Laub🍃

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2012.10.01
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カテゴリ: .1次メモ
「気の良い奴らだ、仲良くしてやれ」


 いやいやいやいや、思いっきり空気ぴりぴりしてるんですけど。





 海賊船の上。やっべえ負け戦だと勘付いた俺は迷わず略奪品を身に纏った。お坊ちゃんの服、うまい。いかにも略奪船に無理矢理乗せられ身代金要求されてる途中のお坊ちゃんっぽい。ちょっと頬は痩せてるがまあ数日間ろくなもん食わせてもらってなかったってことにしとけば通るだろ。つーか元々そういうお坊ちゃんから毟り取った服だからあいつの振りしときゃいいだろ。ちょっと血に塗れているがそこんとこも切っとけば疑われにくいだろ。俺は迷わず自分の足を抉った。正直くっそ痛かったが背に腹は代えられない、痛みに命は代えられない。



 と思ってたが甘かった、この視線クッソ痛いわ。

 つうかやべーよ命の危機に晒されてる感ばりばりするわ。心臓がどきんこどきんこうるせえ。

 生まれて数年してすぐ海賊船に乗らされ降ろされ大きくなってからは「お前立派な海賊になるぞー★」って言われて調子に乗ってた俺の人生って何だったんだろう。
 普通の子供への羨ましさが今になってぶり返してくる。
 まあちょっと船に乗れるような理由があった普通の子供は俺らが食い物にしたからやっぱ羨ましくねえなーそれに陸でばっか生活してんのも飽きるしなーあーでもやっぱ視線クッソいてえなに?これ殺意?それともやっぱ疑われてる?あー親のコネ七光りまじファッキン。



「●●家の貴族に100ジガ」
「いやいや、あの宝石の豪華さ無駄さとか××家じゃね?200ジガ」


 あっれー無視ー?
 つーか俺賭け事の対象にされてる?

「あんな性格悪そうな顔が××家なわけねぇだろ、王の横で好き勝手やらかしてる▽▽家とみた。300ジガ」

 うるせえこの顔は生まれつきだ。つーかなんでどんどん金が釣り上がってんだよ。

「ひっでぇリシカ、ほらお坊ちゃんもショック受けた顔してるー」
「実際そう見えんだから仕方ねえだろ。でチム、お前はどこに賭ける?」


「俺?んーー……小さい男の子じゃないからどうでもいい」
「「「お前は本当ぶれないな」」」


 唯一なんかまともそうに見えなくも無かった奴がこれだよ。なんなんだよこの海賊船、俺の所も相当だったけど(皆もう逃げ出したか海の藻屑か奴隷にされてるけど)ここおかしいだろ。なんなんだよこのノリ。しかも微妙についてけねえよ。しかも何人かは賭け事に参加しねえのにこっちをすげえ目でじろじろ見てるし。畜生俺だって俺だって好きでこんな所来てるわけじゃねえよあーこんなことなら海飛び込んでおけばよかったサメに食われるリスク侵して泳いで帰ればよかった



 頭がどぎついピンクの長身の男が言う。怖い。とにかく謎の迫力がある。怖い。

「よし、捕虜。お前の所属する家はどこだ」

 やめろ。やめてくれ。賭け事に参加している面子がすごいぎらぎらした目で見てる。
 期待に沿わない事言ったら確実に××されるあれだ。やばいって。やばいって。誰か助けて。おねえちゃんたすけて。

「…………▽▽家です」


 絶対にそのうちぼろが出るけどどうにでもなれ。唸れ俺の演技力。

 乾いた引き攣り笑いを作りながらそう言うと、リシカと呼ばれた男が「っしゃあ!!!」と豊かな髪をばっさばさにしながら喜ぶ。…これで、いいんだよな?いいんだよな?ねえちゃん。


 数年前王侯貴族の娘を装って某国の王子の側室の座に滑り込んだ姉に問いかけるが、勿論返答が来るわけもなく。

「あっ泣いてる」
「お前が泣かすからだ」
「大丈夫大丈夫、うちは良心的だから身代金回収出来たらちゃんと帰すよー」
「見放されたら?」
「奴隷確定」

 やばい俺奴隷確定。
 俺は妙に既視感を覚える、けれど確実に異なるこの海賊船の上で呆然とたたずむのだった。





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最終更新日  2015.12.27 00:24:51
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