羊御殿 第一回 山羊執事の巻き

羊御殿~そのいち~

羊御殿の若君さまはきょうも退屈。

だって生まれてから一度も羊御殿を出たことがないのです。

羊御殿は大きなお城。誰もどのくらい広いのかしりません。

「ねぇ、退屈だよ~。誰かいないの~?」と羊君。

すると、するするっとフスマが開いて山羊の執事があらわれました。

執事なのになぜだか山羊です。

「若君さま、退屈するひまがあればお勉強なさってください。あなたさまはこの羊御殿のただお一人の後継ぎ様。勉強なさることは山ほどありますよ。」と山羊執事。

「もう、あきあきだよ。それより僕は外に出てみたいよ。」と羊君。

「なにをおっしゃいますか!外など危険きわまりないところ!そんなところに大事な羊君を出させるわけにはいきません!」と山羊執事。

「山羊執事は外をみたことあるの?」と羊君。

「もちろん!・・・ありません。この羊御殿で、外を見たことがある者など、聞いたことがありません。それほど羊御殿は広大無辺。
誰も、どれほどの広さかわからないのです。」と山羊執事。

「それなのに、何故、外が危険な所なんてわかるの?」と羊君。

「見たことも聞いたこともない事は、危険なものと決まっているではありませんか。」と山羊執事。

「見たことも聞いたこともない事は危険なの?誰がそう決めたの?」と羊君。

「それは、みんなが決めたのです。誰が決めたわけでもごぜいません。昔からそのように決まっているのです」と山羊執事。

「それじゃ、本当は危険なんてないところかもしれないよね。すごくおもしろかったり素敵だったりするかもしれないよ。」と羊君。

「だめです!だめです!そんなことを、お考えになっては。それはみんなの考えにそむく考えです。後継ぎ様の若君さまがそんなことをお考えになられては民衆が惑い苦しみます。あなた様は羊御殿の若君さまなのですから。」と山羊執事。

それを聞いて羊君は、シュンとしてしまいました。その様子をみて山羊執事は納得した様子です。

「くれぐれも外のことなど考えずに、お勉強なさいませ。羊君が勉強される事は山ほどあるのですから。」と言って山羊執事はすすっと立ち去りました。

でも、その話を聞いても羊君の中に外に行きたいという気持ちがふくらんでいます。お勉強するこよりもずっとずっ~と強い気持ちです。

ぷくぷくぷく。


つづく~~




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