2006.05.07
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国道16号に差し掛かった時にいちいちざわつく感情が嫌だ。邪魔だ。だから16号を走るのは好きじゃない。高架をくぐって見えてくる景色のコンビニだとかガソリンスタンドだとかゲームセンターだとか。

でも、これが無くなるのも嫌だ。





僕が彼女に逢いに行くには、この大きな国道を走る他に行き方を知らなかった。バイクでぶっ飛ばして逢いに行く。僕が逢いたいって思うのはいつも突然で、「いま近くにいる」って電話をすると「そっか。じゃあ仕方ないね」って顔は見えないけれど、きっと苦笑している彼女の声が聞こえる。

それは今考えたら本当にはた迷惑なことだった。僕は彼女の都合なんかお構いなしにバイクを走らせた。休みの日の夕方だとか時には夜遅くだったりもした。お土産に彼女の好きな生クリームの乗ったプリンをコンビニで買って、それを彼女の淹れてくれた紅茶を飲みながらいつも食べていた。

僕は彼女の部屋で彼女に触れることはなかった。どういった感情をそのとき持っていたのか。実はそれをハッキリと思い出すことが出来ないでいる。憧れなのか恋心なのか分からなかった。ただ僕には彼女といる時間がとても必要だったことはハッキリしてる。彼女の感情がどうだったのか、それを確かめる術はもう無い。ただ、僕と一緒にいるときの彼女の顔は笑顔でしかなかった。


「これで最後、にしよ」


電話をかけて初めて彼女が少し渋った日。紅茶を飲んでプリンを食べて僕が言う下らない冗談に一通り笑って、それから彼女の部屋を出ようとした僕に彼女が言った。その言葉を聞いて何の疑問も持たなかった。僕はそれでもいつものくせで「またね」と言った。彼女も「またね」と言った。


彼女には大切な人が居て、僕にはそういう人が居なかった。僕が大切だったのは彼女と居る時間でそれがとても必要だったことはハッキリしてた。それでも僕は頷いて部屋を後にした。僕は大人なんだからと自分に言い聞かせて笑って部屋を後にするんだとずっと決めていたから。


バイクを走らせる16号線は雨で濡れて、僕もバイクもずぶ濡れになった。涙が出たのかどうかなんて分からないくらいにずぶ濡れだった。かけていたサングラスにもいくつも雫がついて信号機の青だとかコンビニの看板だとかが滲んだ。



国道16号に差し掛かった時にいちいちざわつく感情が嫌だ。邪魔だ。だから16号を走るのは好きじゃない。高架をくぐって見えてくる景色のコンビニだとかガソリンスタンドだとかゲームセンターだとか。

でも、これが無くなるのも嫌だ。

自分勝手な感情だって分かってて、それでも僕は夜明け前の16号線を走って海に向かった。





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Last updated  2006.05.07 08:07:56


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