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第1章 モロク
砂嵐が吹きすさぶ。
そんな中、僕は無我夢中で走っていたため、どこをどうやって通ったか一切憶えていなかった。
ただ、彼に置いてかれないようについていっただけだった。
決して姿を見失わないように――。
彼は、急ぎながらも僕の進軍に合わせてくれているようだった。
追いかけながらも、僕の頭の中にはいろいろな記憶が交差する。
倒れたカヤ様、僕と同じの名前のユキ君。
彼はお爺さんの敵をとるために暗殺者になるという。
そんな彼は今、怪我をしたロウを背負って砂嵐の中を歩いている。
果たして、人の命を大切にしてくれている彼が、人の命を奪えるのだろうか。
その時傷つくのは、誰でもない、彼自身ではないだろうか。
「――ついたぞ」
風の轟音の中、かすかに聞こえた彼の言葉に、僕は手で砂を防ぎながら細目で遠くを見る。
薄暗い中、砂の切れ間に頑丈そうな城壁が見えた。
モロクだ。
大きな城門は閉じられていて、砂から町を守っていた。
「モロク……」
僕は思わずつぶやいた。
布が邪魔をして声は漏れなかった。
懐かしさのあまり、涙が零れてきた。
ここを旅立ったのは昨日だというのに、もう遥か昔の出来事のようだった。
「感傷に浸る暇なんてないぞ」
門の側に立っていた彼に怒鳴られ、僕も慌てて側に寄る。
彼は大きな瓦礫の影に、隠すようにロウを座らせた。風向きのせいか、砂から身を守れる場所だった。
「もうじき夜が明ける。門が開くまで、この陰でじっとしているんだ。門が開いたら、迷わず飛込め」
彼はもう一度念を押した。
「いいな、門が開くまでは息も殺しておくんだ」
僕は頷いた。
「じゃあな、縁があったら……」
そういうと彼は、砂嵐の中を飛び出していった。
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