Laub🍃

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2012.09.01
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カテゴリ: .1次メモ



「これ持って行っていいっすかー…って、聞こえてないな」

 聞こえていないんじゃない、反応する手間が惜しいんだ。
 その相手が誰かも確かめず、引き続き作業に没頭する。

 どこからか集められてきた無機物有機物有形無形異形のパーツを組み合わせてゆく。
 最近特に気になっているのはこの赤い丸い核。敵から収拾したというそれは分析すればするほどにその歴史が感じられて面白い。怒りは力、怨恨は歴史、どちらも第三者に利用されることに変わりはない。

 それを利用し作ってはぽい、作ってはぽいと横に捨てる。
 俺がしたいことは利用用途の追及であり、その結果を見届けることではない。結果は耳にしたくなくとも自然に帰ってくる、血やら脂に塗れた部品となって。

 この部屋がガラクタで埋まらずに済んでいるのは、ちょくちょく戦闘員と呼ばれる彼らが俺の作ったものを持っていくから。それが喩え未完成だろうと副作用をもたらすものであろうと、ないよりはまし、溺れる者は藁をも掴む。


「生きたいんなら生命力に溢れた部品を捕って帰れ」

 たまに例外がないことはないが、大抵はそれでまかり通る。

 強くなれないんなら強い仲間を作れ。それが出来ない奴はどうでもいいとすら思わない。

 そんなことを繰り返していたら、気が付いたら組織が壊滅していた。
 そうして、敵の組織に拉致られ、ガラクタを作ることも出来なくされた。
 まあいいか、仕方ないしね。俺にはこれがお似合いなんだろう。

 頭の中で設計図をこねくり回す、ああ、また作ってみたい。
「おいこいつ、笑ってるぞ」
「だから言ったんだ、頭がおかしい奴なんて持ち帰っても意味ないって」
「いや、でも放っておくわけにはいかないじゃん。殺すのも勿体ないしさ」

 そんな会話を聞き流していると、ふいに一条声の光が差す。



 目を見開いたのはそいつに対してではない。
 だがしかし、暫くの間そいつだけが俺の新しい研究室に通うようになった。

 その研究室はもともとそいつのものだったらしいが、まあそんなことはどうでもいい。使い勝手さえよければ。

 質問されあまりに邪魔なのでそう答えたら黙るかと思っていたら、そいつは更に質問を重ねてきた。
 うざったいことこの上ないが、「ということは、前に作った怪人で試してなかったのを今回やってみたってこと?」などとたまに鋭い発言をする辺り、返事をしないわけにはいくまい。



 俺にしては最大限の譲歩を言い出したのは、そいつが俺を引き入れてから100体あまりのガラクタを作った頃。


「…んー、俺じゃあ多分、力不足だと思うんだよね」
「何人かで協力したら初めて出来ることもあるかもしれない。誤魔化さなくても良い、お前は何か俺に『作って』欲しいものがあるのだろう?」

 そう言うと、そいつは目を細める。こいつにそんな観察眼があったのか、とでも言うように。
 馬鹿にするな。興味が殆どないだけで、実験に影響しそうなことはどんな些末なことでも一応認識はしている。

「そうだな。……じゃあ、お願いしようかな」

 そう言って頼まれたのは、かつての、唯一の上司の部品再生。

「何か強化したいところはあるか」
「取り立ててないけど……強いて言うなら、自殺は出来ないようにしてくれないか」

 部品は幸い揃っている。素人にしては保存がうまい。

「分かった」

 一応こんな俺でも恩義は感じている、部品の扱いのうまいこいつにほのかな仲間意識も。


 そして。

 そう思って作り出した『それ』は、俺達全員を滅ぼしにかかる。


 ……そのことを今の俺は、既に、知っている。
 けれどだからといってどうだというのか。
 作った者同士が戦うことなど初めてではないか。

 この世は全て俺の観察対象で実験対象、それ以上でもそれ以下でもない。

 静かに握りしめたメスは、仄かに温かかった。





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最終更新日  2015.10.04 23:19:21
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