海洋冒険小説の家

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(8)「それと?」

  (8)


 権大納言が尋ね、公家たちが顔を前に突き出して聞き耳を立てた。
 「二年前、堺に帰ってきたとき突然、九鬼右馬允(注1)殿が南海丸に参られて、大砲を下に向けてぶっ放す手立てを聞かれました。大船は丈の低い小さな船が苦手で、大砲も下には向きませんので、切り込み専門の小船の敵と戦うのに苦労します。ただ、南海丸には、工夫がしてありまして、大砲を載せてある砲車の尻を持ち上げるようにしてあります。九鬼殿はそこをずーっと長い間調べておりました」
 「それで、どんな工夫や?」
 「エウロペでは、葡萄を絞って、葡萄酒を造るときに葡萄絞りの道具を使います。その道具にねじ(螺旋)をつこうています。把手(とって)をぐるぐる回すと、重いものでも上下に簡単に動くようになっています。それを、利用したんですわ。もちろん、これは、わたしどもが考えたんではなくて、京の陰陽師殿の考えたものですけど」
 「甲鉄船の餌食になったのはそういうわけか」
 「そうではないかと。そして小さな船を撃つにのに三貫目の鉄の弾は必要ないことも聞いてゆかれました。これは大砲の係りの小頭がうっかり口をすべらせたもので」
 「へーえ、どうするとゆうのや」
 「大きな弾の代わりに、鎖や鉄砲の弾を使うのです。数百発の弾と鎖が、いっしょに飛んでゆけば、すこし照準がずれても、一杯に広がって必ず当ります。小船などひとたまりもありません」
 「そうか、それで毛利の水軍が焙烙丸(注2)を使うひまがなかったわけか」
 「そのとおりにございます。もっとも、九鬼水軍にはあと三百艘ほど小船がありますので、そのうちの数十艘は焙烙丸の餌食になったのではないかと思われます」
 そのあと、権大納言に聞いてみた。
                    (続く)
[注1=くき・うまのじょう、嘉隆(よしたか)、注2=ほうろくだま、焙烙火矢{ほうろくびや}ともいう、手榴弾のこと。薄い銅版または紙で球を作り、その中に火薬を詰めうるしをぬったもの。短い火移し(導火線)に火をつけて、投げて爆発させる]



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