りらっくママの日々

りらっくママの日々

2009年08月29日
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今日の日記



「ある女の話:アヤカ11」



新しいバンドに入ってからだ。

何だかウキウキしてて、
私が来てるのそっちのけで、作詞とか作曲とかしてた。

いつもだったら、できるとすぐに聴かせてくれてたのに、
バンドの集まりだか何だかで、
私に聴かせてくれたのは、ライブのちょっと前位だった。

でも、ツカちゃんが前みたいにギター弾いてくれて、
楽しそうにしてるのを見るのはとても嬉しかったし、
良かった…って思った。

そのライブには、エリは仕事で行かれなかったので、
大学の友達を誘って行くことにした。

ライブハウスに、マノくんがいたけど、
エリとのことがあったので、特に声はかけなかった。
向こうも誰か知らない女の子と来ていた。

次はあの女の子なんだ?

私は次々と変わるマノくんの彼女を冷めた目で見ていた。

ハルくんがヒガシくんと来ていて、声をかけてくれる。
私は友達を紹介した。
ハルくんはちょっと照れたように挨拶していた。

始まってビックリした。
ツカちゃんと女の子のツインボーカル。
するのは聞いていたけど、
女の子の声が、とても上手くツカちゃんの声と混ざり合って…

私の入れない世界を感じた。

才能?

共鳴?

何コレ?


嘘…


ツカちゃんは歌い終わると女の子と目くばせして、
私にはずっと見せていなかった笑顔を見せた。

もう私に見せてくれていない顔だった。

私は友達の手前、
彼スゴイね!って言われて笑顔を作ったけど、
すぐにトイレに逃げた。

惹かれあってる…?

そう感じた。
あの表情。
昔、私に見せてくれた、あの表情。

気のせいだよね?

そう思った。
思うことにした。

自分の気のせいだって。

トイレから戻ってくると、
ハルくんたちと友達が楽しそうに笑ってた。

「打ち上げ行く?
さっき、ツカこっちに声かけに来てたよ。」

ハルくんが笑顔で言った。

「え…、あ、うん。」

私は何もなかったフリをして笑う。


ツカちゃんは、メンバーと固まっていて、ボーカルの女の子が隣にいた。

「あ!アヤカ、どうだった?」

「うん。良かったよ。」

「あ、コイツ、メグって言うの。
面白いぜ~、コイツ!」

ボーカルの女の子は「ドモ」って言って、ペコリとお辞儀した。
舞台では堂々としていたのに、
ボソリボソリと面白いことを言うような、
ちょっと引いたとこのある女の子だった。

そこに、いつもは人前であまりしゃべらないツカちゃんが、
ツッコミを入れて喜んでいる。

馬が合うってこういうことを言うのかもしれない…
そう思った。

彼女は私の知らなかったツカちゃんの面を、
どんどん引き出していた。

でも、変に勘ぐりたく無くて、
私は何でもない顔をして、その場に付き合った。

でも、友達はハルくんとしゃべってるし、
ツカちゃんはバンドのメンバーとしゃべってるし、
私は笑って頷くだけ。
何だか居場所がなかった。

早く帰りたい。

そう思った。


「何だかメグちゃんといい感じだね~。」

私の友達はハルくんが送ってくれることになったので、
ツカちゃんと二人になった帰り道に、
自然と口から出てしまった。
何だか沈黙が重たくて。

「え?何?ヤキモチ焼いてんの?」

ツカちゃんが冗談みたいに言った。

「気に入ってるでしょ?」

私も冗談にしようと返した。
でも、顔は笑ってても、声が真剣だったのかもしれない。

「そういうこと言い出すなよ。やりにくくなるだろ。」

ツカちゃんはちょっとムッとした声を出した。

「何~?何でそんなに真剣に返すの?」

私が笑うと、ツカちゃんはため息をついた。

「俺、そういうの疲れる。」

「ただの冗談じゃない。」

「ふうん。」

やめてよ。
私のこと、ヤキモチ焼きな女って決め付けるの。
勝手にそう思って、
勝手に疲れないで。

心の中でそう言ってる。
でも言葉に出てこない。

言ってもこの空気が冷えていくだけだ。
それがわかってるから、
ますます言えない。

私じゃ、あの女の子みたいに、
ツカちゃんの笑顔を引き出すことが出来ない。

本当にそう思ったし、
それが真実なのに、
口に出すとヤキモチで束縛なの?

ツカちゃんもそう感じてるから、
本当のこと言われたくないだけじゃないの?

けど、それを口に出したら、
私たちは多分いっしょにいられなくなる。

わかってるから言葉にしたくなかった。


それからツカちゃんから連絡が来ることが無くて、
何も手につかなくなってしまった。
大好きな絵も、集中できなくて描けない。
何を描いていいのかわからない。

これ以上日を置いたら、
電話をかけにくくなりそうだったので、
私からしばらくぶりにかけてみた。

「何?」

ツカちゃんの声は冷たかった。

「別に用事は無いけど…。」

「ごめん、今日疲れてるから。」

「そうなの?じゃあいいや。ごめんね。」

「うん。」

電話を切る。

涙が出てきた。

別れるなら、ちゃんとフッて欲しい。
私からなんて言いたく無い。

ズルイよ。
ツカちゃん…
ズルイ。


そのまま放置されてるのがつらくて、
何度か私から連絡した。

でも、ツカちゃんは、
忙しいとか疲れてるって言って、
私となかなか会おうとしてくれなかった。

会っても、以前のような、
穏やかで楽しい空気が、
どんどん無くなっていく気がした。


「今から家に行ってもいい?」

「いいけど…。
俺すぐにでかけるよ。」

「うん、わかった…。
すぐに行く。」

私は決心してた。
今日もこのままなら、
それなら…

夜の道を車走らせて、
ツカちゃんの家に着くと、
ツカちゃんが家から出てきた。

いつも行く、近くの公園まで行く。
ツカちゃんはタバコを吸い始めた。
そして時計をチラチラと見る。

「何?バイト?」

「いや、違うけど、ちょっと約束があるんだ…。」

何だか悲しくなってきた。
もう、ツカちゃんの目が私を見ることは無いような気がした。
泣くつもりは無かったのに、涙が出てくる。

「何だよ?
何で泣くワケ?」

「ううん。別に…。」

ツカちゃんがため息をつく。

「オマエ、何だか重たい。」

「うん…。ゴメン。」

私は泣きやもうと思って、ハンカチで涙を拭う。
こんな空気はゴメンだって感じで、
タバコを足で揉み消して、
ツカちゃんが言った。

「俺、もう行くわ。」

「ねえ…」

「何?」

「もういいよ。ハッキリさせて。」

ツカちゃんが黙った。

「別れたいなら、そうしよう。
もうこんなの嫌だ…。」

私の顔をようやくツカちゃんがジッとみてくれたような気がする。
何でこんな時だけ見るのだろう。

私もツカちゃんの目を見た。
ああ、もうツカちゃんも決めてたんだな…。
そう思った。
言い出せなかっただけで。

もうダメなんだな。私じゃ。
そう認めるのが嫌だった。
お互い連絡しないことで、
逃げてた。

「うん…。」

ツカちゃんの言葉が聞こえると、
心臓がつかまれたように痛かった。

「夢、かなえてね…。」

ツカちゃんはうつむいて、返事をしなかった。

でも、終わる空気を感じた。
いろんなことが、ただの思い出になってしまっていて、
いつから、それにしがみつくようになっていたんだろう。

「アヤカ…」

私が振り返ると、ツカちゃんが私をジッと見ていた。

「ゴメンな」

私は車に向かって歩いた。
涙がボロボロ溢れ出てきて止まらない。

車に乗る。
運転が出来そうもない。
でも帰らなきゃ。

涙がジャマして、上手く運転できない。
早く家に帰りたいのに。

アヤカが好き
アヤカが好き

思い出すのはツカちゃんの優しい頃の言葉ばかりなのに、
別れた時の淋しそうな目が、
もう終わった死骸を見るような目が、
目に焼きついて離れない。

もう少しで信号無視をしそうになって、
人にぶつかりそうになって急ブレーキをかけた。
息があがる。

私は運転してるのが怖くなって、
人気が無い道の路肩まで行って、車を止めた。

心のどこかで、
もう一度やり直せるんじゃないか…って思ってた。
泣けばわかってくれるんじゃないか…って、思ってた。
私がどんなに悲しかったか。

でも、
そんなことやっぱりなかったな…って。
妙に納得もしていた。

心臓がずっと音を立てていて、
泣きすぎて頭が痛い。
耳も鼻も痛い。

誰か助けて。
誰か助けて。

そう思うのに、
誰とも会いたく無い。

独りでいたくないのに、
独りでいたい。

車の中で思いきり叫んで泣いた。

今が夜で良かった。
誰もいない道で良かった。

全部涙を出しきったと思った。
もう、覚悟して行ったんだもの。
これできっと良かったんだ。

涙を拭いて、
私は車の中で、自分の好きな曲をかけて、
大きな声で無理やり歌った。

家に向かって。
ツカちゃんのこと忘れるように、
忘れる気持ちの分だけ大きな声で。

元気出すんだ!
きっと最悪な今日より、明日の方が絶対いいはず。

それでもやっぱり涙が出た。
今日が夢ならいいのに…って思った。


ツカちゃんからの連絡は、
それからもう来ることは無かった。









続きはまた明日

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最終更新日  2009年08月29日 17時46分27秒
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