ひつじごてん~第2回~玉猫の巻き~

羊御殿~第2回~

~玉猫の巻き~


羊御殿の羊君は今日も退屈。

だって生まれてから一度も羊御殿の外を見たことがありません。

「退屈だよ~。」と羊君。

するとするするっと山羊執事がやってきました。

「退屈している暇はありません。若君さまは玉蹴りの時間です。」と山羊執事。

「玉蹴りはやだな~。苦手だよ~。」と羊君。

「羊御殿の若君殿が、玉蹴りもできないでは、下の者たちに
しめしがつきません!すぐにご用意なさいませ!」と山羊執事。

いやだな~と思いながら羊君は玉蹴り場に向かいました。

玉蹴り場には、玉蹴りの犬先生と玉猫がいます。

「やっと来ましたね若君さま。早速、玉蹴りの練習をしますよ。いつものように、玉猫を100回、なるべく高く蹴り上げ、落ちてきたところをまた蹴り上げてください。落としてはだめですよ。」と犬先生。

「落としたらだめだよ。」と玉猫。

羊君は犬先生から、玉猫を受け取りました。ふわふわとした毛に全身おおわれているまんまる猫です。

「さあ、はじめてください若君さま。」と犬先生は言います。

「さあ、はじめてください。」と玉猫は言います。

羊君は、いやだなーと思いながら玉猫を蹴りました。

「にやぁーーー。」と玉猫が声をあげます。

「なかなかいい声が出ていますよ、若君さま。もっと高く上げれば、もっと高い声を出せます。高い声を出せれば出せるほど、玉猫蹴り会で、良い成績がだせますよ。」と犬先生が言いました。

羊君はなるべくそうっと、それでいて力強く玉猫を蹴ります。

「にぃゅやぅあぁあああーーー!」と玉猫が声をあげます。

「その調子ですよ。その声が35回は出したいですね。そうすれば、優勝することもできますよ。」と犬先生が言います。

羊君は何度も玉猫を蹴ります。玉猫も何度も声をあげます。

歌っているような玉猫の声。

羊君の軽快に蹴る音。

ふたつが重なって、不思議な音楽のように響くのです。

「そうです。そのリズムを忘れずに続けてください。わたしはちょっと用事があるので、そのまま蹴りつづけてくださいね。すぐに帰ってくるからそのまま練習するのですよ。」と犬先生は言って練習場から出ていきました。

犬先生が出ていったのを見て、羊君は玉猫を受けとめました。

「どうしたの?蹴らないの?あとで怒られるよ。」と玉猫が言います。

「蹴られるのは嫌じゃないの?」と羊君が尋ねます。

「蹴られるために生まれてきたんだから、蹴られるのは嫌じゃないよ。ちょっと痛いけど。僕のお父さんもお母さんもお兄ちゃんもみんな蹴られてるんだよ。僕だけ蹴られないわけにはいかないよ。」と玉猫が言います。

「ねえ、蹴られない方がいいと思わない?蹴られずに生きたいと思わない?」と羊君が言います。

「むりだよ。若君さま。僕も、僕のまわりも、みんな蹴られながら生きてるんだよ。蹴られずに生きる人生なんて考えられないよ。だって、僕は玉猫だよ。玉猫以外の人生なんて考えられないよ。」と玉猫は言います。

「ねえ、僕といっしょに外に行かない?羊御殿の外だよ!そうすれば蹴られずに生きることもできるんじゃないかな?きっといろんなことができるんだ。」と羊君が言います。

しばらく玉猫は考えこんでいる様子です。

そして、ふっと顔を上げて羊君を見て言いました。「若君さま。たとえ、羊御殿の外に出ても僕は玉猫なんだ。やっぱり玉猫なんだよ。」

羊君はなんにも言えなくなりました。

そして玉猫をそっとなでました。

素敵なビロードのような感触でした。

しばらくそのまま玉猫は撫でられていました。

「さあ、もういいよ若君さま。そろそろ蹴ってくれないと僕が犬先生から怒られちゃうよ。それに蹴られるのは、あんまり好きじゃないけど、声を出すのは好きなんだ。」と玉猫は言います。

羊君はしばらく玉猫を見つめました。そしてそうっと玉猫を蹴り上げました。

「まだまだ、もっと蹴って。出ないと声が出ないよ。」と玉猫は言います。

羊君は思いきって蹴りました。

「にゃぅぅうううぅうーー。」と玉猫は声をだします。

ぽん、ぽん。にゃぅううぅー。ぽん、ぽん。にゃぅううぅー。

そこに犬先生が帰ってきました。

「なかなかいい感じです。息もぴったり合ってます。すばらしい出来ですよ。この調子なら、、次回優勝は間違いないでしょう。」と犬先生が言いました。

玉蹴りの時間が終わりました。

でも、羊君の足にはいつまでも玉猫を蹴った感触が残っていました。

ぽん。ぽん。ぽん。ぽん。ぽん。

第2回~玉猫の巻き~  終わり。





© Rakuten Group, Inc.

Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: