海洋冒険小説の家

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第二章 助左衛門、海賊と戦う

第二章 助左衛門、海賊と戦う

   (1)

 「放て!」
 助左衛門が叫んだ。合図の太鼓が「どーん」と叩かれた。
 「ドッカーン」
 大砲が火を吹いた。少し不ぞろいではあったが、片舷の十二挺の大砲が轟音と黒色火薬のもうもうたる煙を吐き出し、三貫目の鉄の弾がうなりをあげて、相手の船目指して飛んでいった。相手の船からも六挺の大砲から炎と黒煙の吹き出るのが見えた。甲比丹助左衛門と、船頭、船足軽の組頭、侍大将たちの何本もの遠眼鏡がその行方を追った。十二発の弾のうち、幸運な一発が相手の前帆の柱の先を打ち砕き、大きな縦帆が下に落ちていくのが見えた。向こうからの弾の一つが南海丸の帆の一つに穴を開けていった。敵船は右舷に帆が落ち、大砲が使えなくなり、行き脚を落とした。こんな大きな戦果を見れば遠眼鏡で見なくても足軽や水夫たちにも見えたに違いない。船全体から大きな歓声が起こった。侍大将がわめいた。
 「次の弾を込めろ、ぐずぐずするな」
 船内は大騒ぎになって海綿で砲腔を拭く者、火薬を詰める者、麻布の詰め物をする者、重い弾を入れる者、そして大砲の火移しに火薬を注いで砲門から大砲を突き出した。船はすでに甲板は海水で濡らされ、砂がまかれ、火に対する防御は出来ており、火薬は誘爆を避けるために、大砲一挺ごとに、船底の火薬樽から、紙の袋に入れられて、少年水夫によって運ばれていた。
 船はゆっくり進み、次の敵船に近づいた。その船は大砲十挺で、船首と船尾に一挺づつ、両舷に四挺づつ載せている三本柱のジャンクだった。大きさは南海丸より大きい。静まりかえって近寄ってくる。助左衛門の頭は冴えていた。静かなのは理由があるのだ。侍大将の河内(かわち)の六兵衛が横に来た。
 「六兵衛、これは切り込みがくるぞ」
 「そのようですな、おーい、六角坊に東風斎、大砲の砲弾の上に鎖弾や鉛弾を詰めさせてくれ」
 大砲組頭の六角坊と東風斎は下知をすぐ徹底させた。勿論ぬかりなく両舷の大砲全部にだ。
 次は船頭の首無(くびなし)の吉兵衛(きちべえ)に命令を出す。
                            (続く)



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