会長の独り言

会長の独り言

壁の落書き




くたくたママが店から戻り
買い物袋をかかえてキッチンへ入った


待っていたのは八歳の息子
弟がやったいたずらを、しゃべりたくてウズウズしてた


「ぼくは外で遊んでて、パパは電話中だったんだ
 そしたら、あいつ(=弟)がクレヨンで壁に落書きしちゃった
 ママが書斎に張ったばかりの新しい壁紙にだよ
 そんなことしたらママが怒るぞって言っといたよ」



ママはうめきをもらして眉を寄せた

「あの子、いまどこ?」

ママは荷物を下ろして決然とした足取りで
末っ子が隠れたクローゼットを目指して歩いて行った



部屋に入ったママは、名字をつけて名前を呼んだ
その意味がわかった末っ子は、恐ろしさに震えあがった


それからの10分間、ママはわめき、怒鳴りちらした


「あの壁紙は高かったのよ、
 せっかくお金を貯めて買ったのに
 元通りにするのはたいへんなんだから
 なんてことしてくれたの、いたずらにもほどがあるわ」



叱れば叱るほど、腹の虫がおさまらない
ママは、すっかり取り乱し、部屋から大またで出て行った



惨状を確かめようと、おそるおそる書斎に向かったママ



壁を見たとたん、目に涙があふれた

読んだメッセージがダーツのように心を貫いた




  ハートで囲まれた 『ママ、大好き』





その壁紙は今も、ママが見たときのまま残っている
まわりに枠だけの額縁が吊るされて
ママにとっての、みんなにとっての思い出の品
ときどき足を止めて眺める、壁の落書き



(「だれもが奇跡にめぐり逢う」
   マーク・V・ハンセン他編著、ダイヤモンド社 より)


次は、父は忘れる



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