海洋冒険小説の家

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(2)いよいよ安土に

     (2)

 京の商人衆、公家衆に使いが出され、情報収集に努めたが、何ほどの収穫もなかった。仁助は安土に行きたがったが、それは皆で止めた。もし、仁助が日光殿の弟であることが分かれば、すぐ捕らえられるであろう。それは火を見るよりも明らかだ。とにかくこの大原屋で待つ以外にない。助左衛門は皆に、この宿から出ぬように言っておいた。無用の騒ぎは起こしたくない。大原屋の主には、彼らは信長殿の御用を勤める、南海屋の助左衛門の連れであること、村井長門守の御家来衆から問い合わせがあればそのように答えるよう、言い含めておいた。これで、少なくとも、長門守が勝手に彼らに手を出すことは無いであろう。打つ手は全て打ったし、これで、明日は少しは気を楽にして安土に行ける。

 五月二十九日、六兵衛、公秀殿とともに安土の城下に着いたのは申の刻(午後4時)に近かった。公秀殿は歳が歳だから、馬は走らさず、ゆっくり来たものだから、以外に時間がかかってしまった。宿で湯につかり、食事をし、ゆったりした時間を過ごした。宿のものの話では、日蓮宗の僧、宗徒が二、三百人、安土のあちこちの寺に押し込められているという。そのほかに騒ぎで死者が数人、けが人はかなり出たとのことであった。公秀殿は、
 「信長殿は、本気で法華つぶしをするのであれば、押し込めたりせず、すぐ殺してしまうじゃろ。なにか、考えがあるのじゃ。それにしても、宗論など、なんとつまらないことをしたものか。どちらが負けても釈迦の恥。そんなことよりも、もっとすることが他にあるのとちがうやろか、と言いたいわな」
 夕刻になって、菅家九衛門より、使いが参り、安土城天主の能舞台の準備が整った事を伝えに来た。盛大な盆踊りを近在の百姓衆にやらせるらしい。笛、太鼓、鼓などを使い、賑やかな舞台になるようだ。また、一昨日、京の法華宗の僧十三名の連名で、起請文を信長殿に出したことも知らせてくれた。それで、安土では坊さん以外は赦免になり、京でも全員赦免になったらしい。しかし、坊さんたちをどうするのだろうか。
                  (続く)



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