。
 俺の生い立ちがやたら悲惨なのもそうなのだと聞かされたが、まあ別に恨む気持ちはない。
 滅んだ俺の生まれ故郷も、馴染んだ奴隷生活も、あの日空から相棒が落ちてきたときにすべてちゃらになったんだから。

 こいつは俺達が祀り上げる神様とは違う面をしていたが、感情を見せないのは同じだった。
 石のような無表情と、絶対的な支配力。


 天に帰る方法を探しつつ、俺達の世界が、戦いが辛すぎないように、けれど楽過ぎないように調べて、あとで調整するために一緒に冒険するとか言い出した。
 ……辛すぎないようにはありがたいが、楽過ぎないようにとは随分と自分勝手で腹が立つ。こっちの気持ちをもてあそんでいるようにしか思えない。土足で俺達の嫌だと思うこと、辛さに踏み込んできやがるこいつを、正直言って殴りたいと思ったことは一度や二度じゃねえ。
 だがそれでも手に持っている小さな杖で、自動的に書いてある文字が変わる魔法の紙に何やらさらさらと書き込むごとに「ばぐ」を作り、幾度となくピンチを助けてくれたのを目の当たりにするとやはり畏怖に似た感情を感じざるを得ない。

「どうすんだよ、姫さんを救い出すには制限時間を守んなきゃいけないんだろ?もしも守んなかったらマズルカが王に死刑にされちまうんだぞ!!!」
「大丈夫です、そうしたらまた教会からやり直せばいいんです」


 こいつは簡単に、「死んだら「せーぶ」地点からやり直せばいいんですよ」とか言いやがるが、その記憶を持っているのはこいつだけだ。確かに俺は、俺達は数日ごとに「せーぶ」しているが、こいつのいうような「やり直した」記憶なんてない。死んだらそれまでだ。多分こいつだけ魂が過去に戻って、俺達の魂はそのままぷっつりと闇に葬られてさようなら、新たな昔の俺がいけにえにやってくるだけなのだ。

 その恐ろしさをこいつは全然分かってない。


 何人の俺が、俺達がいままでに死んで来たか。それすらも俺は知らないんだから。

「こんな面倒な突っ込み役に設定した覚えはないんですがねえ」

 はあとため息を吐くカミサマ。うわあああこいつ今すぐ地面に叩きつけてえ。

「うっせえな、それこそお前がこの世界に落ちてきたせいでできた影響とやらなんじゃねえのか」
「基本的にあなたは無口なはずだったんですよ。ここまで口調が荒いヤンキーになっているとは…」
「お前に突っ込みいれてたらこうなったんだよ。それに他の奴にはここまでぐちゃぐちゃ言わねえ」
「はいはい、わかりましたわかりました。ではおしゃべりはおしまいにして、早く攻撃再開してくださいよ。私の居場所はあなたの背中でも結構ですから」
「ったく、お前が自分で避けられるなら俺だってとっくに攻撃再開してるわ!!」
「私の役目はあくまで案内と設定変更ですからね。人には向き不向きがあるのです。私は頭脳、あなたは肉体労働がお似合いです」
「ったく、本当にかわいげねえ言い方しかしねえな…!」

 憎々しげに言いながらも姫抱きしていた神様を背中に回す。その間もモンスター…ウルドの攻撃をよけながらだ、たまったもんじゃねえ。

「頼りにしてますよ」

 ふん、当然だ。なんたったって俺は神様の相棒だからな。
 「シュジンコウ」…神様の国では、「勇者」のような役のことをそう言うらしい。
 勇者の任に着いてるのは他の奴だけど、「シュジンコウ」はそれ以上の大義を持つらしい。
 そう聞かされてから俺は、俺の全てが報われたような気がしたのだ。

「最初っからそう言え」

 そう、俺はシュジンコウ。

 神様いわく、全てを設定されないままで世界がはじまってしまったせいで、心にも過去にも未来にも欠陥を持つ「勇者」……本当ならシュジンコウになるはずだった、「彼」の代わりにここに立っている。「彼」の取りこぼしたクエストを達成するのが俺の役目。
 勇者ともてはやされはしないけれど、それでも、こいつが俺のやっていることを、分かっている。
 ……それでいい。

 どんなに辛くとも、陰になろうとも、世界が俺のものでなくとも。

『敵の設定は変更できても、味方の方は凍結されてしまっています……パスワードを複数人で同時に打ち込まないといけないなんて設定にしなければ……ああ、なんでもありません。あなたにとって重要なのはこれだけです。
あなたが、今日からこの世界の主役です』

 そう言うこいつに『主役じゃなくていい』と即答した時も、こいつは珍しく目を白黒させていたっけ。
 ……俺は陰でいい。背景を守る奴でいい。一人二人がやってることを認めてくれりゃあ、上出来だ。
 カミサマってのはそもそも裏方、背景、大道具係なんだから。

「なんたって俺は、神様の相棒だからな」

 それをきっと人は、黒幕と言う。

*****



アゴギク:ただの格闘家(勇者の親友設定)の筈が、勇者がポンコツ過ぎるせいでフォロー係にされる。
      名誉会長ならぬ名誉主人公。沢山の人に褒められるより、内部事情をよく知ってる人に認められたいタイプ。
ルバート:勇者。本当は主人公の筈だったがあまりにポンコツ過ぎるため神様に見限られている。お飾りだが本人は対して気にしていない。人間というより動物・ペットのように扱われている。
コウダ:神様と言う名のゲームマスター。パソコン部で自作RPGを作り、ついでにいたずらされないようにガチガチのロックをしていたことが裏目に出て、トリップ後碌に設定をいじれない状態に。敵の弱点を増やしたり、バグを利用して特定の場所を「しらべる」とポーションが無限に出てくるようにしたりできるが仲間のフォローは苦手。人との距離感を測るのが苦手なため突き放した態度。
マズルカ:パーティの姫的存在。よく人質・囮になる。参戦した時は1-2ターンで決着をつけてくれるが、ゲームバランスが悪すぎるということでパーティ仮脱退イベントが頻繁にある。わがままでミーハーで怖いもの知らずでよく死ぬ。





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最終更新日  2016.04.25 03:53:21
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