お前の鼻は豚の鼻
息子が物心ついた頃であろうか。
彼に向かって 「お前の鼻は豚の鼻!」
と機会を捕らえては言ったのである。
これの詳細は 「勇気をあげる」
に掲載してあります。
何と非情な父親であろうか。
言っている自分でも口惜しくて涙が出た。
しかし、私にはそうせざるを得ない理由があった。
いずれ小学校に通うようになれば、私が言わなくてもクラスの誰かが必ず言うという事を知っていたのである。
ショックを受けないように、免疫を付けたのである。
私は自らの火傷の体験を通して、その事を熟知していた。
案の定である。
入学したその日に私が発した言葉を浴びせられたのである。
しかし、彼は泣かなかった。
その事を何回も何回も話しておいたからだ。
「『お前の鼻は豚の鼻』と、友達からからかわれるよ」
・・・と。
「人の弱点をからかうヤツは心の貧しい人だ。」
「その人のために何が出来るかを考える人の方が偉い人なんだよ。」
私はこれが口癖だった。
そしてまた、私の人生指針でもある。
子供はある意味で残酷である。
その言葉が、相手をどれだけ傷つけるかなどとは考えもしない。
それに備え、いち早く防護線を張ったのである。
辛かった。
親として情けない程辛かった。
しかし私は心を鬼にした。
傷ついて泣き叫ぶ子をなだめるよりも、どんな苦難にも負けない強い子に成長してもらいたかったのだ。
私は正しかったと自負している。
彼は小・中学校の9年間、どんなにイジメられても、例え風邪を引いて熱があっても、学校を1日も休んだことがない。
風邪を引いた時も、病院に行く為に遅刻や早退する事はあっても必ず登校した。
手元に9枚の 〔皆勤賞〕
の賞状がある。
学校は1学年ごとに授与している。
これは、彼にとっては勿論、私にとっても最大の誇りである。
小学校1年の入学式の時である。
「○○君、もし、6年間1日も休まずに学校に行けたら、お父さんが ディズニーランド
に連れて行ってあげるよ。」
と私。
「ホント? 頑張ってみる!」
と息子。
≪1日も休まない≫
という事は、例えイジメにあっても、それを克服して頑張れという意味である。
僅か6~7歳の子である。
残酷すぎると思った。
耐え切れずに挫折しそうな時は、思い切り抱きしめてあげようと思っていた。
しかし、彼は一切泣き言も言わず、6年間の皆勤を果たしたのである。
「次の3年間(中学)も頑張ってみるよ。」とは、小学校卒業式の彼の言葉である。
勿論、その約束も見事に果たしている。
後に、彼の同級生から聞いた話だが・・・。
イジメられて職員室に飛び込む彼の姿を、何度となく目撃していると・・・。
それでも彼は休まなかった。
そして、一言の泣き言も私には言わなかった。
彼は述懐している。
「授業中が一番安全なんだ。問題は休み時間だった。」
・・・と。
さすがに親として涙が頬を伝った。
違う意味で彼を抱きしめたかった。
私がイジメを乗り越えたように、彼はすでに乗り越えている。
だから現在、高校生活の中でイジメはない。
私は彼に教えられた。
約束を守ることの大切さを・・・。
「ディズニーランドに行くかい?」
「もう、学校の旅行で行って来たからいいよ」
図らずも、私の約束を イジメの現場
となった学校が果たしてくれた・・・。