南人のページ

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2014.09.21
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「左右対称男」

  =これは、左右対称な漢字だけを使った物語である。
    いや、であるはずだったのである・・・=


 ミスター・バランスこと、目黒川高英は、曲がったことはしない、真面目人間である。
 デスクには、真ん中にパソコン、その両サイドには、文具やファイルが同じようにバランスよく並べられていた。
 ミスター・バランスが言うことは、全てバランスがいいのだった。
「父が昔の東商大卒だったこともあって、ぼくも国立大しか受けさせてもらえなかったんだ。大岡山の工業大を受けて、入ったら、公立の小・中のクラスメイト三人と再会を果たして、喜び合ったのを覚えているよ。」
「工業大を卒業してから、ここに入って周りと競い合っているうちに、いつの間にか、ITの営業で一番になっていた。そして営業マンを育てるために、この営業サポートセンターをぼくが開いたんだ。営業マンを育て、支え、自立させて、コンテストで全国一になって、栄えある一番高い賞品をゲットしてもらいたいものだ。」

「営業とは、本来、目を皿のようにして全国を周回し、ライバルの王国に突入するものだと見られているようだが、真実はそうではない。もっと工夫することによって、客が向こうから門を開いてくれるようになる。すると客のニーズが泉のように出て来るんだ。これができたら、栄光への兆しが見えて来たと自覚していいだろう。」
 ミスター・バランスは、やることも早かった。
「きょうはこれから、青森営業センターに出向くので、日中は宜しく。」
「二十二日は三重営業センター、二十三日は香川センター、山口センターと回って来るので、その間は宜しく。」
「全国営業コンテストをやります。営業マン同士で競い合って、各人が更なる高みに向かって、レベルアップしていきましょう。また、人より早くスタートするということも大事ですよ。」
 ミスター・バランスは、このようにビジネスマンとしてはトップレベルで、大変真面目だったが、一向にもてない輩なのであった。
 プライドが高く、また余りにバランスにこだわることから、バランスのよい美人スタッフたちからも、ことごとくふられてしまうのが常だったのである。
 青山英里香さん、高井三奈さん、小宮山夏美さん、宇田川由華さん、西東泉さん、黄川田美里さん、中西未来さん、南田春菜さん・・・などなど。

「いい人だとはわかってるんだけどね・・・」
 ミスター・バランスに関して、高畠真奈美にきかれて、山本朋美はつぶやくように言った。
「デート中だって、どうせバランスのいいメニューしかオーダーしないでしょうから、白米とかになりそう。」

「大丈夫よ、中華丼ぐらいならいけるわ。」
 これには、朋美がにっこりとして言った。
「真奈美なら、つき合っていけそうね。」
「あのねえ。」
「東日暮里から南青山に変わったんだってね。オシャレじゃない?」

 メーターまでバランスよく真ん中にある、いわゆる「センターメーター」タイプのミニ・クーパーという車に乗って、南青山のマンションからデートに出かけるチャンスは、全く来そうにないように見えた。

 ところが、ある日、変化は突然起きたのである。
 会社の帰りに、ミスター・バランスは、女性社員の一人である渡浜満海に、恥ずかしそうに声をかけた。
「満海さん、前から思っていたんですけど、ぼくとおつき合いしていただけませんでしょうか?」
「えっ?」
 渡浜満海は、耳を疑った。思わず立ち止まって、不思議そうに彼を見つめた。
「だって、私の名前はバランスがよくないですよ。そもそも、さんずいが付く漢字で左右対称はあり得ないって断言したのは、目黒川さんじゃないですか。・・・同期の深波沙江も、同じことを言われたって言ってましたよ。」
 ミスター・バランスは、満海の目をしばらく見つめていたが、何かを決心するかのように大きくうなずくと、話し始めた。
「いいんです。左右対称な漢字なんて関係ないんです。ぼ、ぼくは、ただ満海さんのことが好きなんです。」
 満海はおどろいていた。確かに彼から好意を持たれているのは薄々感じていたし、満海も、彼の几帳面で一途な性格を気に入ってはいたのだが。
 ただ・・・ただ、左右対称な漢字が一つもない私に、突然告白してくるなんて!
「あの・・・、き、急なお話ですので、お返事は今じゃなくても・・・」
「いえ、私でよければ、よろしくお願いします。」
 自分でもびっくりするほど、満海はすぐに答えていた。こんな大事なことを、いとも簡単に即答してしまうとは。
 今度は彼がびっくりして、何て言っていいかわからないという表情で、満海の端正な顔をまじまじと見つめていた。それから静かな口調で言った。
「よかった!・・・もう、左右対称な漢字なんて、どうでもいいんです。もっと大切なことがわかったんです。本当にありがとう。」
 満海は、駅へ向かう道を、彼と二人で歩き始めた。早足で駅へと急ぐ人たちが、次々と二人を追い越して行った。
 大きな交差点で、信号を待ちながら歩道に並んで立っていると、ミスター・バランスが再び口を開いた。
「満海さん、実は、満海さんの名前も、ぼくはすごく気に入っているんですよ。」
「あら、どうしてですか?」
 満海は、彼のほうを振り向いてたずねた。
「全部の漢字がきれいにさんずいでそろっているから?」
「そうではないんです・・・」
 少し間を置いてから、ミスター・バランスは言った。
「あなたの名前をローマ字で書くと、すべての字が左右対称なんです。すばらしいですよ、MAMI WATAHAMAさん!」






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Last updated  2014.10.04 10:42:26
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