ね、君が行きたいところへ行こうよ

ね、君が行きたいところへ行こうよ

森のライオン




少し悲しそうな目をしたライオンを、森は優しく抱きしめてくれました。

何故ジャングルを出たのか、何故この森に来たのか、誰も何も聞きませんでした。

森の仲間になることに、そんなことは関係ないから。



ライオンはみんなに優しく、困っている誰かを見つけたらいつだって一番乗りで駆けつけました。

みんなはライオンが大好きになり、ライオンもみんなが大好きでした。







星が数えきれないほど光り輝く夜。

ライオンは、シロツメ草の咲き乱れる丘に座り空を眺めていました。



「こんばんは。」

振り向くと、真っ白なうさぎが ちょこんと座っていました。



「こんばんは。キレイな夜空だね。キミも散歩?」



「月を見に来たの。私 ルルって言うの。ライオンさんは?」



「僕は・・・・・え~っと・・・・名前なんて しばらく呼ばれないと忘れちゃうものだな・・・・・う~ん困った。」



「じゃ、私がつけてあげる!」






ルルは笑って言いました。  


ライオンはその日から「ラオ」と呼ばれるようになりました。

名前がついて、ラオはますます森の仲間達に愛されました。


名前って、不思議な魔法がつかえるのです。

呼び合うたびに、心と心が握手するのです。



とりわけルルとは、いろんな話しをしました。


二人ともシロツメ草の丘が大好きだったから。



ルルは月を見に。ラオは星を見に。







その日は雲一つない、月も星もいつも以上にキレイな夜でした。



「もし時間を一度だけ戻せるなら・・・・・」


ラオがふいに言いました。


「ラオは戻りたいの?」



「ホントは時間だけ戻っても、あの頃の自分じゃどうにも出来なかったし、何も変わらないだろうけどね。」






ラオは空を見上げました。






「ジャングルにいた頃、僕は何もわかってなかった。

走ることも力比べでも 負けたことがなかったんだ。


何もわかってないってことは今思えば悲しい事だけど、あの頃は楽しかったよ。




何しろ怖いものは何もなかったんだからね。





でもあの日、全てが変わった。              


ふざけてケンカした友達の右前足が動かなくなったんだ。」






ラオは空を見上げ少し黙り、また続けました。



「僕を責める仲間と、僕をかばう仲間がケンカを始めた・・・・・。


仲間達は みんな傷ついた。僕は何も出来なかった。

もちろん何度も謝りに行った。


時とともに怪我も治った。

でもいつの間にか それは僕と彼だけの問題じゃなくなっていた・・・・・」





「ラオ・・・・・」




ラオの瞳から涙がこぼれ落ちました。



「・・・・・・・みんなが仲良くなれればいいね。」





「うん。ずっと星にお願いしているんだ。



僕はいいライオンになるから・・・・・・


優しいライオンになるから・・・・・・




みんなが幸せになるように・・・・・」


ルルの瞳からも涙がこぼれ落ちました。



この優しいライオンが、


こんなに大きくて強いライオンが、



こんなにも心を痛めて そして何よりも仲間達の幸せを祈っている。



自分を責めながらも、どうすることも出来ずに苦しんでいる。





ルルは星に祈りました。


ラオのために出来ることといえば、今はそれしかありませんでした。






ふと、誰かの声が聞こえました。


二人が振り返ると、そこにはライオンがいました。




ラオはハッと驚きました。

それは、あの日怪我をした彼でした。





「ずいぶん捜したよ。」


「えっ?」



「キミがいなくなって、僕らは気が付いた。




あの頃・・・・・いつの間にか みんな怒りっぽくなっていた。



なんとなくためこんでいた気持ちを 僕の怪我をきっかけにみんながそれぞれ爆発させたんだ。





キミのせいじゃないよ。


みんなわかっていたけど、


何かのせいにしなきゃやりきれなかった。




今はみんな反省している。


キミに会いたがっている。




だから僕が捜しにきたんだ。


一番キミに会いたい僕が。





一緒に帰ってくれるかい?

キミの事が大好きなジャングルと、僕らのもとへ。」




その夜、ラオは帰りました。


ルルは二人を見送りました。



満月がとてもキレイな夜。



でも、今夜願いを叶えてくれたのは ラオの好きな星たちのように思いました。



「ラオ、夢が叶って良かったね。」



ルルは空を見上げました。



星も月もホントにキレイな夜でした。


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: