おぢさんの覚え書き

おぢさんの覚え書き

2014.11.24
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カテゴリ: ネトウヨ批判

倉山氏は本書のあちこちで言葉を正確に使うべきだというような主張をされている。例えば「日本の歴史学者は国際法で定義された用語を無視…(中略)…粗雑極まりない言葉の使い方をするのです。」(p.82)、「侵略」とは、国際法用語です(p.155)、 「中国五千年」は嘘だとか、NationとEthnic(group)が云々(p.58参照) など。 にもかかわらず本書では以下の文が登場する。

秦は、二世皇帝の時代にはもう腐敗と動乱が始まり、 三世皇帝 の時代に始皇帝の死後三年で滅んだのは既述の通りです。 p.24

おそらく、始皇帝(初代皇帝)、胡亥(二世皇帝)の後を受けた 秦王 子嬰の事を言っている。他人に言葉の厳密な使用を求めながら自分の言葉には無頓着である。

倉山氏の 他人には過度な要求をする割には自分に甘い態度は次の箇所に良く現れている。

まじめに中国の政治史を書こうとしたら、モンゴル語や満州語ができなければ話になりません。しかし、日本で東洋史・中国史の権威とされる人のほとんどはモンゴル語や満州語ができません。  p.14

本書の他にも『嘘だらけの日韓近現代史』、『嘘だらけの日米近現代史』を書いている著者は、中国語、 モンゴル語、満州語はもちろん英語、ロシア語、 朝鮮語に極めて堪能なのだろうが残念ながら本書には引用・参考文献として モンゴル語、満州語 文献は挙げられていない。本書のどこかに モンゴル語、満州語 文献 を研究した痕跡があるのだろうか。さらに 倉山氏の漢文知識は疑問である 。 
それ以前に中国の政治史を書こうとしたら本当にモンゴル語、満州語ができなければ話にならないのだろうか、中国の周辺民族の言語を理解しないといけないということならば中国国内の方言、少数民族の言葉、日本語、朝鮮語、チベット語、ベトナム語、ロシア語、その他諸々の言語と文字(参考: 敦煌文書 西域文明的發現 )に堪能にならなければならないということになってしまう。それだけ言語ができるならば歴史家ではなく比較言語学の専門家にでもなった方が良いだろう。 
彼のいい加減な論はさらにつづく、

史実の三国時代は、人口の九割が減少、純粋な漢民族はこのときに消滅したといわれます。 p.41  

この時代中国の人口が激減したのは事実である。しかし、純粋な漢民族が絶滅したという根拠が示されていない上に、民族というものに純粋性を求めればその言葉自体が意味をなくすということを倉山氏は認識していない。
民族はふつう,言語,出自,文化,宗教,領土などの諸要素の1つ,あるいは複数が共有されていることをもって定義される。しかし,民族ごとに諸要素の共有の度合いはさまざまであり,結局のところは,すべての事例に適用可能な客観的基準は存在せず,「われわれは1つの民族である」という主観的な意識が,民族の成立する拠り所であるとされている。
文化人類学キーワード p.46
もし、民族というものにあまりに純粋性を求めれば、全ての民族が消滅せざるを得ない。例えばイギリスは一般にアングロサクソンの国といわれるが、もし純粋なアングロサクソン族を求めるならば既に絶滅している。なぜならば、イギリスにはもともとケルト系の人々が全土に住んでおり、その後ローマ人が南部に住み着きその後アングロサクソン族がイギリスに流入してきたからだ。先住民との混血はもちろん文化的にも大きな影響を受けている。日本人を含む世界中の民族が多かれ少なかれ似たようなものだ。
倉山氏は中国の歴史は以下のパターンの繰り返しであると述べている(p.15~16参照)。
1、新王朝、成立
2、功臣の粛清
3、対外侵略戦争
4、漢字の一斉改変と改竄歴史書の作成
5、閨閥、宦官、官僚など皇帝側近の跳梁
6、秘密結社の乱立と農民反乱の全国化
7、地方軍閥の中央進入
8、1へ戻る 
中国の歴史を理解するためのパターンだそうだが、 彼の掲げるこのパターンには逆行や順番とばしがあるそうである。そうすると 「宦官」など中国特有の要素はともかく 大筋 日本はもちろん世界中の歴史にこのパターンは当てはまってしまう。彼の言説には何の意味もない。
彼には「中国5千年」という言葉が気に入らなかった (p.43~54参照) らしいが、あまり意味はない。長かろうと短かろうとあまり有益な議論ではないが一生懸命に中国の歴史は短いと力説している。 そんなもので張り合いたいのならば、日本列島の縄文時代は1万年前くらいに遡ることを強調した方がまだましだ。建国云々などというくだらない事ではなく、そこでは人々の興味深い暮らしが営まれてきたということである。日本を知らない者はむやみに他国を貶めようとする。
本論の日中近現代史を検証しようかと最初は考えていたが、時間の無駄だ。何故なら、 この本には客観的データや参考文献が殆ど挙げられておらず、何の論証もできていないからだ。論証できていない物に対して反論する必要もない。
誤りと曲解に満ちた第一章を前提、根拠として以降の章の論は進められて行く。一章で中国を正しく理解できていない著者に我々は何も期待できない。
三回に亘って検証したが、根拠なく好き勝手に書いてしまっている本だということがよく分かった。もともと似たような意見を持った人しか共感できない本である。それにもかかわらずAmazonでは、読んでいる方が恥ずかしくなってしまうこのお粗末な本が絶賛(2014/12/14現在、5つ星のうち4.4)されている。 右傾化した日本 の将来は真っ暗と言わざるを得ない。





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Last updated  2014.12.14 21:52:24
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おぢさん@ Re[3]:無(03/15) なんだかねさんへ (続き)昔ある人がお…
おぢさん@ Re[3]:無(03/15) なんだかねさんへ お久しぶりです。永ら…
おぢさん@ Re[1]:土器-編年(02/14) 上毛野形名さんへ 長いこと返信もせず失…
なんだかね@ Re[2]:無(03/15) おぢさんさんへ 遅ればせながら「人新世の…
上毛野形名@ Re:土器-編年(02/14) はじめまして。 記事中の「土器の編年」…

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