海洋冒険小説の家

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(9)信長の領国支配



 この間、法華衆徒は細川晴元や木沢長政、六角定頼と手を結んで、一向衆徒と各地で戦い、これを撃破し、京の町衆の中に大きな影響力を持つようになり、京は一時、町衆に支配された。天文五年の七月、危機感を抱いた比叡山の延暦寺衆徒と、法華宗を裏切った六角定頼らの軍勢は法華衆徒を打ち負かし、寺を焼いた。法華宗が再び京に戻れたのは、天文十一年以降だった。しかし、打ち負かされ、弱体化したとはいえ、信長は、法華宗の持っている潜在的な力を過小評価していなかった。

 過去、この世にいくつもの力を持つ宗派が生まれ、権力者を利用したつもりで、結局は利用され、邪魔になれば弾圧されて多くの犠牲者を出してきた。宗教者はこの苦い歴史から何を学んできたのだろう。本願寺も不利な戦の中で、権力と安易に結びつく愚を、十重二十重と取り囲まれた大坂御坊の中で感じていることだろう。

 信長はいつも時に追われているように見える。己の死期を知っていて、残された時をはかりながら、走りながら、生きているかのようだ。全ての事柄に目配りし、手を打ち、することは多く、時はどんどん過ぎる。

 信長の領国支配はこれからも、このようなやり方で続くのであろう。助左衛門は信長にふと、孤独を感じた。多くの家臣に取り囲まれ、それぞれの知識を結集させて戦い、領国を増やし、支配させながら、しかし、なんとなく孤独な姿。今、この時も、安土城天主の最上階の黒漆の間で、一人夢想の中に浸っているのではないか。助左衛門はその姿を想像した。
                 (続く)




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