ねねみにみず

ねねみにみず

『家守綺譚』 梨木香歩



今回は、作品全体の完成度もすばらしく高いと感じる上に、決め台詞も私の人生を預けたくなるほどしびれるものだった。主人公は、私が目指して進んでいるまっすぐな道の、ずっと先を歩いているのだ。

植物の名前を冠した短い章が、美しく連なって出来ている。最初の方は「この章が一番すき」とか思いながら読むのだけど、そのうち一番を選ぶことをあきらめてしまう。主人公は珍しく男性で、綿貫征四郎という。甲斐性のない文士である。庭のサルスベリの木に懸想されたりする、変わり者。

変わり者ではあるが、非常に私の好みだと思う。たとえば秋の始めに「季節の営みの、まことに律儀なことは、時にこの世で唯一信頼に足るもののように思える」などというところ。移ろう季節に不変をみるなんて、ステキだ。それに、サルスベリが自分のために骨折ってくれたことに気がついたのに、しらんぷりしているところなんかも。

核心はネタバレになってしまうので伏せるけれど、それは小学生の頃から私が考えていたことで、結構真面目な話をするときにはいつもキーワードとして登場する言葉だった。書き留めなくてもいつまでも覚えていられると思う。

もうひとつ印象的なのは「カラスウリ」の章かな。「なに、かまわんさ」という、主人公の一言に、心打たれた。


文章も素晴らしい。全部音読したくなる。こんなことは中勘助の「銀の匙」以来だと思う。あの頃は、それを聞いてくれる友人がいた。まことに恵まれていたなあ。いや、別に一人で読んでも構わないんだけれども。

こういう出会いがあると、読書を趣味にしていて本当によかったと思う。幸福感で、いっぱいになる。なにしろ、この作家には私のチャンネルがぴったり合ってしまうのだ。今まで、結婚して出産して育児をしてという自分の境遇が、家族を題材にすることが多いこの作家に私を寄り添わせるのだろうと思っていたが、今回、そうではないということがよくわかった。


2006年11月12日


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