ひつじごてん 第3回ーおとひめ7の巻きー

ひつじごてんー第3回ーおとひめ7の巻きー


ひつじごてんの羊君。
今日はそわそわしています。
いつも退屈しているのにめずらしいです。
そこにするするするっと山羊執事が現れました。

「羊君、もうすぐ竜宮が到着いたします。おでむかえなさいますか?」と山羊執事。

「うん。行く!」と元気いっぱいの羊君。

それを見て微笑む山羊執事。
「羊君は、ほんとうに乙姫7のことが、気にいられていらっしゃいますね」と山羊執事。

「7じゃないよ。ななと呼んで。」と羊君。
「はいはい、わかりました。」と山羊執事。

などと会話しながら、二人で、羊御殿のもっとも高いところの屋上に向かいました。

屋上にはすでに大勢の人が来ています。
今日は、21日ぶりに竜宮のやってくる日です。

「遅くない?」とそわそわしながら羊君がいいました。
「竜宮は正確な時間にきますよ。あと367秒です。」と山羊執事。

空は見事なまでに晴れ上がっています。そこに小さな点のようなものが見えました。その点はみるみる大きくなっていきます。

「ほら、竜宮がきましたよ。」と山羊執事。
「わかってるよ。」と羊君。

まるで満月のようにまんまるとした物体が浮いています。本物の月のようです。
その月が、屋上の真上にきました。
しばらく、ぷかぷかと浮いているだけだと思ったその月が、いきなり下に降りてきます。
そして地上スレスレまで来たかと思ったら、ぴたっと止まりました。
つるつると光る表面がキレイです。
つなぎめなどまったく見えない表面に、つっと亀裂がはしり、扉のように開きました。
その扉のなかに何人もの人がいます。
不思議な事にみんな女の人です。
その、女の人たちは小さな羽を背中に持っていてふわふわ浮きながらおりてきました。
いろんな所で、再会の挨拶が交わされています。
羊君は、きょろきょろしています。

「羊君―!」と遠くから、声が響きました。

扉から誰かが羊君に手を振っています。
「ななー!」と羊君も手を振りました。

ななと呼ばれた子は、まだ幼さの残る女の子でした。
ななが小さなはねを広げて羊君の方に飛んできます。
パタパタと他の女の人より小さい羽で飛んできます。
羊君は、ひたすら手を振っています。

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羊君とななは、羊君のお部屋にきています。
大きな大きな羊御殿ですから、羊君のお部屋も大きいのです。
そこにするするするっと山羊執事がお茶とお菓子を持っていました。

「別室に控えておりますので、ご用の際はおよびくださいませ。」と山羊執事。

するするするっと部屋を出ていきます。

「あいかわらずカタそうね。山羊執事は。」となながいいます。

「そうなんだ、いつも四角四面なんだ。」と緊張気味の羊君。

ななは座布団の上で正座していたのですが、足をくずして、うーんと伸びをしてます。
それを横目で羊君はどぎまぎしてます。
「竜宮の中は退屈だから困っちゃうわ。姉様たちはうるさいし。ここがいちばんね。」となな。

「そんなにうるさいの?他の乙姫候補たちは?」と羊君

「うるさいうるさい!だれが次ぎの乙姫になるかでいつもケンカ!わたしは乙姫なんかになりたくないのに巻き込まれるのよ。乙姫なんかになるより、ここでのんびりくらしたいな~。」となな。

「…なながよければずっといなよ」と恥ずかしそうに羊君。

「そういうわけにはいかないわ。私が乙姫候補を降りたら、私のまわりの人たちが迷惑するの。下手したらみんな打ち首よ。そんなことできないわ。やりたくなくてもするしかないのよ。」となな。

「その気持ちすごくわかる。」と羊君

「ありがとう羊君。あなただけよ。私をナナってよんでくれるのは。みんな7って番号でよぶの。姉様たちは番号で呼ばれるの誇りにおもってるの。乙姫候補だからって。でも、何人乙姫候補がいたって本当は名前があるのね。」となな。

「僕にとってななはななだよ。乙姫候補なんて関係ないよ。」と羊君。

「ありがとう羊君。」とななは言って羊君の角をさわりました。

「私、羊君がすきだよ。この角は特に好き。」そう言ってくるんと曲がった羊君の角の中を爪でカリカリと引っかきます。

カリカリ、クルクル、カリカリ、クルクル。

「この感触が好きなの」とナナ。

「僕もななの羽、触っていい?」と羊君。

「いいわよ。いくら触っても。」となな。
羊君はそっとななの羽を触りました。
すべすべさらさらと軽い感触です。

さらさらさらさら。

「ななの羽は柔らかいね。」と羊君。
「羊君の角は堅いね。」となな。

「ねえ、なな。乙姫候補、嫌ならいっしょに羊御殿の外に出ない?そしたら乙姫候補なんか関係ないよ。いっしょにいかない?」と羊君。

「羊君。さっきも言ったけど、そういうわけにはいかないの。自分だけ自由になったりするわけにはいかないの。私がいなくなったら困る人がいっ~ぱいいるの。全部関係ない!なんて言っていなくなるわけにはいかないの。」となな。

羊君はそれを聞いてがっかりしました。ななの羽の上で手が止まります。

「それにね。竜宮は空を飛ぶでしょ。それで21日周期でいろんなところを回るの。くるくるくるってね。それでわかるんだけど。羊御殿以外のところなんて見た事ないわ。この世界は羊御殿以外ないのよ。」となな。

「どんなものにも外はあるよ。だって空高くは羊御殿じゃない。だから外だってきっとあるよ。」と羊君。

「きっと空も羊御殿なのよ。そしてね、ここがきっと世界の中心なのよ。だって、他の所は21日周期でいったりしないの。他の降りる場所は一年に一回しか行かないのよ。ここだけなのよ。特別なのよ。」となな。

それを聞いて羊君はじっと考え込んでしまいました。
ななはいつまでも羊君の角を触っています。

クルクルカリカリ。

「ここが、世界の、中心なの。」となな。


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竜宮がまた、空に上がっていきます。

ななは竜宮に乗っていきました。

羊君はいつまでも竜宮を眺めています。

ななは竜宮に乗って行きましたが、羊君の角にはいつまでもななの感触が残っていました。

カリカリカリカリカリ。


第3回 羊御殿 おとひめ7 終わり。




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