海洋冒険小説の家

　　　　(４）

　　　（４）

「海賊衆は明国の交易船をおいかけていま～すぅ」
　「えーッ、なんだって？」
　助左衛門は、笑ってしまった。なるほど、海賊らしいな。この俺を待ち構えていたら獲物が、鼻先に現れたので、結局、海賊の本性を現して、そちらを追いかけたというわけだ。よし、それではこちらから、海賊を追いかけてやれ。
　助左衛門は、命令を出した。
　「船の針路をあの海賊船に向けてくれ」
　舵取りの熊の十蔵と船頭の首無しの吉兵衛（きちべえ）は眉毛をピクリと動かしただけで、すぐ指示に従った。そして南海丸は緊張の糸が張り詰めた。
　「さあ、戦（いくさ）だ」
　それぞれの部署で、一人一人が覚悟を決めた。
　助左衛門は考えていた。もう、この時代、天正七年の時代、海賊行為で稼ぐ時代ではない。きちんとした交易で稼げる時代でもあるのだ。ポルトガルの交易船が来るようになって、呂宋（るそん）より南の国々では明国や朝鮮国の交易船も多くなってきた。勿論、本来は国と国との間で、交易の取り決めがなされ、交易船が保護されておれば海賊行為などする必要はない。しかし、わが国は未だ戦乱に明け暮れ、天下に号令する覇者はいない。それでも、出来るところから、一人一人の商人はそれぞれの国の商人と信頼で結ばれ、相互に利益を、追求すべきなのだ。
　彼はその信頼、信用を実績で勝ち取ってきていた。彼はどこに行っても歓迎された。商品や代金をごまかしたことはなく、いつも正当に支払い、信用のおける商品を売ってきた。また、支払いの銀貨幣の丸板銀は、銀43匁をもって一枚にしており、堺の銭屋の極印を打った品質の良いものだ。わが日本国では、銭貨の相場は銀一枚の四十三匁に対し金は一両の四匁四分、銅銭（精銭）は約六貫文（６０００文、約60万円）である。黄金一枚というのは十両で一枚に造られており、その対価は銀十枚になる。銅銭では六十貫文になる計算だ。即ち金一に対し銀は約十の割合なのだ。銭屋は日本全国から集まる銀をはじめとする貨幣全てを品定めし、品質の悪いものは吹きかえられて、すなわち溶かしなおされて、銀貨の純度を上げて良い板銀にし、極印を打った。
　なのに、あの、馬鹿どもは生き方を変えられずに、海賊と交易の二股がまだまかり通ると思っている。助左衛門は帆柱の先端に翩翻（へんぽん）と翻る、真っ赤な細長い三角形の幟と、白地に緑色の縁取り、青色に染められた向き合った二頭の潮吹き鯨の船旗を見上げて、気持ちを引き閉めた。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（続く）

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