りらっくママの日々

りらっくママの日々

2009年09月19日
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今日の日記




「ある女の話:アヤカ32」



入力作業もほぼ終わりだしていて、
定時までの仕事は私だけだった。

「あれ?今日はタカダさんだけ?」

ウエノさんが入力した書類を取りに来て言う。

「あ、はい。
今日は、お子さんがいる方しか来てなかったんで、
皆さん早上がりだったんですよ。
それ以外は風邪で全滅です。」

「ああ、そっか。なるほどね。
タカダさんは風邪ひいてないの?」

珍しくウエノさんから軽口をきいてきた。
仕事以外の話をウエノさんから聞いたことが無い。

「う~ん、わかりません。
これからかもしれないですね。」

「学級閉鎖が会社にもあればいいんだけどね。
あ、でもそれだと派遣さんは時給だから困るのか。」

「そうですね。
そうなります。」

会話が続かず、沈黙が重苦しい。
私も社員さん、
まして上司に当たる人に何か話せることなんか浮かばなかった。
ウエノさんってこともあるかもしれない。

私は入力の続きをすることにした。
ウエノさんはその場で入力した資料に目を通していた。

「あ!また抜けてるよ…
ったく、だから責任感無いと困るんだよなぁ~。」

私はウエノさんの独り言のクレームについ目を上げてウエノさんの方を見る。

「あ、ゴメンね、うるさくて。
いや、でも正直困るんですよ、
コレが間違ってると、入力の量が多いでしょ?
派遣さん一人一人がチェックも兼ねてくれないと、
こっちで全部チェックしなおして、
やり直しなんてことだと派遣さんを雇ってる意味が無くてね。」

社員がチェックすればいいんじゃないの?
なんて内心思ったけど、
確かにすごい量だし、
派遣は責任なんて無いから、
言われたことしかやるつもりなんて無いのが現状だ。

余計なことしたって、
こないだ派遣の子が社員に叱られてたのをみんな知っている。
オマケに社員の指示ミスだったのに、その子のせいになってた。
だからこっちこそヒヤヒヤで仕事してるのに…。

「タカダさん、今日残業できますか?2時間くらい。
できれば、ここまでやっておきたいんだけど。」

「あ、はい。
別にいいですよ。
じゃあ、ちょっと家に連絡だけ入れておいていいですか?」

「もちろんです。
あ!会社の電話使っていいよ。」

私は会社の電話からヒロトの携帯に電話を入れた。
でも留守電だった。
伝言を残す。

「タカダさんって、家だと優しい声出すんだね。」

切った途端にウエノさんが言った。
私は何だか恥ずかしくなった。

「何だか普段優しくない声みたいじゃないですか?」

「うん、その通りなんだけど。
結婚してるんだよね?
どれくらい?」

薬指を指して言う。

「半年です。」

「なるほどね。新婚ほやほやってやつかぁ。」

ウエノさんは軽く笑った。
この人でもこんな話するんだ?
って、ちょっと思った。

「じゃあ、申し訳ないけど、お願いします。
え~っと、休み挟んでいいからね。」

そう言うと、自分のデスクに戻っていった。
パーテーションを挟んで、社員さんたちが次々に帰っていく雰囲気がわかった。
何で社員がやらないんだろ?
私は不思議に思いながらも、入力を続ける。

そのうち、部署にはウエノさんと私しか残っていなかった。
隣の部署にポツンポツンと残ってる人が見えた。

「終わりましたよ。」

私は書類を持って行く。
その都度チェックを入れられて直す。

こんな細かいとこ、どーだっていいんじゃ?
って私は思う。
でも、ウエノさんにとっては重要らしい。

「うん、これでいいです。
どうもありがとう。
お疲れ様でした。」

ウエノさんはそう言って、書類を眺めていた。

「お先に失礼します。」

他部署の残っていた人たちが、お疲れ様でーす。
って、ちらほら言ってくれた。

私は派遣カードに残業の承認印を押してもらって、
タイムカードを押して、
ロッカールームで上着を着て、化粧直しをして外に出る。

あ~あ、真っ暗じゃん。
寒いし。
門を出てヒロトに電話をもう一度かけた。

「あ、ヒロト?
ごめんね、今帰りなの。」

「あ、やっぱり?
結構遅かったんだね。
俺さ、まだ仕事で。
帰り先輩と食べることになりそうだから、またご飯食べててくれる?
ごめんね。」

「そっか~。いいよ。
じゃあ、簡単で済んでラッキー!」

「あはは、ラッキーなの?」

「だって、今日疲れちゃったのよ~。
作る元気無い~。」

「そうだよね。
もし遅かったら、先に寝てていいからね。」

「うん。ありがとう~。
淋しかったら起こしていいからね~。」

バイバイって電話を切った。
後ろからクラクションが鳴って、
振り返ると近づいた車が横で止まった。

「タカダさん、良かったら、乗っていきますか?」

ウエノさんだった。

「え?そんな、いいですよ。」

「いや、僕が残業頼んじゃったんだし、
申し訳ないんで、乗ってって下さいよ。」

一瞬迷ったけど、
ウエノさんは、当然乗るって感じで待っていたし、
こんな道路でやり取りしてるのも何だし、
疲れてたからありがたいことも確かだった。

「じゃあ…、すみません。」

私が車に乗る。
でも、乗ってすぐに後悔した。
何話していいんだかわからない。

そう思っていたら、ウエノさんから話しかけてきてくれたのでホッとする。
ウエノさんは私の家の方がちょうど帰り道の方向だと言った。
今日は外回りがあったから車らしい。

「タカダさん、夕飯は?
これから作るの?」

「あ、今日は夫も残業で、いらないって言うから簡単でいいんです。」

「そうなんだ?
じゃあ、どっかで食べて行きますか?
洋食系でいい?
御馳走しますよ。」

御馳走…。
家で残りものか、簡単な物を作るかカップラーメンにするか弁当にするか、
そう思っていたので心の天秤が揺れる。

「え、でも悪いですよ。
家で夕食作ってあるんじゃないですか?」

「いや、うちはもう作ってもらってないから。
前はレンジで温める程度の物が作ってあったけど、
今は僕が食べてくるんだか来ないんだかわからないことが多くて。
子供は塾だし、カミさんも働いてるし、自分は自分でって感じだよ。」

そう聞いたら、何だか断りにくくなった。

「じゃあ、いつも一人で食べてるんですか?」

「んー、まあ、誰かと食べてきちゃうか、弁当買って帰る時もあるし、
お茶漬け食べたりとか。
その時のオナカの具合でね。」

ああ、なるほどね、
その誰かが今日はたまたま私だってことのようだ。
孤独なお父さんの夕飯に付き合うんでもいいかな。

「それじゃあ、お言葉に甘えますけど、いいんですか?」

「いいですよ。
じゃあ、この辺でいいかな。」

ウエノさんは慣れた帰り道なのか、
ちょっと大人な感じのするレストランの駐車場に車を止めた。






続きはまた明日

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最終更新日  2009年09月19日 19時20分30秒
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