Laub🍃

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2012.09.16
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カテゴリ: .1次長
「いかがしましたか?」
「……申し訳ないのですが、私には過ぎる大役かと。私、そこまで大規模な調停などした経験がございません。もっと力のある方を召喚された方がそちらのためではないかと」

 一休さんかブッダさんか有能裁判官でも難しい案件、俺一人でなんて無理がある。

「残念ながら、一度召喚しましたら次に召喚出来るのは一週間後なのですよ。それを待っていては国が滅びてしまいかねません。じきに召喚致しますから、貴方のお薦めの方を紹介してください。生憎干渉技術も監視技術もお恥ずかしいながら未発達なので、カリスマと言ってもどのようなカリスマか、なかなか判断がつけられないのです。倫理観が偏った人ならば、なおさら」
「…………はい」

 駄目だ。まるで用意してきたかのような流れる台詞。何を言っても華麗にスルーされそうだ。

 俺が目を半眼にしているうちに、目の前のスクリーン内は何やら不穏さを増してゆく。

「これは、何か……戦争の場面でしょうか」
「ええ」


 爆発は、重低音は、作り物のそれではないと。

 そして黒い飛び散る粒が人間の体の一部だと気付いた時、俺は思わず口を覆った。
「……」
「……これが、現在の戦況です。
 こちらの青い制服の人々は、私の属していた”宮殿”、赤い制服の人々は、”廃殿”を祀る”神殿”の人々です。廃殿、神殿は復讐の為、宮殿は再び彼らを支配下に置く為戦っています。これまでは周辺国家が戦を起こすべく攻めてきても、神殿は彼らを盾にしつつともに戦っておりましたが……
彼らは遂に、戦って自由を得るか、死ぬことを選んだのでしょうね」
「……」
「参りましたね」

 俺個人としては、そういうガッツがある人達は嫌いじゃあない。
 ただし、その集団があくまでも一枚岩なら、の話だ。
 付き合わされて赴く人だって居るだろう。


「……そうですね。正直、ここまで来て言葉の力で抑えられるとは思えません。一度休戦して会合を設けるのが定石でしょうね。交換条件となるものや、廃殿宮殿派の人々の一枚岩の態勢を一旦崩せれば……」
「一度休戦さえ出来ればよいので?」
「え、ああ……はい」

 しまった、割と適当を言ってしまった。正直抑止力がない二カ国の紛争の場合休戦なんて裏切り放題でもあるのに……

「……では、お願いしますよ、カルート」



「……え?」
「『絶対的な』『一時的な』他者、カルート。この戦争のある意味での引き金」
「ははっ、辛辣だねえ」
「辛辣にもなります。どうですか、この方は。貴方に肴とやらを提供できそうですか?……貴方の約束とやらを果たせそうですか?」
「……ふーむ。なんっか、平和ボケしてそうなツラだねえオッサン」
「貴方よりは遥かに年下だと思いますが」

 目の前で天上の会話が進んでいく。しかしそちらを見るにつけきつい戦のシーンが見えるものだから、無になるしかない。

「じゃあさじゃあさ、カメロパルドの肉、食べさせない?英気を高めるに丁度良いだろうし」
「カメロパルド…ですか」
「オーセイレーンの肉は無理だからさ。でもこれで十分だろ?」
「…………」

 なんか洗脳されるものとか入ってるんじゃないか。黄泉つへ食いのように、食べたら帰れなくなる罠じゃないのか。しかし、そう思いながらも、拒否する選択肢はないようで。

 暗い部屋、背後から唐突に声をかけられた。

「はい、お姫様から差し入れ」
「……あなたはどなたですか」
「んー、俺?カルート。敵陣のあんたらのラスボス手前の暗黒騎士ってとこかなっ」
 気が付いたら俺は箸を握らされていた。

「ああ、これ選別。貴方には公平で健全な判断をしてほしいので、精神汚染や身体汚染などの罠、毒を察知する力のある機器を贈呈しときますっと。ほーら、全然染まってないっしょ?」
「あっ、こらカルート、いつのまに……っ」
「今渡すも後で渡すも一緒じゃん」
「それでもあなたが渡すものではありません!」

 そいつは全体が青く、針だけ銀色の時計を差し出してきた。目盛りが妙に多く、13まである。……不吉だ。

「いいからいいから、説明説明」
「……全く!本当にこの下郎がご無礼を」
「ああ、いえいえ」

 まあこういう暴走する奴によって話が進むってこともあるしな。それが転がる方向がいいか悪いかは置いといて。

「……こほん。この銀の針に貴方の血を馴染ませました。貴方に身の危険が迫った時にはその色を変えます。危機を脱出するまで。赤が体の、黄色が心の、青が次元の危険度を表します。黒ずんでいるほどまずいと思って下さい」

 プロジェクトもいつの間にか普通の御簾に戻り、薄暗くなった部屋の中、その閉じられた丸いガラスの中だけが星のようにまたたいていた。

 俺の目の前には台盤と盆、そして黒塗りの金で流紋を描かれた椀が出現していた。
 その中の金色の……

「…あの……これ……動いているんですが……」
「大丈夫です。食べても問題ありません」

 いや、まずいフラグがびんびんなんだけど。
 金色の茶色いぶちのある塊が脈打ってるんだけど。
 食べたら内側から食い荒らされそうなんだけど。

「食べなきゃ、力貸してあげないよー?」
「くっ……」

 周囲を見渡すが、そいつの姿は見当たらない。声だけが薄暗い部屋に響いている。まるで座敷童の居る部屋に入ってしまったような気分だ。

「あ、ぐっ」

 ええい、ままよ。
 暴れるそいつをどうにか箸で捕まえ一気に口に放り込むが、噛む勇気が湧かない。だってなんか微妙に鳴いてるんだもの。ペキンダックかよ。

 すまない謎の生き物。

 案外そいつは柔らかかったので、餅の要領で飲み込む。これ絶対子供やお年寄りが喉詰まらせて裁判沙汰になるやつだ。ごくん、と喉を鳴らすと案外食道をそいつはちゅるんと通り抜けてくれた。その飲み込みの物理的なスムーズさに、むしろ気持ち悪くなる。その金色の何かは暫く胃の中で動いていたが、暫くして胃に体当たりを始めた。

「ぐっ!?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。それ認められたって証だから」
「……すみません、少し我慢してください。いずれ一体化しますから」
「一体化」
「一体化です」

 馬鹿みたいに言われた言葉を繰り返す。なんかもう色々キャパシティオーバーだ。家に帰りたい。沙樹と侑太に会いたい。

「一体化とは何でしょうか」
「貴方の体は、一時的に強化されました。それだけです」
「誤魔化すなんて症に合ってないよー?ロノスちゃん。ほらそこの…なんていったっけ?」
「……河東彼方と申します」

 正直こんな軽い、しかも得体のしれない奴に素性を明かしたくないが、しかし仕方がない。俺にとってロノスさんは社長、でこのカルートとかいう奴は取引先の社長ポジションってとこなんだろう。

「そうそう、彼方くん。君、ちょこっと化け物の仲間入りしたから。安心してお役目に励むよーに!」
「……はい?」
「んじゃ、俺ちょっくら休戦……はきついから停戦してもらって来るわー」

 嵐のように、悪魔のような取引先の社長は去っていった。


「…………申し訳ございません」
「いえ、大丈夫ですよ。元の世界に戻る時に戻していただければ」
「…………申し訳ございません」
「………ええと、すみません。それも難しいと」
「…………元の世界には、なんとしてでも、元の時間帯にお戻ししますので、なにとぞ」
「…………」

 ブラック企業の面接ぐらいの気持ちで挑んだら、アンケート商法と押し売りのタッグだった。
 なんだこれ。

 なんだこれ。


「…………あんたたち……宮殿って、いっっっっつもこういう強引な手段をとるのか……?」
「…取りたくて取っているわけではありません」
「そうやって、最初から仕方ないってハードル下げてるのが問題なんじゃねえのか……?」

 ああ、なんか、もう、いいや。

 そう思った途端、身体の奥で何かがどくんと脈打った気がした。

to be continued... ?





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最終更新日  2017.03.19 18:04:05
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