Laub🍃

Laub🍃

2012.09.15
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…演じ始めたのなら最後まで演じきれ。
 それか、演技を辞めても繋がるだけの縁を絆を形成しろ。

 そう教えてくれたのはどの先輩だったか。

「気が付かれましたか」

 気が付くと、広い広い和室に居た。
 広すぎて端が暗くなって見えないほどの世界に、鈴を振るような少女の声だけが響く。

「……あなた、誰ですか?ここはどこですか?お…私をどうするおつもりですか?」

 俺は下っ端で新人だがこれでも営業職のはしくれだ。
 こういう不測の事態だろうと冷静を装って紳士で居てやるさ。


「随分と落ち着いていますのね。流石師匠が見込んだ方ですわ」
「……それは、どうもありがとうございます。性分でして。お手数ですが質問にお答えいただけますか」

 若干声が堅く、嫌味っぽくなる。注意注意。ここで逃したら契約、もとい情報は貰えないかもしれないぞ。
 現在居る場所の情報と目の前の声を発する相手を注意深く観察。ここはどこか日本の畳の間のようだ。少し、いや大分暗い。行燈は黒い光を放散している。……黒?

 意味深な沈黙を数秒続けた後、目の前の少女のような声は、御簾に包まれ若干くぐもっている声は答えた。

「突然で申し訳ありませんが、私は貴方の能力を見込んでこちらに招致致しました」
「あ、はい。そうですか、光栄です。まったく何の勧告もありませんでしたので驚きましたが…」

 穏やかなのにぴりぴりとひりつく会話。口の中が妙に乾く。

 水が欲しい。

「そうですか…こちらとしてはサインを出したつもりだったのですが、そちらの世界とはルールが異なるようですね」
「それは気付かず申し訳ありませんでした。差支えなければどのようなサインだったかということをお教え願えませんか?生活圏によってルールは異なりますから、こちらで礼を逸してしまいたくないので」

「……と、鳥ですか?」
「ええ、鳥」

 待て待て、なんか思い出すぞ。

「もしかしてそのサインは烏が家の前で100回鳴いたか、とかいう…」
「ええ、そうです。様々な兆候によく気付く貴方なら、ルールが多少違うとしても察知はされるかと」



 無茶言うなよ!

 確かに最近家の渋柿の木にやたら烏が止まってたと思いましたけど!

 なんだ、この目の前のお嬢さんは世間知らずの温室育ちなのか。とはいっても俺は世間を平たく薄くしか知らないが。しかしサインってなんだ。全然気づかなかったぞ。とにかく腰を下にー、下にー。営業職の勘が、今を千載一遇の契約のチャンスだと言っている。笑顔がひきつりそうになるのを必死で覚える。頭の中で愛する妻と子の顔を思い浮かべる。ほーら、幸せになってきた、大丈夫、大丈夫、きっとうまくいく。

「すみません、直接のメッセージを送れるほど世界が近くなくて…」
「ああ、いえ、大丈夫ですよ。では、いきなりですがご契約内容の確認をしてもよろしいでしょうか?より良い成果を挙げたいので、恐れ入りますがどのような努力、成果を上げることが求められ、またどのような報酬が規定されているでしょうか。私は……」

「元の世界に戻していただけるのでしょうか」

 最後のものだけ、本音だ。正直どんな犠牲を払っても生きて 妻子 あいつら に会う事さえできればそれでいい。報酬だってそこまで気にしていない。あいつより俺の方が給料安いし。とにかく、ここは、慎重に。

「それは……」

 心のメモに彼女の言葉、話し方をしっかりと刻み付ける。ああこれが営業や面接だったら事前準備をしっかりして調査結果を持って臨めたのに、口惜しい。しかし矢鱈とさっきから世界と言うな。上流階級の闇みたいなにおいを感じる。どうする、これまで俺が接してきた上流階級の世界について頭を巡らせるがこの状況に当て嵌まるものが見当たらない。いや、見当たらないことはない。宗教系の誘拐拉致だ。独特のルールで動いてる分、下手すればヤクザやマフィアよりも怖い。

「難しいかもしれません」
「……教えることがですか?私を帰すことがですか?」
「両方です。何故なら、」

 目の前の御簾が一瞬にしてスクリーンに代わった。映画館かここは。
 和畳にずんずんと低音が響き渡る。

「あなたにはこの混乱した異世界で、命賭けで、どんな手を使ってでも平和を齎してほしいからです」
「…………は、い?」

 平和。

 平和だと。





 そんなん、 理想 ムリ に決まってるだろ。



to be continued...?
*******


後書き


*******

第一話なのに主人公の名前が出てこない。

営業職、レッツトライピース。空気を読みつつ空気をぶっ壊しにいく話です。

営業のノウハウ云々は概ね受け売りですが尽力します。
プロットは こちら





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最終更新日  2017.03.19 18:04:57
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